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第三十六話【じっちゃんの名にかける模様(フリーダ視点)】

 このスタンピードは最初から違和感がありましまわ。

 ゲームでは、スタンピードはランダムで発生し、何故起こるのかについての説明も無かったので、『ああ、そういうものなんだな』でスルーする案件でしたけれど、これは現実。スタンピードが起こるには理由が必要なのですわ。ですが、この世界に存在するダンジョンは隠しダンジョンも含め、全てのダンジョンが人の手で発見され、各地の貴族の手で管理されていますわ。ですから、スタンピードなぞ未然に防げますし、発生してもどこのダンジョンから溢れ出たのか直ぐ様分かるはずでしたわ。

「フリーダよ、父上の使いからの連絡があった。我がアークボルト家が管理する王都近辺のダンジョン全てに魔物が湧き出した形跡は無しだそうだ」

「やはり、そうでしたか」

 ブーン様からの報告を聞き、私の違和感は確信に変わりましたわ。やはり、このスタンピードはおかしい。一体、魔物達はどこのダンジョンから出てきたのでしょう?

「リーさん、タフガイさを、そちらはどうでしたか?」

 私はブーン様からの報告を受けた後、別の調査を頼んだお二人にも結果を問いましたわ。

「フリーダ様、空から使い魔に魔物の出所を探らせましたが、残念ながらこの町の外には一切の痕跡が見つかりませんでした」

「フリーダさん!スタンピードが始まった時から戦場に居た、プロ冒険者さん達から各戦場に出た魔物の種類と数を聞いて来たぞぉ!地図にメモしておいたから読んでくれ!」

「お二人ともご苦労さまです。もしかしたら、また頼み事をするかも知れませんので、何時でも動ける様にしておいて下さい」

 お二人が休憩に向かい、一人になった私は、タフガイさんから受け取ったメモを見ながら今回のスタンピードが何故起こったのかを考えましたわ。

「この不可解なスタンピードの真実、必ず暴いてみせますわ…偉大なる貴族として人々から尊敬されたじっちゃんの名にかけて!」

 推理パート開始ですわ!


【疑問点1】

 ブーン様からの報告では、スタンピード発生したダンジョンは分からずじまいでしたわ。では、魔物達はどこから来たのでしょう?

A.地方のダンジョンから王都まで徒歩で来た。

B.ブーン様か配下が虚偽の報告をしている。

C.魔物達はダンジョン以外から来た。

「答えは…Cですわ!」

 Cと思った根拠はリーさんの発言ですわ。町の外に魔物が行き来した痕跡が無かったという点。合計で百近く居た魔物の足跡等を全て消し去る暇なんて有りませんわ。リーさんだけで無く、プロ冒険者の方々の目も有りましたもの。彼等に気付かれずに魔物の出所を分からなくする事は不可能。つまり、魔物達はダンジョンから出て来たのでは無く、突然町に現れたとしか考えられませんわ。

【疑問2】

 気になる点は他にも有りますわ。タフガイさんが持ってきたメモ。これに書かれていた魔物の構成のおかしな点は?

A.一つの場所に一種類の魔物しか居ない。

b.魔物がバリエーションに富み過ぎている。

C.指揮官級のボスモンスターが不在。

「答えは…ABC全部ですわ!」

 まず、そもそもスタンピードというものは、魔族による人間界への侵略や威力偵察を目的としていると考えられていますわ。ですから、全体を指揮するボスが混じっているはずなのですわ。そして、効率的に人里へ損害を与える為に、人間と同じ様に多様な魔物の混成部隊となっている事が多いですわ。

 ですが、今回のスタンピードは全くの逆。指揮官は不在ですし、同じ種類の魔物を一箇所に固めてましたわ。これではまるで、弱点を突いて経験値にしてくれと言わんばかりの編成ですわ。実際、市民に死者が出た報告も有りませんでしたし。

 町への侵入までは痕跡も無く完璧に近かったのに、その先は人間側に大きな被害を出す事も無いお粗末な結果。どうにもちぐはぐな作戦ですわね。

「うぅ~ん、これはどういう事なのですわ?」

 もう少しで答えが見つかりそうなのですが、あと一歩が見えて来ない。通常のスタンピードとは違う意図が有り、ダンジョンの出入り口以外のルートから魔物が来たという所までは合ってると思うのですけど…。

