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第四十一話【仲良し三人組?な模様(フリーダ視点)】

「しゃあっ!ヒソヒソ…。しゃあっ!ゴニョゴニョ…。」 

 客人用トイレの奥から、雑炊さんの踏ん張る声と、それに隠れてドナベさんと作戦会議する声が聞こえてきましたわ。やがて、声がしなくなると、水が流れる音がした後、ドタドタと走る足音が近付いてきて、扉がバーンと開かれて雑炊さんが現れましたわ。

「ウンチングタイム終了!」

「やかましいですわ!」

 スパーン!

 ドナベさんとの密談を隠す為とはいえ、この騒々しさは見過ごせないと思った私は、彼女にビンタを放ちましたわ。

「ビンタまでする事は無いじゃない。貴族だってトイレ行くでしょ?」

「ビンタで済んて良かったと思うべきですわ。私のお父様やお兄様達だったら、平民がトイレで騒いだだけで牢屋行きにするかもですわ」

「ひいっ!き、気を付けます!」

 雑炊さんが顔を青くしてそっと音を立てない様に着席しましたわ。

「えー、それでは話の続きをしましょう。貴女の父親は事件が解決するまで公爵家に置いておく事まで話しましたわよね?」

「父じゃないってば」

「男爵はそれで良いとして、雑炊さんはどうしますか?こんな事になったし、もう学園にも通えませんわよ」

「私、学園に通えないの!?」

 雑炊さんの顔が驚きで固まる。そう言えば、尋問受けてから直接ここに連れて来られたから、雑炊さんはその間の外部情報がインプットされてませんでしたわね。

「貴女が知らないのも仕方有りませんわ。これは、貴女が逮捕された後に決まった事ですもの」

「そんなー!地元の領主が犯罪者だったぐらいで退学になるの?実力主義の校風は嘘だったの?」

「いえ、理由はそうじゃありませんわ」

 雑炊さんは自分達親子が逮捕されたから退学になったと勘違いしている様ですが、実際はそうではありませんわ。

「説明しますわ。貴女が尋問されてる間に、既に今回のスタンピードが人為的なものである事と犯人がハコレンである事が発表されましたわ。そこで、学園は事件解決までの間休校となったのですわ」

「ぽえ?」

 雑炊さんは丸で理解してない様でしたわ。これは、より詳しく説明しないといけませんわね。

「雑炊さん、冒険者学園には多くの貴族が関わってますわよね?彼らの中に犯人が居るかも知れないのですわ」

「あ、そっか!」

 雑炊さんは今度はちゃんと理解をしてくれましたわ。そう、ハコレンはこの国の貴族の中の誰かだとしか分かっていない。だから、学園の中にハコレンの一員が混ざっている可能性もある。

 いえ、その可能性はかなり高いと言って良いでしょう。この国の貴族は多かれ少なかれダンジョンと関わりを持ってますからね。そして、ハコレンが魔物と組んで暴力で目的を果たそうとする集団だと認識された今、冒険者学園は一気に危険地帯と成り果てたのですわ。

