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第四十二話【悩んていてもイベントは進む模様】

【このスタンピードの犯人はハコレン(反公爵派連合)!?】

『この度発生したスタンピードは、人為的なものである事がブルーレイ公爵の調査で明らかとなった。実行犯の一人、ゲオルグ・フォン・ポタージュ男爵の言葉によると、ハコレンを名乗る連中が下水道に魔物を集めて地上へ解き放ったとの事。これを受けて冒険者学園校長は、生徒をハコレンのテロリズムから守る為に無期限休校を発表した。これは、冒険者の育成が国力の維持に繋がる王国にとって大きな痛手である。一日も早く主犯グループが見つかり学園が再開される事を心より願う』


 私はギルトに貼られた壁新聞を読んで、何とも歯がゆい気分になった。この世界に生きる普通の人々からしたら、この新聞の内容が真実と思うしか無いのだろう。

「ギギギ、この記事書いた人は、公爵家が全ての事件の黒幕というネタバレを知らないからこんな的外れな事書いてるんだ。あー!今ここで本当の事を言えたらどれだけスッキリするか!」

「その意見には僕も賛成だよ。自分は頑張って真実に辿り着いたと思ってるアホに、本当の事が言えたらどれだけ楽か!でも、今は言えないー!ギギギー!」

 私とドナベさんは歯ぎしりをシンクロさせながら、壁新聞を睨みつけていた。

「ともあれ、『ハコレンと思われてる実行犯とそのバック』を全員叩きのめさ無いと、私も他の真っ当な貴族様や冒険者さん達も、普通の仕事すら満足に出来ないよね!」

「その通り!『ハコレンの奴ら』を見つけて止めないと!」

 私はギルド内の作業所でサンダルを組み立てながら愚痴る。

 ハコレンを名乗る連中のやらかしたスタンピードは、魔物による被害こそほぼ無かったものの、冒険者業界に大ダメージを与えた。

 なんせ、人間が魔物を操って王都を襲ってみせたのだ。しかも、その犯人はどこの貴族なのか、どの冒険者がその貴族に従ってるのかも不明ときたもんだ。

 その結果、セキュリティチェックはより厳しくなり、私みたいな信頼ゼロの低ランク冒険者は、こうしてギルド内で単価の安い製造作業をするぐらいしか出来なくなってしまった。

「受付のお姉さーん!サンダル百足完成したよー!」

 私は出来上がったサンダルを箱に詰めて、受付のお姉さんの所へ持って行く。

「あ〜ら、早いわねぇ。それに、質も申し分無いわ。貴女、こういう仕事以前経験していたの?」

「暇を見ては干し草作って、プレゼント用に編み込んでました」

「…ふーん。ま、まあ趣味が仕事の役に゙立って良かったわね。ハイ、これ報酬の買い物券と次のお仕事の紹介状よ」

 サンダル百足組み立てて、報酬は千エン分の商品券だった。干し草作りの経験のおかげで二時間で出来たけど、時給にして五百エン。こんななら、ガマ潰していた方がまだコスパが良い。

「うう〜っ、ひもじいよぉ。せめて、現金で報酬が欲しいよぉモグモグ」

 私が涙ぐみながら、商品券で買ったカロリーバー(オイモ味)を齧っていると、背後から視線を感じた。

「モグ?」

 振り返ると、いかにもやられ役風なモヒカン男が、頭の毛の生えてない部位全てに血管を浮き上がらせてこちらを睨んでいた。私が睨み返すと、男はこちらへ歩いてきて私の横に座った。

「…何の用ですか?」

「お前、逮捕された男爵の娘だろ?俺達の食い扶持を奪っておいて、良く堂々とギルドでメシが食えるなあ?」

 モヒカン男は的外れな指摘をしてきた。なので、私はそれを正してやる事にした。

「このオイモバーは、私が今日ここで働いて得た報酬で買ったものです。あげませんよ?アンタも冒険者なら、物乞いなんて辞めた方が良いですよ」

「俺はカボチャバーの方が好きだ!じゃ無くて、誰がテロリストか分かんねーこの時期に、一番怪しい奴が堂々とギルドに来てるんじゃねえよ!無用な争いが起こる前に帰りな!」

 あ、これがドナベさんの言っていた『ヒャッハー、ここはお前の様な奴が来る場所じゃ無いぜぇ〜帰りな!』系チンピラのイベントか。何で今頃になって来るんだよ。冒険者登録の時に来いっての。あーもう、イライラしてきた。

「私、色んな人からあの男爵と親子かと聞かれるけど、只の領主と領民の関係ですよ?」

 私は立ち上がり、モヒカン男の目を真っ直ぐ見つめながら、丁寧に丁寧に弁明をする。

「あの人が有罪だったとしても、私には一切の責任は有りません。仮に貴方の地元の貴族が世間を騒がせているハコレンの仲間だったなら、貴方は共犯者ですか?」

「いや、それは…」

 モヒカン男は私から目を逸らすが、私は回り込んで顔を掴み、力尽くでこっちを向かせる。

「アンタ達が今辛い目に遭ってるのは私にも分かるよ?きっと、アンタはこの場に居る皆の思いを代弁してくれたんだよね?だから私も、今この場でアンタに返答してあげるよ…ライトニング!」

 私がモヒカン男の顔に手を置いたまま雷魔法を唱えると、男は白目を剥いて気絶した。電撃を浴びせた訳では無い。ライトニングと口で言っただけだ。

「セイッ!」

 スパーン!