「悪役令、フリーダさん何考えてるの?」

 推理に耽っていると、後ろから不意打ち気味に声を掛けられましたわ。

「え?…ああ、雑炊さんでしたか。貴女さっき、まーた私の事悪役令嬢って言おうとしてましたわね?」

「ゴメンゴメン。ブーン様達も傍に居ないし、一人で何考えてるのかなーって。魔物に手応えが無かった事?」

 ほほう、雑炊さんもスタンピードに違和感を感じてるのですわね?そう言えば、アホだけど頭は切れる子でしたわね。

「おっしゃる通りですわ。今回のスタンピードは奇妙な点が多くありましたの」

「ほへ?」

 あ、やっぱコイツ分かってない。いつものオナラ連発してるアホ顔晒してますわ。全くこの子は…、体育館に来た時もトイレに直行してましたし。ん?トイレ?

 その時、私の中で全ての点が線で繋がりましたわ。謎は、全て解けた!魔物がどこから来たかも、犯人の正体も、こんな事件を起こした動機も全部分かりましたわ!

 でも、犯人が私の想像した通りの人物だとしたら、雑炊さんにだけはそれを知られる訳には行きませんわ。

「えー、フリーダさん程の人が気になるって、なーにー?」

「貴女に教えてやる義理はありませんわ。私達、まだそんな仲じゃありませんわよ?まあ、でもヒントぐらいは上げますわ。この地図、もう使いませんから貴女にあげます。では、私はこれで」

 私は、メモが書かれた地図を雑炊さんに押し付けて、そそくさと逃げ出した。あの地図だけではこのスタンピードの答えには絶対に辿り着かない。彼女が地図とにらめっこしている間に、事件を解決しますわよ。

 まずは、魔物が発見された場所の近くを調べ直さないと。


「ビンゴですわ」

 魔物と冒険者が戦闘していた場所を再確認すると、人目に付かない場所に設置されたマンホールのすぐ傍に、魔物の足跡が見つかりましたわ。

「リーさん、今すぐブーン様とタフガイさんをここに!」

 私は頭上を飛んでいた使い魔に呼び掛けると、程なくして三人が来てくれましたわ。

「この足跡をご覧下さい。魔物はここから侵入したのですわ。恐らく、他の戦場でもテケトーなマンホールからコソコソと現れたと思われますわ」

 そう言い、私がマンホールの蓋を開いて中へ侵入しようとすると、皆様から待ったが掛かりましたわ。

「「「いやいやいやいや!」」」

「何故止めるのですわ?」

「たまたま魔物がマンホールの近くを通っただけかも知れぬだろう」

「確認するにしても、冒険者か騎士団を連れて来るべきですよ」

「フリーダさん、自分を過信するのは良くねえぞ。せめて、学園に報告してからだ」

 彼等の意見は最もですわ。これまでの判断材料だけだと、魔物達が下水道から来たという可能性は非常に低いですし、それが事実ならば大人数で調べるべき。ですが、私には確信が有りました。

「ブーン様、時間が無いのですわ。この件は、急がないと手遅れになるかも知れません」

「フリーダ、今回のも『異世界の知識』か?」

「…はい」

「ならば従おう。今までお前がそう言って間違っていた事は無かったからな」

 ブーン様はそう言うと、マンホールの中へ飛び込んだ。私もそれに続き、リーさんとタフガイさんも着いてきてくれましたわ。

「どうやら、お前の言う通りだった様だな。見ろ」

 ブーン様が下水道の壁を指差す。そこには、人間のものより遥かに大きな手形があった。

「こりゃ大盛り味噌ゴーレムの手じゃねえか!この匂いは間違いねえ!」

 タフガイさんが壁の手形に鼻を近付けて確認して叫びましたわ。

「恐らく、ゴーレムがここを通る時に壁に手を付いたのですわね。さあ、行きましょう。犯人の隠れている場所まで案内しますわ」

 この世界の元となったゲームの通りなら、犯人は間違い無く、私が向かっ先に居る。彼が逃げ出す前に、そして、雑炊さんが感づく前にけりを付けてやりますわよ。

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