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第四十五話【さらばシュビトゥバな模様】

「フリーダさん、大変だったんだね。誰よりも率先して魔族に立ち向かっていたのに、逆に魔族と組んでいるなんて言われて」

「全くそうですわよ!魔王が出現する時期を算出して今も正確な日時を計算し続けてるのも、冒険マートで赤字覚悟のセールを毎週行ってるのも公爵家の財力あってこそなのですわ!魔族と組んでるなら、こんなのやんねえですわ!」

 今まで相当ハコレンに対して鬱憤が溜まっていたのか、ここぞとばかりに不満を爆発させる。

「ですが、ハコレンが犯罪者となった今、我が家の尋問室でたっぷり痛めつけてやりますわ」

「尋問の目的は、痛めつける事じゃ無いでしょ」

 悪役令嬢っぽい顔で笑うフリーダさんに、私は真っ当なツッコミをする。

「それは分かってますわよ。彼らもまた魔王軍の将軍シュビトゥバの犠牲者。丁重にいたぶりますわ」

「本当に分かってるのかな…。そーいや、今回の犯人達って全員この家で尋問されてるの?」

「ええ。別館に専門の部屋がありますわよ」

「じゃあさ、でかツノに会わせて。私が捕まえたんだから、いいでしょ?」

 フリーダさんは、部屋の中に入らずガラス越しで会話するだけならと許可してくれた。私はフリーダさんの案内で尋問室へと向かう。

「雑炊さん、あの扉の向こうがシュビトゥバを尋問している部屋で、その手前が面会用の部屋ですわ」

「はーい。失礼しまーす」

 部屋に入ると隣の部屋との壁がガラス板になってて、ガラスの向こうではパンツ一丁のでかツノが水浸しでぐったりしていた。

「なんでアイツ濡れてるの?」

「冷水を浴びせるのは、尋問の基本ですわよ。死ににくいし、後遺症も少ないけど耐えるのはキツいですわ。ですが、流石は将軍。捕まってから現時点まで何一つ情報を吐きませんわ」

「ふーん、そんじゃお話するからフリーダさんは横で聞いてて」

 私はガラスの前に備え付けられていた椅子に座り、でかツノに話し掛ける。

「もしもーし、聞こえる?」

「雑炊、また邪魔をしに来たのか」

 私が呼び掛けると憎々しげな返答が来た。

 おし、問題なくお互いの声は聞こえるし姿も見えるみたいだね。 

「取り敢えず、人間の姿に戻ってくれませんか?デール先生」

「知っていたのか、そうか…」

 私がでかツノのの正体を告げると、彼は観念しその姿を人へと変えた。その見た目は一年C組の担任をしていたデール先生で間違い無かった。

「ですわー!?ですわですわ、ですわですわ?」

 でかツノの正体を見たフリーダさんは椅子ごと後ろにぶっ倒れて、私に詰め寄った。

「ですですわ、でででですわ?ですわ?」

 どうやらフリーダさんは、でかツノの正体について全く別の予想をしていたみたいだ。

「エビチリ伯爵が本命、対抗でジロウケイ子爵だと思ってましたのに。何で平民の教師が」

「フリーダさんが分からなかったのもしょうがないよ。ずっとA組に居て、この人と接点無かったもんね」

「雑炊さんは、どうしてこの教師が犯人だと分かったのですの?」

 私はでかツノがデール先生だと分かった理由を説明した。

 最初に違和感があったのは、でかツノが私に狙いを定めた事だった。フリーダさんとの戦いを避けたのは良いとして、迷わず私を突破して逃げようとするのは、私があの場に居た中で弱い方の人間だと知ってる存在だ。しかも、私を見て雑炊と言ってきた。渾名まで知ってるとなると、顔見知りであるのはほぼ確定だ。

 でかツノが知り合いだと思った私は、それが誰かを推理してみた。ここで大きなヒントとなったのは、男爵様を仲間に引き入れた事だ。私の休学の件を聞かされたと男爵様は言っていたけど、男爵様がハコレンにスカウトされたのは私が休学した直後。情報の伝達があまりに早過ぎる。この事から、ハコレンのリーダーは冒険者学園の情報を自在に知る事が出来る人物かつ、男爵様が無能なのを知らない人物だと絞り込んだ。

 校長先生は学生時代の男爵様の無能を良く知っている。エレン先生は若い頃に男爵様に会っている。寮母さんが犯人だったならもう少し上手く立ち回れたはず。

「…で、一番怪しかったのがデール先生だった。私の休学を真っ先に知る事が出来たし、ペーペーの新米教師だから、暗躍するにも都合が良い立場だったし」

「結局は勘じゃないですか。相変わらずノリで生きてますね雑炊は」

「先生が正直に正体現してくれて助かったよ。証拠なんて何も無かったし」

 私の推理を聞いたデール先生は、苦虫を噛み潰した様な顔をした。

「デール先生、何でこんな事をしたの?教えてよ。生徒からの質問には答えるのが教師の義務だよ」

「貴女はもうC組の生徒ではないし、先生は犯罪者ですが、まあ良いでしょう。ここで最後の授業というのも悪くは無いですね」

 デール先生は立ち上がると、ブカブカのパンツがずり落ちるのを手で引き上げながら自白した。

「最初に訂正しておきますが、先生はハコレンの代表ではありません。ハコレンを纏めていたのは、フリーダさんの推理通りエビチリ伯爵です」

「ならば、どうして貴方がシュビトゥバと同化したのですわ?」

「生贄ですよ」

 デール先生は、パンツを持ち上げながら話す。

「ハコレンのの貴族が管理する小さなダンジョンに、突然シュビトゥバが現れたのです。地上で活動する為の肉体を提供すれば、お前らの嫌いな公爵家を潰す手助けをしてやると」

