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第三十二話【言われてみればそうだった模様】

 対抗戦が終わり寮に帰った私は、ドナベさんと反省会を開いた。

「雑炊、お疲れちゃん。まあ、頑張った方だと思うよ」

「くーやーしーいー!打てる手全部使って、全部駄目だった!」

 今回の対抗戦では、リー君相手に二十万エンのリベンジはほぼ果たせたが、フリーダさん相手には0点だったと言うしか無い。

「それにしても納得行かないのは、前転を一瞬でコピーされた事だよ!私が前転マスターするのに、どれだけ掛かったと思ってるのよ!」

「まあ、前転中の無敵は、フォームさえ完璧なら主人公で無くても発動はするからね」

「ムキー!本当にムカつく!前転覚えたのは私が先なのに、ごるびん師匠みたいな話し方でアドバイスまでしやがって!とても参考になりました!本当にありがとうございます!」

 私はクッキーをヤケ食いしながら、フリーダさんの助言を思い返す。あの喋り方は、本当にごるびん師匠みたいだったな。いや、喋り方だけじゃない。声も似ていた気がする。

「ねえドナベさん?フリーダさんとごるびん師匠の声って、むっちゃ似てない?」

「悪役令嬢は、語尾にガマなんて付けて無いじゃん」

「そっちじゃ無くて、アンデッド化してからのごるびん師匠とフリーダさんの声とか話し方が似てるなって話」

 ごるびん師匠が生前と死後で声が全然違うのは、アンデッド化したらそんな事もあるのかなとスルーしていたが、その声がよりにもよってフリーダさんと同じに聞こえるのは確率的に言ってありえない。

「年齢も性別も種族も違うのに、声が一緒って有り得ないよ。…ハッ、もしやフリーダさんは魔族化するとガマ系モンスターになるの?そうなんでしょ、ドナベさん?どう、この名推理?」

「違うよ」

 私の推理は秒で否定された。どうやら私は、推理ゲームの主人公には成れない様だ。

「悪役令嬢はルートによって魔族化するけれど、その姿は人の姿にツノが生えたものだった。ガマ系とは全く違ったよ」

「そうなんた。じゃあ、何で美少女とガマの死体が同じ声なのかな?」

「ゲームでは良くある事さ。例えは、人形劇では人も動物も魔物も人形遣いが全部一人で演じてるだろ?」

 ドナベさんの例えを聞いて、私は少し納得した。

「そう言えば、小さい頃おっかさんと一緒に見た人形劇では、王子も姫も人形を操っているお爺さんが声を担当していたよ。アレは本当にシュールだったなあ」

「僕がプレイしていたゲームもそんな感じで、キャラクターの数の方が声優の数より多いから、メインキャラの声優が一部の脇役の声も担当したりしてたんだよ」

「へー、それじゃあゲームを元にしたこの世界なら、声が似た赤の他人が居てもおかしくは無いのか。あ、それじゃあ私と同じ声の人も、どこかに居るのかな?」

 気になったので聞いてみると、ドナベさんは指を折りながら語り始めた。

「えーと、君と声優が同じなのは、妖精グロリアと、君のおっかさんと、魔王と、寮母さんだね」

「一人五役!?しかも、主人公以外の役もセリフ多そう!」

「武者小路梢(むしゃのこうじこずえ)っていう売れっ子声優が居てね、ゲーム会社のお偉いさんが彼女の大ファンで、ギャラは出すから、色んな役をやってって頼み込んだんだ」

 理屈は分かるが、一人の人間がそんな真似出来るのだろうか?私が知ってる人形劇のお爺さんは王子と姫の二役やっただけで凄いシュールな光景になってたのに。

「寮母さんは脇役、おっかさんは多分回想とかだけだから何とかなりそうだけど、グロちゃんと魔王も私と同じ人が演じていたの?ムシャノコージって人が一人でずっと喋ってるラスボス戦になるんだけど、問題無かったの?」

