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第二十五話【復学早々退学の危機な模様】

 一年C組の教室に入ると同時に私は土下座した。

「皆、ごべーん!色々酷い事言って都合が悪くなったら逃げた私だけど、また一緒に授業に参加させてくれるかなぁー!」

 この謝罪は、ごるびん師匠からの助言によるものである。前転修行の最中、私が休学するまでの流れを師匠に話した事があり、その時に『自分は間違って無いと思っていても、謝罪しておきなさい。他人から足を引っ張られるのって面倒ですわよ』とありがたいお言葉を頂けたのだ。

 そんな訳で久しぶりに教室に入ったと同時に土下座してみたのだが、クラスメイトの反応が薄い。私の事を無視しようと決め込んでいたのか、それとも私の暴言なんてとっくの昔に皆忘れてしまったのか。恐る恐る顔を上げて、皆の顔色を確認すると、反応が薄かった理由が分かった。

「何か、皆の顔違うくね…?というか、欠席者多くね?」

 教室に居る生徒の人数が少ない。そして、半数近くの生徒が知らない奴と入れ替わってる。C組生徒なんてモブだから顔覚える必要ナッシンとイキリ散らかしていた私だが、一応顔ぐらいは辛うじて記憶に残っている。そして、その記憶に当てはまるモブが教室の中に十人ぐらいしか居ないのだ。後の十人は完全に知らない顔だ。

「えっと、もしかして私、入る教室間違えた?」

「ここが一年C組で合ってますよ。雑炊が居なくなってから色々あったのです」

「あ、デール先生」

 デール先生が来た事で教室を間違えた訳では無いと分かった。私が席に座ると、デール先生は皆に向かって説明を始めた。

「えー、知っている人は知っている話ですが、一学期終了後に十八名の生徒が退学届を提出し、それに伴いB組下位の生徒がC組へ降格になりした。その結果が今の教室の状況と言う訳です」

 ワーオ、マジで自主退学者出ていたのか。それも一年C組から結構な数が。これ、私が煽ったせいじゃ無いよね?

「それと、一学期の途中から休学していた生徒がこの度復学する事になりました。雑炊、皆さんに挨拶して下さい」

 デール先生に呼ばれた私は、先生の横に立って挨拶がてら自己紹介をする。

「皆さん、おはようございます。カトリーヌン・ライス、渾名は雑炊です。一学期色々やらかして自主休学してましたけども、この度無事復学する事が出来ました。よろしくお願いします」

 私が挨拶を終えると、まばらな拍手が飛んでくる。私の事を好きとか嫌いとな以前に、彼等は私と目を合わせようとしていない。

「うう〜、やっぱそう簡単には許して貰えないか」

「許すも何も…雑炊は校則違反以外悪い事してないですよ?貴女が無視されてるのは普段の言動がおかしかったからです」

「えっ」

 デール先生の指摘は完全に私の予想の斜め上だった。

「対抗戦前ぐらいに貴女が言った煽りは、実力主義のこの学園では正しい発言だったのです。ですので、退学した生徒について貴女が気に病む必要はありません」

 デール先生、良い事言うやんけ!

「雑炊、それでは貴女が何故無視されてるのでしょうか?それは、発言が異次元で人前でオナラ連発するし、髪の毛も服も全然洗わないし、頭に土鍋乗せているからです。あ、服だけは洗濯してきたみたいですね。私の言いたい事は以上です。授業しますので席に戻りなさい」

 デール先生、人の心とか無いんか!

 でも、今まで気にしていなかったけれど、私には清潔感が足りてなかったかも知れない。だって、毎日四時間マラソンして徹夜で勉強して部屋の掃除と自炊していたんだよ?私自身のケアなんて全くしてこなかったし、気にもして来なかった。これは、ドナベさんにしっかり相談しなきゃいけない案件だよね。


 ど、言う訳で放課後二人きりの下校中にドナベさんに聞いてみた。

「デール先生に指摘されるまで実感無かったけれど、私って臭かったんだね。何でドナベさんは注意してくれなかったの?」

「一応言ったよ。オナラが臭いとかガマ臭いとか汗臭いとか」

「そんな言い方じゃ分からないよ。こんな見た目じゃ攻略対象にマイナスの印象を持たれるぞとか言ってくれたら、私だって見た目気にしていたのに」

 思い返すと、ブーン様やリー君に会った時の私って相当見た目アカンかったと思う。それと言うのもドナベさんが指摘してくれなかったせいだ。

「ドナベさんは乙女ゲームマスターなんだよね?私の外見や仕草について、注意する義務があると思うんだけど」

「ダイジョブダイジョブ〜、ゲームでは部屋が汚い事で料理や調合が失敗しやすくなるデメリットは有ったけど、見た目は特に好感度に反映される事は無かったから。オシャレにお金と時間費やすぐらいなら、筋トレと勉強。後、クッキー。それがハーレムの基本だよ」