「シュビトゥバも必死だったのですわね。公爵家を乗っ取って王国を支配する事に失敗したから、対抗勢力に協力する事にしましたのね?」

「はい。ですがシュビトゥバは知らなかったのです。ハコレンは本気で公爵家を倒すつもりなんて無い、ただの負け犬の集まりだという事を知らなかったのです」

 私は政治の話はさっぱりだけど、ハコレンが公爵家の代わりになるのは無理って事ぐらいは分かる。人間社会に触れてこなかったてかツノは、トップ勢力とそれ以外の差にさぞ驚きガッカリしただろう。

「ハコレンの代表であるエビチリ伯爵は、保身に走りました。シュビトゥバを打倒する事も、王家や公爵家に情報を伝える事も、開き直って自分がシュビトゥバと同化して力を得る事も出来ませんでした」

「それで、何で先生が魔族になったの?」

「シュビトゥバに皆殺しにされない為には、誰かが犠牲になるしか無かったのです。平民の若い男で、潜伏するのに都合の良い肉体があったからそこに入れた。それだけの理由ですよ」

 デール先生は両手を広げ、己の肉体を見せつける。パンツが完全に落ちて下半身丸出しになろうがお構いなしだった。

「そしてこの通り、先生は魔族となったのです!」

「分かったからしまえ」

「汚ねえもん見せるなですわ」

 フリーダさんが天井から伸びる紐をぐいっと引っ張ると、あっちの部屋の壁からノズルが出て来て、デール先生に向かって冷水が発射された。

「つべたいー!」

「パンツ履いたら放水止めますわ」

 デール先生は、ふらつきながらパンツを拾い、それを履き直すと自白を再開した。

「シュビトゥバは何の権力も無い先生と同化するのを渋りましたが、逃げ腰の老人よりはマシだと妥協し、先生の野心を刺激しスタンピードを起こさせたのです」

「野心?デール先生にそんなのあったの?」

「先生も人間ですから。スタンピードが起これば、責任を感じた校長や教頭が辞任して、先生の役職が繰り上がると思ったんですよ」

「そんな下らない理由で、スタンピード起こしましたの?」

「はい!先生は、B組やA組の担任、あわよくば学年主任になりたかったのです!」

 グッとガッツポーズし力説するデール先生。あ、パンツから手を離したから、また下半身が露出された。

 フリーダさんは、無言で天井から吊るされたロープを何回も引く。デール先生の閉じ込められている部屋のあちこちからノズルが出て来て、全方位から高圧水流が発射された。

「雑炊さん、戻りますわよ」

「あ、うん」

 水責めされたデール先生を放置して、私達は本館へ帰った。

「あーあ、ショックだよ。自分の担任だった人が、あんなどうしようも無い奴だったなんて」

「雑炊さん、魔族に乗っ取られた人間というのは、大なり小なり欲望を刺激され自分本位になるものですわ。仮に私やお父様がシュビトゥバと同化していたなら、今の地位を利用してガチで王国牛耳ってましたわ」

 フリーダさんは、やたらリアリティのある口ぶりで、デール先生をフォローする。

「でも、フリーダさんはさっきデール先生をゴミムシの様に扱ったじゃない」

「それはそれ、これはこれですわ。雑炊さん、魔族は人の負の感情を糧にして利用し支配しようとするのは知ってますわね?」

「知ってる。子供の頃、おっかさんに何度も聞かされたよ」

「なら、魔王の腹心と一体化しながら、学年主任になりたいというちっぽけな野望しか抱かず、スタンピードを成しただけで満足しそれを指揮せず放置、自身も極限まで弱体化していたデール先生は、実はとても心の清らかな人なのかも知れませんわ」

 フリーダさんは皮肉たっぷりにそう言った。

「デール先生の自白、どこまでが本心で、どこまでがでかツノの影響かは分からない。けど、一つだけ確実に言える事があるよ」

「何ですの?」

「教え子の前で、二回もフルチンになったのは絶対わざとだ」

「失うものが無い故の暴走ですわね」

 私達は心の底から笑った。今度こそ、本当にお互い隠し事一切無しの心からの笑いだったと感じた。

「クエーヘッヘッヘ」

「ホーッホッホッホ」

 さらばシュビトゥバ、フォーエバーデール先生。貴方のおかげでフリーダさんと本当に仲良くなれた気がします。


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