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第二十七話【ドカ食いサンダーはいチーズな模様】

「やらかした。完全にやらかした」

 私はタフガイとの会話の選択をミスして好感度を大幅に下げてしまったのだと知り、レストランのソファーからずっと立てないでいた。

「ドナベさん、これからどーしよ」

「もう今日は家に帰って頭洗おう、ね?」

 私が落ち込んでるからだろうか、ドナベさんの声がいつもより5%増しで優しく聞こえた。彼女の言う通り、もう家に帰って大人しくしていようと思い、腰を上げてタフガイの置いていったお札を手に取る。

「あれ、これ千エン札二枚しじゃなくて、千エン札と五千エン札じゃない。…すいませーん!注文追加しまーす!」

「雑炊!?君、何やってんの!」

「タフガイが置いていったお金で今日は食べまくって嫌な事忘れる」

 私は臨時収入があったら、パーツと使い切るタイプだ。ここの所、サンダーロッドの為の積み立て貯金でずっと贅沢出来なかった思いとスグニに絡まれたストレスが、この五千エン札により爆発してしまったのだ。

「今日はチートデイに決めたんだよ!毎日毎日、節約ばかりでもう限界だったんだ!」

「それは人のお金だから!後でタフガイに返さなきゃいけないお金だから使っちゃ駄目!」

「ドナベさん、知らないの?人のお金で食べるゴハンは美味い、使っちゃいけないお金で食べるゴハンも美味い、だから使っちゃいけない人のお金で食べるゴハンは、美味い×美味いで超美味いんだよ」

「駄目だこいつ、完全に正気を失ってる!ホンワカパッ波〜!」

 自分でも止められない暴走状態に陥っていた私は、洗脳光線をマトモに喰らってしまった。


(ホワンホワンホワ〜ン)

 何でも揃う冒険マートへようこそ!プレイヤーの皆さんこんにちは!私は冒険マートの看板娘です!ちなみに、ギルドの受付は私の姉です。今日は皆さんに冒険マートのお得情報をお伝えしましょう!

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(ホワンホワンホワ〜ン)


「いただきマンモスー!」

「しまった!逆効果だ!」

 頭の中に流れ込んだレストランの食事風景により、私の食欲は完全に暴走した。

「店員さん、ピザとバターコーンとペペロンチーノとチョリソーとハンバーグプレートとチャハーンと」

「三色チーズドリアの温玉かけ一つ」

「あ、それ美味しそう。私も同じやつ一つ、それとガーリックライス大盛りくださ、げえっスグニ!」

 私が食べたい物をありったけ注文してると、いつの間にかさっきまでタフガイが座っていた席にスグニが座っていた。 

「スグニ、何しに来たのよ。乙女の一人ファミレスを邪魔するのは犯罪なの知らないの?」

「テーブルの上の五千エン、タフガイのだろ。それでメシ食う方が犯罪だぞ」

 こ、こいつ私が一人土鍋に隠れてるドナベさんは人数に含まないものとするになるまでずっと店の外から覗いてやがったな!

「つーわけで、この五千エンは俺様がタフガイに返しておいてやる。席も近くだしな」

「ムキー!その席、私に寄こしなさい!アンタがタフガイやブーン様達の傍に居ても場違いなだけでしょ!」

「俺様が順位下がっても、カトちゃんがA組になれる訳じゃねえだろ?」

「それでも、他の誰かに席を譲りなさい!」

 私がまだスグニの居る場所に相応しく無いのは重々承知だ。だが、今の私以上にスグニは攻略対象の横に立つのには相応しく無いと確信を持っている。

「酷いなあ、俺様また泣いちゃうよ?」

 勝手に誰も居ない所で一人で泣いてれば良いと思う。

「さて、話は変わるが。俺様が買った杖について」

「要らないって言ったでしょ?今すぐ出ていかないと、本当に警察呼ぶよ?」

「俺様のチーズドリアが来たら帰るよ。それまでは、いいだろ?」

 私が無言で睨みつけると、それを肯定と取ったのか、スグニは勝手に喋りだした。

「タフガイに殴られて、俺様は反省した。カトちゃんは施しを受けるのが嫌なタイプの子なんだよな?」

 私は無視して、チョリソーとバターコーンを胃に流し込む。アンタ以外のから同じ事されたら、遠慮無く貰ってたと言ったとしても、どうせコイツは聞く耳持たないと思ったからだ。

「そこで提案なんだが、杖が手に入って、俺様をボコボコに出来て、なおかつ俺様と二度と会わなくて良いって手段があったなら、カトちゃんはやるかい?」

「モグっ?」

 私はハンバーグを食べる手を止めて、スグニの方を見る。ちゃんと聞いて無かったけど、こいつ今、凄い事言って無かった?

「お前殴る、杖貰える、もう近寄らない、おけ?」

「何でカタコト何だよ。まあ、それで合ってる。具体的に言うとだな…」

 おし、言質取った。

「いやーっ!」

 私はスグニの顔面を思いっきりグーで殴った。

「ぐわーっ!」

 顔を押さえて蹲るスグニ。その隙に、私はサンダーロッドを手にしてレストランを出ていく。

「約束通り、杖貰ってくね!」

「待て、そういう事じゃねえ!返せ!」

 スグニは立ち上がり、私を追おうとするが、丁度その時チーズドリアが届いた。

「…くっ、頂きます!」

 スグニは泣きそうな顔で着席し直すと、黙々とチーズドリアを食べ始めたのだった。


「やーった、やったやった杖だ〜!えい、ライトニング!」

 念願のサンダーロッドを手に入れた私は、寮の庭で早速その効果を試した。

 ビカビカビカー!

 おおっ、詠唱を短縮してもフル詠唱と変わらない威力のライトニング!そして、発動後の疲労感も殆ど無い!

「杖の力ってつえー!」

 口から無意識に爆笑必至のギャグが飛び出してしまう。それぐらい嬉しかった。

「ドナベさん、一番安い杖でこんだけ凄いなら、高級な杖だと、もっと凄いのかな?」

「ああ。そのサンダーロッドは雷魔法強化しか出来ないけど、高級な杖になると魔力消費無しでファイアーボールが撃てたり、自分の全属性耐性を強化したり、全ての魔法が広範囲になったりするよ」

「すっごーい!いつかそんな杖も使いたいなー!」

 やっぱり杖を手に入れて本当に良かった。杖を手にした事で、私は一つ上の強さを得た実感を得たと同時に、更なる高みを目ざずモチベーションが湧いてきた。

「こうやって杖を手に出来たのも、一応はスグニのおかげなんだよね。そういえばスグニの奴、杖を売るって言ったり、あげるって言ったり、返せって言ったり、一体何がしたかったんだろうね?」

「僕にも分かんないよ。なんせスグニはこの世界の元となったゲーム内で一番テケトーに作られたキャラだからね」

「テケトーに作られた?それ、初耳なんだけど、詳しく教えて」

 私はドナベさんにスグニの詳細を催促した。今までは、メインキャラでは無い、ただのやられ役としか聞いておらず、脇役に関心抱いてる暇は無いとスルーしていたのだが、今日異様なまでに絡んできたから参考までにもっと詳しい話を聞きたいと思ったのだ。


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