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第四十三話【想定外のエンカウントな模様】

「何でセーフって言えるの!?だってこいつら怪しいじゃない!」

 私はイロモノトリオを指差して、フリーダさんの判断を真っ向から否定した。

「スグニは何か良く分からかいコネ持ってA組に居たし、触手先輩は触手先輩だし、トムはモブなのに私やフリーダさん達と妙に縁があるし!」

「世間的に一番怪しいのは貴女ですわよ、雑炊さん。ですが、ここに居るメンバーがシロだと判断した理由の説明は必要ですわね」

 フリーダさんは私に厳しめのツッコミをしてから、説明を始めた。

「結論から述べますと、このイロモノトリオ+1は、怪しかったから真っ先に調べられてシロだと分かったのですわ。雑炊さんが取り調べされてたのと同じ日かその少し後に彼らはそれぞれ尋問を受けて、身の潔白を証明したのですわ」

「お前らも捕まっとったんかい!」

 うんうんと頷くイロモノトリオ。

「まず、五月の時点で魔族と接触があったジョーダン先輩ですが、治療の後から半年間観察され続けており、芋煮会の時に後輩にパワハラした事以外のおかしな点は見つかりませんでしたわ」

「グロロー、毎日見張られてるおかげで、ハコレンと無関係だと分かったのはラッキーだぜ」

 先輩、本当にそれはラッキーなんですかね?

「そして、残り二人も挙動不審だったので、事件後真っ先に取り調べを受けて無罪放免なのですわ」

「俺様のチーズドリア顔が初めて役に立った訳よ!」

「昔から、道歩いてるだけで職質されるんだよなー」

 スグニ…トム…、強く生きろ。

「と、そんな訳でハコレンでは無いと確定した面子で今からハコレンのアジト叩きに行こーぜって事なのですわ」

「イロモノトリオがシロ確定なのは分かったけど、ハコレンがどこの誰か分かるの?」

「それについては、私達が説明しよう」

 ブーン様達が立ち上がり、フリーダさんから説明役を引き継いだ。

「雑炊の父、ポタージュ男爵の証言から魔法のフードで顔を隠しているから正体が分からないとの事が判明した。これこそが正体に近付くヒントだったのだ」

「どゆこと?」

「そんな希少なアイテムを組織の人数分作ったのなら、ダンジョン資源の取り引き記録から犯人を割り出せる。それに気付き、私はリーとタフガイの実家に協力を頼んだのだ」

 えーと、確か攻略対象の設定では、リー君の家はマジックアイテムの研究と販売をしていて、タフガイは一家揃って荷物持ちだっけ。

「ブーン様からの頼みを受けて、ラオ商会の帳簿を確認すると、確かに一年以上前に大量の素材の発注がありました。砂トカゲの尻尾、ミラー樹液、ごるびんの皮。これらは顔を分からなくするフードに必要な素材です」

「そんで、あまりに量が多いから、オレと親父が手伝って運んだんだ。今でも、その場所は覚えんよ!」

 なるほど、ハコレンが着ていた服の流通経路から、彼らの正体に辿り着いていたという事か。

「雑炊よ、ここまでの話は理解したか?」

「なんとか。A組の友情パワーで犯人が分かったんですよね?」

「そうだ。後は、その貴族の所へ行きフードの材料を購入した事を問い詰めれば解決するだろう」

「そうですね。でも、それってもう騎士団に任せれば良いのでは?」

 スパーン!

「へぶらっ!?」

 私が当然の疑問を口にした瞬間、フリーダさんがわざわざ私の傍にまで来てビンタをした。

「フリーダさん、突然何を」

「雑炊さんは悔しくありませんの?貴女が二日と9600エンをドブに捨てたのは誰のせいか忘れたのかしら?」

「誰のせいか、…フリーダさんかな?」

 スパーン!

「こんな時に冗談はおよしなさい。ハコレンのせいですわ」

「そ、そうでひた」

 うっかり、自分の推理に基づく犯人名を言ってしまった。幸いにも普段の言動がアホだったおかげでボケの一種として流して貰えたっぽいけど、危なかった。

「いい?私達は前からハコレンを殴りたかった、貴女とそこの三人はハコレンのせいで痛くない腹を探られた。そして、ハコレンは犯罪者となった今、私達がする事は?そう、直接乗り込んでぶっ潰すのですわ!ホーッホッホッホ!」

「だとしても、少人数の子供だけでとか、相手を舐めすぎだよ!」

「ご心配なくてよ!お父様の私設部隊で犯人の家にドカーンと乗り込んで、逃げ道を誘導して、逃げた先で私達がドカーンですわ!」

「あ、一応保護者に説明通して、十分な戦力確保した上で行うんだ。じゃあやる!」

 私はフリーダさんの手を握り、参戦の意思を伝えた。この事件は全部フリーダさんの自作自演ではないかと疑って掛かってる最中の私だけど、フリーダさんがクロならハコレンの正体は公爵家に操られた末端組織、フリーダさんがシロなら正真正銘の暴走したハコレンが相手となる。