「ハコレンの掲げる目的が公爵家を失脚させる事ならば、学園はうってつけの場所なのですわ。例えば、公爵家は悪だと洗脳した子供を入学させ、私の命を狙わせれば?」

「そ、そんな恐ろしい事が!?」

「雑炊さん、他人事の様に怖がってますけれど、貴女の事言ってるんですわよ?少なくとも、世間から見て、そう思われても仕方無いぐらいの積み重ねはしてきましたわよ?」

「無いから!今は勝ち目セロだから味方のフリして、卒業間際に寝首かいてやろうなんて考えて無いですしお寿司!」

 やたら具体的な暗殺プランを口にしながら、首を振って青ざめる雑炊さん。こうして見ている分には面白い女なんですけど、今は彼女を愛でる余裕もありませんわ。

「まあ、そんな訳で学園の環境を犯罪者に利用させる訳にはいかんって事で、校長が休校宣言したのが昨日の事なのですわ」

「オッケ、要するに『私が怪しいから退学』じゃ無くて、『全員怪しいから休校』になったって事だね?んー、それじゃあまたダンジョン巡りでもしよっかなー」

「どうぞご自由に。せっかくですし、今日はここに泊まって行くと良いですわ。バーガー代は明日お渡ししますわ」

「ええー、いいのー?それじゃあ来たるべき日に備えて屋敷を観察…じゃなくって公爵家のベッドやお風呂を遠慮無く楽しんでから寮に帰るね!」

 無邪気に喜ぶ雑炊さんでしたわ。守りたいですわね、この笑顔。


「氷の精霊よ、我が敵の心に冬を訪れさせ給え、コールドスリープ!」

「スヤァ」

 夜中、公爵家の最高級ベッドで寝ている雑炊さんに追い打ちの睡眠魔法を掛けてから、私は土鍋を部屋の外へ持ち出してドナベさんを呼び出しましたわ。

「ふわ〜、何の用だい?」

 眠そうな顔をしてドナベさんが登場したので、トイレで話していた事を問い詰めますわ。

「ウンチングタイム中に雑炊さんと何を話してたか教えやがれですわ」

「そんな大した事は話して無いよ。雑炊がハコレンと組んで悪役令嬢倒そうとか言い出したから、今共闘したらバッドエンド確定って言って止めただけだよ」

「全然大した事ですわよ!つまり、雑炊さんは笑顔の奥で私を倒す機会を伺っていたって事ですわよね!?」

 あ、あっぶねー。危うく騙される所でしたわ。やっぱアイツヒドインですわね。

「まあ、仕方無いよ。雑炊は君がラスボス候補でハコレンは味方組織って考えで凝り固まってるからね」

「固まらせたのは貴女でしょう?…ねえ、いつまでこんな事続けますの?歴史の変化を大きくしない為に、私達の共闘は雑炊さんに伏せてますけど」

「うん、既に想定以上に歴史が歪んでいたみたいだね」

 ゲームでは正義の側として描写されていたハコレンが、魔物を操り町を襲わせるという、あべこべな事態。この先、私達の持つゲーム知識がどこまで役に゙立つのだろうか。

「恐らく、ハコレンは魔族の力を借りてしまったのでしょうね。私の父上と組むのが無理だったから、他の貴族に取り入ったのだと思いますわ」

「だとしたら、君が余計な事したせいじゃん」

「否定はしませんわ」

 ゲームでのハコレンの貴族達は、ヒロインが公爵家と戦う決意をするまでは、皆で集まって匿名で公爵家の悪口を言いまくるセミナーをしていただけのヘタレ集団でしたわ。ですから、下手に刺激せず、公爵家が清廉潔白であれば害の無い連中のままだろうと放置した結果がこれですわ。

「これも、『物語の強制力』って奴かしら?」

「だね。グロリアが僕、スグニがジョーダンになった様に、公爵家の役割がハコレンになってしまった。ならば、ぶっ倒すしかないね」

「そうですわね。私達のせいで、貧乏くじを引かされた様なモノならば、せめて私達の手で止めてやりますわ。その為にも、雑炊さんにはいーかげん真実を教えないと駄目と思うのですけど」

「じゃあ、おっかさんが魔王になった事も教えなきゃいけないね」

 くっ、その事を忘れてましたわ。今まで騙していた事に加え、母親の末路まで聞かされたら、雑炊さんは耐えられるか不安ですわ。

 ゲームの中で、ヒロインが母親との避けられぬ対決に挑めたのは、それまでの上級魔族との戦いで世界を守る使命感を得ていた事と、各ルートの恋人の支えがあったからですわ。今の雑炊さんでは、まだ世界を救う為に母親と戦えと言っても、心が壊れるだけですわ。

「ゲーマーの僕としては、まだ精神的に未熟な雑炊が魔王の正体を知ったら、どんな展開になるかは興味あるからオッケーなんだけど」

「鬼畜の発想ですわね。言って良い冗談と悪い冗談がありますわよ」

「ごめん、悪い冗談だったね。まあ、転生者の僕としては、雑炊の精神が完全に駄目になってゲームオーバーになるのだけは避けたい。だから、僕達の共闘を明かすのはハコレンと決着を付けてからにしない?」

「ですわね」

 こうして、私達の秘密は後少しだけ守られる事になりましたわ。ですが、本当の事を伝える時はいよいよ間近に迫って来ましたわ。

「ハコレンとの決着までに、少しでも雑炊さんとの関係を良くし、彼女には心身共に強くなって貰わないといけませんわ」

 前世知識でバッドエンド回避の道は、まだまだ険しいと思った私なのでしたわ。

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