「ダイジョブダイジョブ〜、武者小路さんは本物の天才声優だったんだ。最終ダンジョンの戦いも、全く別の声で一人四役を演じ切って、プロデューサーの無茶振りを完璧にクリアしたんだよ。彼女は本物の天才だよ、うん」

 いつも自画自賛しかしないドナベさんが天才と呼ぶムシャノコージさんは、本当に天才だったんだなあと思いつつも、私は発言の違和感に気付いた。

「最終ダンジョンで一人四役…?私とグロちゃんと魔王で三役。後一人は誰?」

「あ、やっべ。フスーフスー」

 余計な事を言ってしまったといった顔をして、ドナベさんは横を向いて口笛を吹いて誤魔化そうとする。

「ドナベさん、必要ならネタバレもして行くって前に言ったよね?教えてくれないかな?」

「分かった、言うよ。最終ダンジョンでは、武者小路梢は君のおっかさんの声も演じていたんだ。あーあ、このネタバレはなるべくしたく無かったんだけどなあ」

「それって…」

 難関ダンジョンへ行ったきり帰って来なくなったおっかさん。それは、どこかのダンジョンで魔物に討たれてしまったのだと思っていた。それが、魔王戦でおっかさんの声が聞けるって事は…、そんなの答えは一つしか無い。

「それって、魔王に追い詰められた私が、おっかさんの事思い返して覚醒する感動のクライマックスがあるって事じゃない!そりゃあ、そんなネタバレは避けたいよね!」

「あ、あー、うん。そうなんだよ」

「ゴメンね、聞いちゃいけない事聞いちゃって!でも、口を滑らせたドナベさんも悪いからお互い様!この話はここでおしまい!あっ、そうだ!ゲームでは、おっかさんと寮母さんの声が同じって言ってたよね?」

 私は自分の部屋を出て、寮母さんの寝泊まりしている管理人室の扉を叩く。

「雑炊なんねー、家賃なら待たへんよ?」

「家賃なら毎月払います!寮のゴミ出しもします!だからちょっと私の事を『カトちゃん』って呼んでみて下さい!」

「うぇ?まー、それでアンタがキチンとしてくれるんなら言うけど。『カトちゃん』。ほら、これでえーか?」

 寮母さんの声は間違い無くおっかさんの声と同じだった。ドナベさんの言っていた事が嘘じゃないと知り、私の目から涙が零れ落ちる。

「おっかさん…、おっかさん…」

「雑炊、どげんした?学校で虐められたんか?それとも、とうとう退学になったんか?」

「うわーん!」

 私は寮母さんにしがみつき、泣きじゃくった。この人はおっかさんとは無関係なのは分かっている。でも、迷惑だと分かっているけどこうするしか無かった。

「おっかさーん!おっかさーん!」

「ほんま、どげんした…、えー

と『どうしたのカトちゃん?』」

 学生の扱いに長けていた寮母さんは、事情は分からずとも色々と察してくれたのだろう。いきなり泣きながら抱きついて来た私を拒絶せず、受け入れてくれた。

「私、おっかさんの事をずっと待っていたの!ダンジョンに行って戻って来ないおっかさんを探したかったけれど、子供はダンジョンに入れないから、待つしか無かった!だけど、今年漸く冒険者になれる年齢になったんだよ!」

「『立派になったのねカトちゃん。ごめんね、家に帰れなくて』雑炊、こんな状態で学校行ってもあかんやろ。暫くはここで休んでけ。学校にはウチが連絡しとくがね」

「ううん、大丈夫です。寮母さん、ご迷惑お掛けしました」

 この日以来、私は暇を見つけては寮母さんの手伝いをする様になった。雨漏りを直したり、トイレの紙を買いに行ったりしながら寮母さんと色んな会話をした。それは、テストの成績とかクッキーの味付けとかの割とどうでも良い話、普通の家族が普通にしているであろう会話だった。

 ドナベさんからは『君の時間は有限なんだよ』と注意されたけれど、『寮母さんから男の落とし方を学ぶから、この時間は無駄じゃない』と言ったら、それ以上の文句は言わなくなった。

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