目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第三十話【やはり暴力は全てを解決する模様】

 欠闘に勝利した事で、サンダーロッドは正式に私の物となり、スグニもあの日以来私の前に現れなくなった。だけど、欠闘での勝利が私にもたらした物は、良い事ばかりでは無かった。

「ねえドナベさん、スグニを倒したら皆からワッショイされるって話じゃ無かったの?相変わらず、白い目で見られてる気がするんだけど」

 学園の嫌われ者を成敗したのに、評判が良くならない。どちらかと言うと、微妙に悪くなってる気もする。

「うーん、ゲームとは勝負した時の状況が色々違うのもあるけれど、やっぱり勝ち方が悪かったからじゃないかな?あの勝ち方は僕もドン引きだよ」

「そうかなー?隙を見せた方が悪いでしょ」

「それはそうかも知れない。けれど、直前に自分の隙を見逃して貰っておいて、全力で恩を仇で返したらそりゃ引かれるよ。でも、戦闘面での評価はしっかり上がったと思うよ?対抗戦で個人戦メンバーに入れて貰えたし」

 ドナベさんの言う通り、九月末の対抗戦で私は個人戦への出場が決まっていた。相変わらず、クラスメイト達は不満たっぷりな目で睨みつけてくるが、良くも悪くもこの学園は実力主義。腐ってもA組二位に半年間居続けた男に引導を渡した私を、選出しない訳には行かなかったのだろう。


 そして迎えた九月末の対抗戦、私は心に決めていた目標が一つあった。

「悪役令嬢を倒す」

「こりゃまた大きく出たね」

「ごるびん師匠との特訓の成果は着実に出ている。半年前はボロ負けだったけど、今なら届く気がするんだ」

 脳裏に浮かぶのは、氷漬けにされてビンタ連打で何も出来ず、恐怖だけ植え付けられた記憶。

「あの時の借りは今日返してやるんだから」

「雑炊、何言ってるんだよ?半年前の対抗戦では、悪役令嬢に出会いもせず敗退したじゃないか」

 そう言えばそうだった。半年前の対抗戦では私は悪役令嬢と戦って無かった。

「ゴメンゴメン。私ったら勘違いしてた。そうだよね、私と悪役令嬢は対戦した事はまだ一度も無かったよね」

「多分、雑炊は屋上での触手魔族との戦いの記憶とごっちゃになって、記憶違いしたんだよ。まあ、誰にでもある間違いさ」

「そうかな…そうかも」

 半年前の事を再度思い返す。そうそう、四月の対抗戦ではバグ技ってのを利用してトムの影に隠れようとして、ライトニングで気絶したトムに押しつぶされたんだった。それで、そのちょっと後に触手先輩との戦いで悪役令嬢の桁違いの実力を見たんだった。

 勘違いしていた記憶を修正し終えた私は、個人戦メンバーの確認をする。現在は団体戦の最中なので、この場に残っている私を含めた十五人が今月の個人戦メンバーとなる訳だ。

「えーっと、今月の参加者は…」

【A組】

 悪役令嬢、ブーン様、リー君、タフガイ、知らんやつ。

【B組】

 知らんやつ、知らんやつ、トム、知らんやつ、知らんやつ。

【C組】

 知らんやつ、知らんやつ、知らんやつ、知らんやつ、私。

「よし、スグニは居ないな」

 スグニは、私との接近を避ける事とA組から出ていくという約束を律儀に守り、B組に自主的に降格。B組での成績はトップだったらしいが、私が個人戦に出る都合上、団体戦の方に参加したらしい。

「BとCの知らんやつはどうでも良いけれど、Aの知らんやつはちょっと注意した方が良いのかな?ドナベさん、今のA組五位ってどんな奴か知ってる?」

「ゲームではスグニ退場から君がA組五位以内になるまでの間、A組五位には毎回ランダムでA組の誰かが居座っている。まあ、誰が相手でもドングリの背比べで特筆すべき点は無いよ」

「つまり、少し強いモブなんだね?私と悪役令嬢との差を測る物差しぐらいにはなりそうかな」

「そう思ってくれて良いよ、五位の奴に苦戦する様では、悪役令嬢はおろか、攻略対象にも勝てないと思っておくんだ。おけ?」

「おけ」

 知らんやつの確認を終えた私は、形ばかりの応援をして個人戦までの時間を潰す。

「C組がんばえ〜」

 しかし、私の応援の甲斐も無く、C組は団体戦をボロ負けしたのだぅた。うん、知ってた。

 団体戦が終了後、デール先生が生徒達にささやかなエールを送る。

「団体戦の皆さんお疲れ様でした。個人戦の皆さん、退学にならない程度に全力を尽くして下さい。特に雑炊」

「先生、そんなに私の事が不安なんですか?」

「期待も三割ですよ」

 デール先生からのテケトーなエールを受けて、私はスタート位置で待機する。勿論、ドナベさんも土鍋の中で待機中だ。

「雑炊、分かってると思うけれど、トムに隠れる戦術はもう使えないよ。状況が大きく変わったし、トム自身にも警戒されているから」

「分かってるって。コソコソ隠れる必要無いぐらいには強くなったから、もうあんな戦術必要無いよ」

 そう、今度の個人戦は正攻法で挑む予定だ。ドナベさんからも、『ダンジョン内で誰とぶつかるか分からないから、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応して』とアドバイスを貰ってるし、それに従い出たとこ勝負!

