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第二十九話【前代未聞の決着な模様】

「選手入場!キマイラの方角から入場するのは、雑炊!一年C組十八位、放課後の弛まぬ努力と筆記試験の成績は誰もが認める所だか、その毒舌と奇抜で不潔なファッションと高望み過ぎる態度で誰も友達が居ない、自業自得が服を着たような存在です!」

「どすこいどすこいどすこーい!」

 デール先生の歯に衣着せない解説を受けて私が華麗にリングイン。A組生徒達が座っている方に向かって投げキッスをする。

「BOO!BOO!」

「さっさとやられろー!」

「お前は一度痛い目見た方が良いぞー!」

 見事なブーイングの嵐。

 だが、こんなブーイングは勝負が始まるまでだろう。私の現在の実力が白日の下に晒された時、このブーイングは大歓声に変わるのだ。

「続きまして、ケットシーの方角よりスグニ・マゾクナルの入場です!一年A組二位、だがこの学園の誰もがその実力には疑問を抱いている事でしょう!親のコネで手に入れた順位に必死にしがみついて早半年!その図太さはある意味羨ましい!」

「俺様が来た!」

 これまた酷い紹介を受けて、スグニがリングイン。彼に対しても入場と共にブーイングの嵐。

「今日こそメッキが剥がれてしまえ!」

「対抗戦での逃げ回る戦術はここでは使えねーぞ!」

「つーか、どっちも負けろや!」

「この学園で一番嫌われてる男と、一番嫌われてる女の潰し合いだ!どちらに転んでもスカッとするぜ!」

 観客からの声援は五分と五分。どちらも同じぐらい嫌われていた。まあ、こんなブーイングはモブの囀り。私の心には響かない。ちょっと涙ぐむ程度だ。

「あ、やっぱ辛えわ…シクシク」

「大丈夫か、カトちゃん?」

 私の涙を見て心配するスグニ。この涙はお前のせいやぞ。

「私は、アンタと同格扱いなのが辛いの!さっさと終わらせたいから、欠闘で失う物を宣言してよ」

 欠闘では、勝負の前に自分が負けたら何を失うのかを皆の前で宣言する。それは、覚悟を示すと共に、敗者から確実に大事な物を取り立てる為でもある。

「んじゃ、俺様から宣言するぞ。俺様はこの欠闘に負けたら金輪際カトリーヌン・ライスに近付くのを止め、A組から自主降格しまっす!」

 スグニの宣言が終わり、次は私が宣言する。

「私が負けたら、サンダーロッドをスグニに渡し、彼の友達になります!」

 審判役の教師達が私達の宣言した内容を誓約書に記し、両者の失う物が釣り合っているかどうかの審議も問題無く終了。私とスグニはリングの両端に移動し、開始の合図を待つ。

 カーン!

 ゴングが鳴った直後、スグニは昨日購入したトルネードロッドを手にして、風魔法を私に放つ。

「風の精霊来いや!ウインドカッター!」

 風の初級魔法ウインドカッター。威力はイマイチだが、風の刃は見え辛い上に速度があるので避けるのは難しい。よって、余裕を持って大きく避けるのが正解。

 だが、それは凡人の発想だ。ごるびん師匠から教えを受けた私なら、こうする!

「ハッ!」

 グルンッ、シュタ!

 私は、前転の無敵時間を利用して風の刃をくぐり抜ける。

「キレテナーイ!」

「んなっ、馬鹿かてめぇ!?」

 風の刃を最短距離で突破した私は、サンダーロッドの力を借り付与魔法を発動しながらスグニに接近する。

「稲妻キーック!」

「ぐへっ!」

 雷を纏った右足がスグニを蹴り飛ばす。

 サンダーロッドを装備する事で魔法の威力は上がったが、両手は塞がり、嘗ての最強技であるライトニングナッコゥは使えなくなった。その問題を解決する為に編み出した新技が、この稲妻キックである。

「痛ってえ〜!ハアっ、ハアっ、カトちゃん面白え技使うじゃねーか。最初の一撃は痛み分けって所か?」

 稲妻キックを喰らったスグニは、ダウンこそしなかったものの、胸を押さえて相当苦しそうだ。初撃は痛み分けだなんて強がっているが、前転回避でノーダメージな私が圧倒的有利。まあ、スグニは前転中の無敵なんて知りようが無いから、本気で痛み分けだと思ってるかもだけど。

 ゴトッ!

