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第三十四話【スタンピードとイロモノトリオな模様】

 体育館まで引き摺られで私は漸く我に返ると、エレン先生にトイレを告げる。

「エレン先生、うんこ!」

「もう少ししたら、校長先生からお知らせがあるはずだから、早く行ってくるのねん」

「行ってきまー!」

 私はトイレに駆け込むと、便座に腰掛けてから土鍋の蓋を取り、ドナベさんに出てくる様に促した。

「呼ばれて飛び出てドナベサーン!何の用?」

「ドナベさーん!何で教えてくれなかったの!?」

「ん?ああ、エレン先生の事か。彼女はゲームでは癖の強い女教師ってだけで、君のおっかさんの同級生だったなんて話は僕も初耳だったんだ」

「そっちじゃねぇよ!今起こってるスタンピード!ドナベさんなら予測出来たでしょ!」

「ム・リ。だって完全ランダムイベントだもん。これが実機プレイだったなら、本体を冷蔵庫に入れて好きなイベントを起こせたんだけど、今の僕にはムリムリだよ」

 まーた、私の知らない単語を出して責任をうやむやにしてるドナベさん。だが、その件について責めるのは全てが終わってからだ。

「ドナベさんへのお仕置きは後で考えるとして」

「僕、お仕置きされるの確定なの!?」

「それが嫌なら、スタンピードの攻略方法を教えてよ」

「はーい、ホンワカパッ波〜!」

 トイレの個室が光に包まれる。これって…、私が…、光るウンゴ出したって誤解されそうで嫌だな…。


(ホワンホワンホワ〜ン)

 はぁ~、カトリーヌンさんは何人もの素敵な男性に囲まれて羨ましいのねん。私にも一人くらい…、ハッ、いけないいけない!教師が生徒と付き合うなんて禁断の恋なのねん!でも、実力主義のこの学園ならワンチャン…、駄目なのねん。そんな事したら校長先生が解雇通知握りしめて殴って来るのねん。

 え?もう、始まってる!?さっきの話は忘れて欲しいのねーん!…コホン、それでは私B組担任のエレン・チャーミーがスタンピード発生イベントの説明をするのねん。

 スタンピードが発生した時は、担任が指定した場所へ行きそこの魔物を退治してもらう事になるのねん。どんな魔物が出て来るかは、主人公のレベルや冒険者ランク、そして学校での順位で決まってくるのねん。

 そして、スタンピードで活躍したなら、学校評価・ギルド評価・攻略対象評価の全てが大きく上昇し、倒した魔物の一部を報酬として貰えたりするのねん!でも、学園の試合と違ってこれは実戦。この戦いでHPが無くなったら即ゲームオーバーだから無理はしちゃ駄目なのねん。

(ホワンホワンホワ〜ン)


「ボーナスステージ!」

「雑炊、声を落として。誰かに聞かれたら、また嫌われちゃうよ」

 断片的なゲーム知識から、スタンピードの流れを把握した私は、準備万端覚悟完了快眠快便のテンションで便座から立ち上がる。だが、トイレの水を流そうとした時、異変に気付いた。

「ドナベさん、トイレの水が何度レバーを回しても流れないよ。どうしよう」

「魔物が暴れて、排水管にダメージがあったんじゃない?知らんけど。今はそれ所じゃ無いだろ」

 泣く泣くお尻だけ拭いて体育館に戻り、一年B組の列に並ぶと、暫くして校長先生がやって来た。

「えー、冒険者からの報告によると、スタンピードが発生しているのは間違い無い事実です。既に、一般市民の避難は完了していますが、町に現れた魔物を倒すのに学生諸君の力も借りる事になりました」

 校長先生の言葉を聞き、生徒達は顔を青くして震えたり、町を破壊する魔物への怒りに顔を赤くしたりしていた。私はと言うと、トイレ出る時手を洗ったかどうかを必死に思い出していた。

「諸君静かに。今から、チミ達に仕事を割り振りますので、しっかり聞いて下さい。まず、一年C組・二年C組・三年C組の生徒はこの体育館で待機。状況に応じて出動して貰う予備戦力です」

 待機と聞いて、C組生徒達は安心する。このスタンピードが終わったらB組以上との差は更に開く事になるのだが、そこには気付いていないのか、はたまた、今は己の身がかわいいのか。

「A組及びB組の生徒は、四人一組を作って各地の魔物の撃退を担当して貰います。はい、四人組作ってー」

「ゑっ??」

 周りの生徒が次々と四人になって集まる中、私はその場で立ち尽くしていた。まずい、ボッチしていた上に、B組昇格直後の私には組む相手が居ねえ!

 ふと、攻略対象達の方を見ると、フリーダさんと一緒に一年生最強パーティを結成していた。

「まあ、そうなるでしょね!ギギギ、このままでは体育館待機を命じられてしまう!誰かー、余ってる人は居ませんかー!?」

 私は恥を忍んで大声で呼び掛ける。すると、聞き慣れた声が丁度三つ返ってきた。

「グロロー、芋煮会以来か。雑炊、お前とは奇妙な縁があるな」

「ひいっ!」

 口の隙間から触手を垂らした触手先輩がこっち来た。来ないで。

「欠闘の約束では俺様から近寄るのは禁止、ならカトちゃんから呼ばれた時はセーフって事だよな?」

「こっち来んな」

 スグニ、案の定お前もボッチだったか。帰れ。

「お前は誰とも組めないと思ってたよ」

「サンキュー、トッム」

 トム、もしかしてこーなる事を見越して誰とも組まずに待っててくれたの?泣ける。アンタはモブなんかじゃない。最高のサブキャラクターだよ。

「トム、アンタはギリ許す。でも、コワイのとキモいのは帰れ」

 私は触手先輩とスグニを追い払い残りメンバーを集めようとしたが、校長先生がこっちを見てオッケーサイン出した。

「ふむ、余り物達もパーティ組めた様ですね。チミ達イロモノトリオ+1は.この地図にマークされた場所を担当してね」

 ここぞとばかりに、私達を四人組に確定させやがった。緊急事態だし、校長先生の立場からしたらこうするしか無いのは理解出来るが、こいつらと組まされる私の身にもなって欲しい。

「やだー!こんなイロモノトリオ率いるのやだー!フリーダさーん!入れてー!そっち入れてー!」

 フリーダさん達はとっくに体育館を出て行ってた。というか、殆どの生徒は出発し、残っているのは私とイロモノトリオと校長先生、後は体育座りしてるC組生徒だけだった。

「他に誰も居ねー!畜生、私はこのイロモノトリオ連れてくしか無いのか」

「グロロー、下級生がリーダー面してんじゃねえ。俺が、お前らを率いるんだよ」

「カトちゃんは絶対イロモノトリオ側だろ?」

「馬鹿な言い争いしてないで、町の被害が広まる前に行くぞ。ジョーダン先輩、先導お願い出来ますか?」

 こうして、私はまたしても好感度を稼ぐ機会を失ったのだった。スタンピード、せめて私がA組になったタイミングで起こって欲しかったな…。

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