 私はビンタでモヒカン男を目覚めさせると、口の中にオイモバーを押し込んだ。

「こんな気分になるのも、事件解決までの間だから、お互い我慢して仲良くしよ。ね?」

 モヒカン男はコクコクと頷くと、オイモバーを噛み砕いて飲み込み、ポケットからカボチャバーを取り出して私に手渡して去って行った。

「カボチャバーも美味しいなー、モグモグ」

 面倒臭い奴をあしらった私は、カボチャバーを食べながら次の作業現場へ向かう。

「雑炊、さっきのって悪役令嬢の真似?」

 私が友情の証として受け取ったカボチャバーを食べ終わるのを見計らい、ドナベさんがさっきのやり取りについて質問してきた。

「うん。このモヒカンどうやって懲らしめてやろうかと考えでたら、フリーダさんのやり方が頭に浮かんでさ。似てた?」

「似てるって言って欲しいの?」

「欲しい。あの人は私が知ってる中で一番強くてカッコよくて、それで」

 倒さなきゃいけない人だ。

「結構優しい所あるし」

 でも、裏で沢山悪い事をしている。

「今だってスタンピードの後始末を、親子揃って頑張っているし…」

 それは、自分達を絶対正義とする為の自作自演。

「…」

「どしたの、雑炊?」

「思い返すとさ、フリーダさんって私の前で良い事しかしてないよね」

「ゲームのラスボスってそーゆーもんだよ。巨悪を達成する為に最初は善行を振り撒いて人々を信頼させるんだ」

「そっか、そーゆーものなんだ。だったら私は」

 その先をドナベさんに言う事は出来なかった。紹介状に記載されていた作業部屋の前に到着したからだ。私はドナベさんとの話を切り上げ、ノックをしてから部屋の中へ入る。

 ガチャ。

「失礼しまーす」

「お、やっと来たか」

 入室直後、トムが私に声を掛けてきた。トムだけじゃ無い。部屋の中には見慣れた面子が揃っていた。ブーン様・リー君・タフガイの攻略対象達、トム・触手先輩・スグニのイロモノトリオ、そしてフリーダさんが座っていた。

「ほら、そこの空いてる席座れよ」

 トムが、示した空いてる席は攻略対象からは遠く、イロモノトリオからは近い位置にあった。私は椅子に座った後、そのままの姿勢で細かくジャンプして、ブーン様達の方へ席を近づけようとする。

「うんしょ、うんしょ」

「見苦しいからやめろ」

 トムに椅子ごと引き摺られ元の位置に戻されてしまった。

「うんしょ、うんしょ」

「あちらは天才四人の席。カトちゃんはこっちで俺様達凡人とと仲良くやろうぜ」

 再チャレンジするが、今度はスグニの風魔法で転がされてしまう。

「うんしょ、うんしょ」

「グロロー、いい加減にせんか」

 三度目の正直を信じて席を動かすが、触手が椅子の足に絡みつき完全に固定されてしまった。

「雑炊さん、馬鹿な事やってないで大人しく自分の席に座りなさい」

「サーセン」

 フリーダさんに注意され、私は仕方無く指定の場所でじっとする。それを確認したフリーダさんは全員に向けて語り始めた。

「今回は私の呼び掛けに応えて下さり、ありがとうございます。サンキューですわ」

「えっ、という事は、この仕事の依頼主ってフリーダさんなの?」

 私が間抜けな質問をすると、全員から『今更何言ってるんだコイツ』という顔で睨まれた。

「雑炊さん?貴女、紹介状にはちゃんと目を透しましたの?」

「行き先だけ見て、現場で詳細確認するつもりだったんだよ。それで、ここに居る皆で何を作るの?サンダル?ガマ叩き棒?」

「ホーッホッホッホ、スーパーセレブな私がそんなの作る訳ありませんわよ。私達はこれから、王国の平和を作り上げるのですわ」

 何か急に、痛い事言いだしたぞこの悪役令嬢。フリーダさんのここだけは、あんまり好きじゃない。

「あの、フリーダさん?私ら庶民組にも分かる言葉で説明してよ」

「ここに集まったのは、『こいつは確定シロ』と私が判断した面々ですわ。このメンバーでハコレンのクソどもの所へカチコミに行くのですわぁ!」

 翻訳したらしたで、エラいこと言ってるよコイツ!

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