 つまり、どちらが正解でも『ハコレンっぽい奴ら』は悪党なのは確定しており、どちらが正解でもフリーダさんの信用を得て損は無い。

「それでは、雑炊さんも賛同しましたので、奴らにざまぁしに行きますわよ。エイエイオーですわ!」

「「「エイエイオー!!!」」」


 で、エイエイオーから半日後。私達は草むらでしゃがみ込んでいた。

「フリーダお嬢様、出番が来たら信号弾で合図しますので、暫くはここでお待ち下さい」

「ええ、ご武運をお祈りしてますわ」

 公爵家の精鋭達が屋敷に入って行くのを見届けると、フリーダさんは私達が隠れている植え込みに戻って来た。

「雑炊さん、もうすぐ出番ですわよ。団子の準備はよろしいくて?」

 ドレスに葉っぱや木の枝をいっぱい付けた姿のフリーダさをが、私に話し掛けて来た。

「フリーダさん、何で私に団子持たせてるの?」

「大貴族が世直しする時は、うっかりキャラに団子を持たせるものなのですわ」

「誰がうっかりキャラじゃい」

 そんな馬鹿話をしている間に、貴族の屋敷に強そうな大人が何人も入って行く。彼らが全員屋敷に入った後、ドカドカと何かを壊す音が響き、破壊音は次第に大きくなっていく。そして遂には屋敷全体がゆらぎ、端から徐々に崩れ始めた。

「フリーダさん!これ、ヤバくない?今、ハコレンのボスの屋敷の中でフリーダさんやブーン様達の配下が戦ってるんだよね?」

「公爵家や辺境伯家の戦闘員は、屋敷の倒壊に巻き込まれた程度でやられる程ヤワじゃありませんわ。それに、いざとなれば後方待機している私達に信号弾で合図を送る事になってるでしょ?」

 そうだ。確かそんな段取りだった。悪党を一網打尽にしたなら青色、撃ち漏らしが外に出てしまったら紺色、スタンピードと関係無い貴族だったら濃い紫色、危険なので避難しろならドドメ色という取り決めだった。

 そして、屋敷が半壊した頃、空に向かって信号弾が発射され、光と煙が広がった。

「ド、ド、ドドメ色ですわー!?」

 空に映ったのはどう見ても紺色だった。

「撤退ー!撤退ですわ!」

「しっかりしてよフリーダさん。紺色だから、逃げ出した犯人を捕まえないと」

「で、ですわっ!?だってあの色はドドメ色ですわよね?雑炊さんの田舎ではあれを紺色と呼ぶかも知れませんが、どう見てもドドメ色ですわよ?」

 そんな事は無い。田舎でも都会でも紺色は紺色である。

「皆、アレは紺色だよね?」

 私が男連中に確認すると、A組からもB組からも、あれは紺色だと返事が来た。

「ま、まあ言われて見れば紺色ですわね」

 フリーダさんも自分が勘違いしていた事を認め、撤退準備を辞めて目を皿の様にして屋敷から出てくる貴族を探し始めた。信号弾をちゃんと見てなかったのか、紺とドドメを逆に覚えていたのかは知らないが、フリーダさんでもこんな凡ミスするんだなって思った。

「いや、アレはドドメ色でしょ」

 ドナベさんが小声で呟いたが、彼女の場合は異世界人だから色彩感覚か色の名称が違うのだろう。

「ドナベさん、今は犯人を捕まえるのに集中して…来たっ!」

 完全崩壊寸前の屋敷から、こちらへ向かってボロボロのフード付きの服を着た人物が走って来る。

「公爵令嬢フリーダだと!?くそ、やるしかないのか!」

 私達に気付いたフードの連中は、足を止め服を脱ぎ捨てた。

「こ、こいつら全員化け物だ!」

 触手先輩が悲鳴を上げる。

 フードの下から現れたのは何れも人間では無かった。二足歩行こそしているが、顔が牛や豚だったり、全身腐敗して小さな触手が身体を動かしていたり、腕や目が三つも四つもあったり。

 その中でも目を引くのは、身長三メートルくらいありそうな、単眼でツノの生えた大男だった。こんなの、教科書や図書館でも見た事が無い。

「うっそだろ。何であいつが!早すぎるって!」

 単眼でかいのを見て、ドナベさんが驚いていた。

「ドナベさん、あのでかいのを知ってるの?」

「シュビトゥバ将軍。魔王軍で二番目に強い奴だよ!」

 名前と肩書きを聞いただけで理解した。こんな所で出会う敵じゃ無いって事を。

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