「うおおー、やってやる、やってやるぞ!見ていて下さい、ごるびん師匠!」

 悪役令嬢への挑戦心を胸に、開始の合図と共に試験用のダンジョン内へ飛び込む。

「A組諸君!私はここだよー!私が怖くないならかかってこんかーい!」

 個人戦で負ける事よりも、A組生徒と出会えないまま終るのこそが怖い私は、あえて騒ぎながらダンジョン内を走る。プライドの高い彼らならこの挑発は無視出来ないだろうし、漁夫の利を狙って来るB組は迂闊に近寄って来ないだろう。

「さあ来い、さあ来いさーあ来い!やるのかい、やらないのかい、どっちなんだい!」

「やーる!」

 私の挑発に乗って、一人の学生がこちらへ向かって来て、大きめの部屋に入った所で鉢合わせた。

「きっと、来ると思ってたよ」

 欠闘で勝ってから、運が私に味方している。そんな風に私は思った。だって、一番戦いたがった相手と真っ先に出会えたのだから。

「二十万エン損した借りは、ここで返してやるんだから!そして、私の強さでメロメロのメロリンキューにしてやる!」

「今の貴女にはまだそんな力は無いと思いますが…、現実を教えてあげるのも僕の役割なのでしょうね」

 私とリー君は、同時に杖を構えた。

「雷と闇の精霊よ、この地を無限の稲妻で覆いつくせ、ダークサンダー!」

 私は最上位の雷魔法を唱える。

「全ての精霊に告げる、我が下へ集え。これより暫し、精霊の力はただ我が手にのみ有り。エレメンタル・セロ!」

 私の詠唱を先読みしたリー君は、この場に居る精霊を支配し、私の魔法の発動を打ち消した。

 ガキーン!

 部屋の中に金属音が響き渡る。私が振り下ろした杖が、リー君の足の甲を砕いた音だ。

「!!!???」

 何が起こったのか理解出来ず、目を白黒させていたリー君だったが、暫くすると足をへし折られた事に気付くと共に、その場に蹲る。

「雑炊!貴女一体何を」

「大魔法を口ずさみながら、杖をフルスイングしただけだよ。あ、これサンダーロッドじゃなくて、ガマ叩き棒に色塗って見た目整えてそれっぽく見せたやつね」

 私はドナベさんから攻略対象達の戦闘パターンについて事前に聞かされていた。そして、リー君はこちらが大魔法を使おうとしたら精霊支配の魔法で妨害してくると知った時、これを利用して勝てないだろうかと考えた。私がリー君と戦いたかったのは、お金の恨みもあるけれど、勝てる可能性が一番あったのが何よりもの理由だった。

「私はね、最初からリー君と魔法対決するつもりなんて無かった。というか、まだダークサンダーなんて使えないよ」

「くっ、そうか。ここ最近貴女が学園内でサンダーロッドを自慢し続けていたのも、僕をハメる為の準備だった訳ですね」

「まー、そんな感じかな」

 嘘である。サンダーロッドを自慢してたのは、純粋に嬉しかったからだ。でも、作戦の一部だった事にした方がリー君から凄いって思われそうだから、そーゆー事にしておく。

「それじゃ行くよ。その足、徹底的に狙うから」

 私は偽サンダーロッドを振り回し、リー君の怪我した足と杖を持った手を交互に打つ。攻撃魔法を放つ事も、足を回復して逃げる事もさせない。一度でもそれを許したら、確実に逆転負けされてしまう。

「倒れろ倒れろ倒れろ倒れろ!!」

「くっ…耐えて見せますよ」

 リー君は魔法を使うのを諦め、防御に専念している。貧弱ボデーの私が、打撃用の杖を振り回し続けるなど長時間は出来ない。そう思っての判断ならばそれは悪手である。

「倒れろ倒れろ倒れろ倒れろ!!」

「貴女…その体力はどこから…」

 ドナベさんが私に教えてくれた、主人公が持つ不思議な力の一つ、『気絶寸前まで全力で動き続ける肉体』。一学期の頃は四時間も走れば力尽きる不完全な私だったが、日々の校庭マラソンと休学中のガマ乱獲を経て、今では日を跨ぐぐらいまでは肉体を動かし続けられる様になった。

 いける、多分勝てる。リー君には私の打撃を捌く技術も、ダメージ無視して殴り返す筋力も無い。このまま魔法を使わせる事無く、密着して攻撃を続ければ…。


「リザレクション」


 私の大物食いの夢は、遠くから放たれた回復魔法によって、あっさり断ち切られた。最上位回復魔法を離れた位置からピンポイントで当てる。そんなカッコよすぎなマネが出来る奴は学園に一人しか居ない。

「悪役令嬢!」

「フリーダ様!」

「リーさん、下がってなさい。ここからは、私が相手をしますわ」

「分かりました。ご武運を」

 足の治ったリー君は、悪役令嬢が割って入った隙に私の攻撃から逃れ、そのまま部屋から出て行った。

「二人がかりで私をボコれば良かったのに」

「格下相手にそんなマネする訳には行きませんわよ。はい、リザレクション」

 悪役令嬢は、私にもリザレクションを掛けやがった。私から言い訳の余地を奪いたいのか、純粋に戦闘を楽しみたいのか知らないが、クソムカつく!

「その選択、絶対に後悔させてやる!」

「ホーッホッホッホ、やれるものなら、やってごらんなさい!」

 リー君撃破は叶わなかったけど、本命の相手が来てくれた。このチャンスは逃さない。倒す、どんな手を使ってもコイツを倒してハーレムを手に入れる!

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?