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第四十六話【サラマンダーより速い模様】

 デール先生と他の魔族化した連中の自白により、魔族と組みスタンピードを起こした貴族は逮捕された。

 ハコレンのメンバーとして活動していた人物は全員罰を受ける事となるが、直接犯行に関わらなかった者や、実行犯の家族は罪に問われる事は無かった。

「モヒ・カーンは居るかゴルァ!」

 スタンピードに関する事件が一段落したので、私は冒険者ギルドに大手を振って帰って来た。そして、食堂の真ん中で大盛りの定食を食べているモヒカン男を見つけると駆け寄る。

「見つけたー!羽振り良いみたいだね」

「ダンジョン探索許可が降りたからな。今は入口近くに溜まっている魔物退治にひっぱりダコよ。俺がこうして美味いメシが食えるのも、弟に仕送り出来るのも、全部事件を解決してくれたお前らのおかげだぜ」

 私が公爵家や辺境伯家の人達と協力して、実行犯を捕まえた事や中心人物から自白を引き出した事は世間に知れ渡っていた。


『雑炊さんは今回のMVPとして世間に広めたいですわ。雑炊さんが事件解決に大きく関与したとする事で、ポタージュ男爵の罪を軽くする事に繋がるのですわ』


 ってフリーダさんが私を持ち上げてくれたおかげで、冒険者ギルドの人々の視線も以前とは正反対のものとなっていた。

「ヒャッハー!ここはお前が居て良い場所だぜー!」

「もっと褒めて!」

 私はモヒカン男と握手をして別れると、鼻高々で食堂の中を練り歩く。

「皆さん、私がスタンピード事件を解決に導いたカトリーヌン・ライスでーす!」

「雑炊、流石に調子乗りすぎだよ」

「これも、男爵様の減刑の為だよドナベさん。さーて、それじゃあ私も久しぶりにダンジョン潜ろうかな」

 冒険者のダンジョン立ち入り制限の結果、現在はどこのダンジョンも魔物が増加中。あと少し事件解決が遅かったら、今度はマジモンのスタンピードが起こってもおかしく無かったとの事。そんな訳で、掲示板には高額依頼がてんこ盛りだった。

「ドナベさん、どれを受けたらいいかな?」

「F級で受けれる仕事の中で一番高いやつ選んでおきなよ。今の君なら余裕でしょ」

 ドナベさんのお墨付きを貰った私は、それに從い一番報酬が良いF級のお仕事を受けに行く。

「お姉さん久しぶり!この仕事受けさせて!」

「あら、駄目よ。今の貴女にはこの仕事はちょっとオススメ出来ないわね」

 受付のお姉さんは、依頼書と私の冒険者カードを交互に見てそんな事を言った。

「お姉さん、私もう無罪確定したんだよ?ダンジョン入れてよ」

「ごめんなさい、勘違いさせちゃったわね。私がオススメしないと言ったのは、そういう意味じゃ無いのよ。ちょっと待っててね」

 受付のお姉さんは部屋の奥へ移動し、ゴソゴソと引き出しの中を探ると、茶色いカードを私に差し出した。

「お姉さん、これは?」

「D級冒険者に渡す、ブロンズカードよ。おめでとう雑炊ちゃん」

「え…!や、やったぁー!ありがとうございますペロペロペロペロ」

 私は銅のカードを舐め回しながら、お姉さんにお礼を言う。

「ペロペロ、あ、でも何で私D級なんですか?Fの次はEじゃ?」

「二階級分の功績が一気に報告されたからよ。スタンピード解決に魔王軍幹部撃破、おまけに公爵家イチオシの学生で学園ではA組昇格間近。そりゃあ、FやEにはしておけないわよ」

「そうなんだ!Dって凄い?冒険者学園一年でDって、私凄い?」

「貴女の凄さは、これを見たら分かるわよ」

 受付のお姉さんは、二階級特進して喜んでる私に一枚の冊子を手渡した。冊子の表紙には『ランク別・冒険者早見表(学園所属者編)』と書いてあった。

「サンキューお姉さん!二人で確認しとくね!」

「二人?」

 私は受付のお姉さんから貰った物をカバンに詰め込むと、トイレに入り個室で冊子を開いた。

「ステータス(地位)オープン!」

【S級】

 フリーダさん

【A級】

 ブーン様

【B級】

 エレン先生、リー君、タフガイ

【C級】

 私の知ってる名前無し

【D級】

 私、触手先輩

【E級】

 トム、スグニ、名前だけは知ってる生徒何人か

【資格剥奪】

 デール先生(元C級)

「フリーダさんS級ー!!ブーン様A級ー!!」

 ランク表を見て私の延びまくっていた鼻が一瞬で折れた。

「あの二人のランク明らかにおかしいよ!一体何をしたっていうの!」

 SやAは国の発展に多大な貢献をした英雄的存在に与えられるランクだ。学生の身の二人がどうやってそこに至ったと!?