「ん?」

 突然私の頭に乗せていた土鍋がリングの床に落ちた。取っ手に付けていた紐が緩んでいたのかなと思いながら拾い上げると、紐は鋭利な刃物で切断したかの様になっており、切断された部位には血が付着していた。

「これは、私の血?」

 顔に手を当てて確認すると、鼻と両目の間らへんに横一文字に傷が走っており、そこからダラダラと血が流れていた。

「キレテール!ナンデー!」

「ウインドカッターに顔面から突っ込んだら、そうなるに決まってるだろ。逆に何で切れないと思ったんだよ?」

 畜生、よりにもよってスグニに馬鹿にされてしまった。

「雑炊、意味不明の自滅だぁ~!解説のトム君、彼女は一体何がしたかったのでしょう?」

「多分、何も考えて無かったか、俺達には理解出来ない常識があいつの中にあって、それに従って動いたのでしょう」

 解説席も私のミスについて勝手な事を言いたい放題だ。

「雑炊、続行出来るか?」

 レフェリー役のどこかのクラスの担任が、心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

「オッケー!!セイッ!」

 私はレフェリーストップを避ける為、そして、気合を入れ直す為に、息吹と共に顔の血を手で拭った。そしたら、手に付いた血が思いっきり目に入った。

「やっべ、ちょっと血が目に入った!スグニ、タンマ!」

「分かった」

 私にタンマと言われて素直に待つスグニ。

「…」

 ゴシゴシしても中々前が見えない私。

「…」

 待機中のスグニ。

「…」

 試合のストップをするか悩むレフェリー。

 気まずい空気の中、私は目に入った血を拭おうとするが、目に血が入る事なんて初めてなので中々上手く行かない。

「このっ、取れろ!取れろ!」

「カトちゃん、俺様そろそろ動いていーか?」

 痺れを切らしたスグニが、トルネードロッドを構えて詠唱を始めた。

「やだ!」

「やだと言われても、これ欠闘中だぜ?風と氷の精霊よ、癒やしの雨をを呼び我らの傷を癒やしやがれ。ヒールレイン!」

 スグニが詠唱を終えると、温かいお風呂のお湯みたいな雨がリング内に降り注ぎ、スグニの顔色が良くなっていく。私の目に入った血も洗い流され、顔の傷も塞がった。

「さあ、仕切り直しと行こうかカトちゃん!」

「アンタ私の事を舐めてるの?それとも、アホなの?今の回復魔法で私も全快したんだけど」

 ヒールレインは少ない魔力で広範囲を回復可能だが精密性に欠ける。なので使い所を誤ると、今回の様に敵まで治してしまうので、実戦向きでは無いとされている。

「だって、俺様回復魔法これしか使えないし…」

「回復魔法覚えて無い私でも、それはおかしいって分かるよ。普通ヒールから覚えるでしょ」

「この魔法覚えたら、誰かにパーティに誘って貰えるかもって思ったんだよ。でも、敵まで回復したら迷惑なだけだよな。俺様、いつもこうなんだよ」

 スグニの顔に涙が浮かぶ。雨に濡れていて分かり辛いが、間違いなく声を殺して泣いていた。

「…さっき待って貰ったからね。アンタが泣き止むまで待ってあげる」

 私の提案に対し、スグニは無言で頷き、私が目に入った血を取ろうとした時と同じ様な動きで涙を拭い始めた。それを確認した私は小声で詠唱を始める。

「雷の精霊よ、敵を倒す活力と武器を与えたまえ。エレキバンド。そしてサンダーウェポン」

 私は稲妻キックを放つ前提となる二つの魔法を詠唱しながら、そ〜っとスグニの背後に回る。レフェリーの先生が『お前、何しとんねん』と言いたげな顔をしているが、私は何一つとしてルール違反はしていないので、声に出して注意はしてこない。だから、スグニはまだ気付いていない。

「ぬん」

 シュバッ。

 私は静かに跳躍し、回転を加えたドロップキックを無防備な後頭部に放つ。

「うおお!アレは始業式の日にオレに向かって突撃してみせた技だぁ!」

 解説席のタフガイが叫んだ通り、これは始業式の日の好感度十二倍プレゼントアタックの動きだ。ただし、これは好感度では無く、ダメージを与える目的で改良を加えたモノである。

 相手の上から回転しながら落下して放つ、稲妻キックの改良版。その名も!

「ハイパー稲妻キーック!!」

「え?」

 どぐちゃ!

 私が技名を叫んだ事で漸く事態に気付き振り返った結果、スグニは顔面でキックを受けてしまう。元々汚かった顔を更にぐちゃぐちゃにして、リングに沈むスグニ。

「まだまだ行くよー!」

 私は着地と同時に再びジャンプして、ローリング・ヒップドロップでスグニに覆い被さり、そのままフォールする。

「ワン・ツー・スリャー!」

 カンカンカン!

 レフェリーのスリャーカウントの後、ゴングが鳴らせれ完全決着となった。

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