「隠れたダンジョンを十以上発見。それの探索をして安全に採掘出来る地図を完成させたからだよ」

 ドナベさんが冷静に二人の偉業を説明する。それは間違いの無い事実。冊子にもそう書いてある。

「チクショー!もっともっと活躍して追いついてやる!」

「いいね。そういう心が頑丈な所は主人公してるね。アイテムボックスは未だに使えないのに」

「うるさいよドナベさん。ダンジョン行くぞオラァ!」


 そんな訳で、もっともっと活躍せねばと気合を入れ直した私は、D級ダンジョンで稼ぎを行うのだった。


「闇の精霊よ、汝に近しい者どもを呼び寄せたまえ。ダークスタンプ」

 これまで雷魔法一本伸ばしをしていた私だったが、この度遂に闇魔法を習得しました。

 それがこれ、ダークスタンプ。使用すると一定時間足裏から瘴気を発生し、魔物を引き寄せる効果がある。ハッキリ言って戦闘には役に立たないし、稼ぎに使おうにも呼び寄せる数や種類を選別出来ないハズレ魔法だ。

「雑炊、本当にその作戦上手く行くの?」

 私がこれからやろうとしている稼ぎに対して、ドナベさんが心配そうに語り掛ける。そう、今回の作戦はドナベでん発案では無い。一から私一人で思い付いたものだ。

「いつも通り頭の上で見ててよ。よーし、イクゾー!」

 ダークスタンプを唱えて足裏から瘴気を出した私は、地面に置いた便座の上に空中ダッシュ状態で乗る。

「よっしゃ、狙い通り!」

 私が便座に乗った後、足裏から出ていた瘴気は便座の真下から吹き出していた。このダークスタンプという魔法、裸足の時は直接足裏から、靴を履いてる時は靴底から瘴気が出ているから、足裏と地面の間に敷物があれば、その敷物(今回の場合は便座)から瘴気が出ると予測したらこれが大当たり!

 空中ダッシュの勢いと聖と闇の反発作用によって、下水道を便器で爆走していた時の状況が再現された。

「どりゃりゃりゃー!」

 便座に乗り、フロア内を高速周回する私は、瘴気を嗅ぎ付けて寄ってきた魔物を次々と棒でしばき倒していく。

「うおっ、何だあの土鍋を頭に乗せて便座の上に立って馬車並に動き回る変なガキは!?」

 同じフロアで探索をしていた冒険者が私を見て驚く。

「ご存じないのですか?私こそが芋煮会で休学をし、学年トップの座を駆け上がってる乙女ゲームヒロイン、雑炊だよ!」

 私の自己紹介を聞いた冒険者は、何言ってるのか分からないといった顔をしていた。私も勢いで言っただけなので、自分でも何言ってるか分からなかった。まあ、何はともあれD級冒険者としても私は問題無く魔物退治をこなし、しかも、一日の撃破数を大幅に更新した。

「凄いよ雑炊。サラマンダーよりはやーい!」

「それ、どんな意味の言葉?」

「移動力と殲滅力の高いゲームキャラに対する最高の褒め言葉さ」

 言葉の意味は良く分からんが、ドナベさんもこの結果にはご満悦だった。

 なお、高速移動しながら魔物を倒して放置していたので、死体の半分近くは回収前に他の冒険者に持ってかれた。

「オーマイゴッド!」

「やっぱ雑炊は雑炊だったね」

「いいもん、これでも過去一の稼ぎだもん!」

「アイテムボックスがあれば、こんな取りこぼしも無いんだけどね…」

 また、アイテムボックス。最近ドナベさんはしつこくアイテムボックスはまだ使えないのかと聞いてくる。過去に伝説の勇者しか使えなかった収納魔法なんだから、私が使える方がおかしいって何度も言ってるのに、本当にしつこい。

「無いものねだりしても仕方無いって、昔ドナベさんが言ったじゃない」

「そうだっけ?」

「あー、もう!この話やめ!帰るよ!」

 バッグに詰めれるだけのダンジョン資源を詰めて、私はギルドへ戻った。

「お姉さん聞いてよー!ダンジョンを高速で走りながら、敵を倒してく手段思い付いたんだけどさー」

「他の冒険者に死体持ってかれちゃったんでしょ?」

「そーそー、…何で知ってるの?」

「その冒険者が大量の魔物の死体をここへ運び込んで言ったのよ。『これは、カトちゃんの手柄だ』って。という訳で、ハイ、これ報酬ね」

 何とびっくり。魔物の死体は持ち逃げされたと思っていたが、キッチリシッカリ報酬になって帰って来た。ありがてえ!

 ひーふーみーよーいつ。一万エン札五枚と小銭を受け取った私は、受付のお姉さんにその冒険者の事を聞いてみた。

「お姉さん、魔物持ってきた冒険者ってどんな人だったの?」

「言えないわ。その男子学生から自分の事は言わないで欲しいって言われて…あ!これも言っちゃ駄目だったわ」

「ほーん、大体分かったよ。お姉さんありがとねー!」

 両手で口を閉じて顔を真っ赤にしてるお姉さんの可愛いやらかし顔を鑑賞した後、私はその場を後にした。

「タフガイには今度お礼しないとね」

「雑炊、何でタフガイだと思ったのさ?」

「お姉さんの口ぶりから、私が取りこぼした死体を運んだのは男子学生一人。たった一人であれだけの量を運べるのはタフガイぐらいでしょ」

「あー、そっか」

 私の名推理を聞き、ドナベさんは頷いた。

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