 あ、駄目だ。コイツマジでゲームの事しか頭に無い。乙女ゲームマスターかも知れんが、現実の乙女としてはダメダメだ。

「まあ、このゲームにも衣装チェンジとかお化粧イベントは有ったけれど、本編に何も影響を与えない脇道要素だった。だから、今のままで良いんじゃない?」

「何よそれ。ドナベさんって、リアルに恋愛した事無いからそんな事言えるんだよ」

「失礼だな、僕はこう見えて既婚者で子持ちだよ。本編開始まで男の手を握った事も無かった君よりずっとガチ恋愛も経験してるんだよ」

 それは初耳だった。てっきり私と同い年だと思ってたけど、ドナベさんって結構年いってたんだ。

「ドナベさんって、年の割に幼いよね」

「この身体は女神様に頼んで作って貰ったアバターなんだよ。君だってナビゲーターが年の近い女の子の方が良いだろう?」

「私が幼いって言ったのは精神面の話で…、あれ、郵便が届いてる」

 バカ話をしながら帰宅すると、寮の郵便受けに封筒が入ってるのに気付いた。

「友達も家族も居ない君に手紙って珍しいよね」

「ほっとけ。誰からだろ。男爵様か寮母さんかな」

 部屋の中で封筒を破り中身を確認すると、それはデール先生からだった。

『休学中の雑炊へ

休学中とはいえ、貴女はこの冒険者学園の生徒です。なので、復学後にスムーズに授業に追い付いて貰う為にも皆と同じ宿題をして貰います。夏休みの間に冒険者登録をして、何でも良いからボス格の魔物を倒してその証を持ってきて下さい。提出は九月二日です。提出がされなかった場合は、当然強制退学となるので絶対に忘れない様に。一年C組担任デールより』

 ビリビリビリ!

 手紙を読み終わった私は、ショックで反射的に手紙を破った。そして、襲い来る現実を受けてその場に倒れ込む。

「心臓が痛い!心臓が痛い!ドナベさん!今日何月何日?」

「落ち着いて雑炊!今日は始業式だから九月一日だよ!」

「デール先生!何で、もっと早く教えてくれなかったのおおお!」

 私は悲鳴を上げながらビリビリに破いた封筒の残骸を確認すると、消印は七月だった。普段郵便受け確認しない私のミスだった。

「と、取り敢えずボス撃破しなきゃ!ダンジョン、ギルドっ」

 私は小刻みなダッシュを繰り返し、大急ぎでギルドへ向かう。

「いらっしゃい、雑炊ちゃん。残念だけど、今日は休業日なのよ。新学期になったばかりで学生も殆ど来ないし、プロの人達も冒険税の申告日だからね」

「チクショー!ありがとうございましたっ!」

 受付のお姉さんに礼をしてダッシュで帰宅。既に夜中と言って良い時間になっていた。

「寮母さん、スコップ貸してー!」

 スコップを借りて、ごるびん師匠の墓を掘る。

「うおおおおー!」

 丁寧に深く埋めたせいで掘り返すのに時間が掛かり、師匠の死骸が出て来た時には深夜になっていた。

「師匠ごめん!でも、私が休学中に倒したボスキャラって師匠ぐらいしか居ないから!」

 泣く泣く師匠を干し草の籠に詰め込み、明日に備えて少しでも寝ようとしたが、そうは問屋が卸さない。

「雑炊!勝手に寮に魔物埋めてちゃあかんでよ!」

「げえっ、寮母さん!」

 スコップ借りた上に、あれだけ深夜にうおおおーと叫びながら掘っていたのだ。当然寮母さんにバレてしまった。寮母さんの説教を聞きながら掘った穴を埋める作業をしていると、朝日が昇ってきた。

「次やったら退寮だがね!」

「寮母さんすみませんでした!そして、行ってきまーす!」

 年寄りの説教は長い。終わった頃には寝る時間も風呂入る時間も無かった。私は師匠の入った籠を背負い、学園へ走る。

「そりゃそりゃそりゃー!」

 モツ抜きされて干からびたと言っても、師匠は成人男性一人分の死体だ。残暑の熱も手伝い、私の全身から汗が止まらない。それでも私は走る。退学を回避する為に!着いた、学園だ!でも、頭には土鍋背中には師匠の私は絶対に廊下や階段でつっかえる!そしたら、宿題の提出に間に合わないかも!

「おりゃおりゃおりゃー!」

 私は前転を連打し、生徒や教師をすり抜けて職員室へ向かう。通り過ぎざまに皆が私の姿を見て顔をしかめるが、そんなの気にする余裕はねえ!

「デール先生!宿題持ってきました!どうぞお収めくださいっ!」

「クッサー!」

 朝のホームルームの準備をしていたデール先生に接近すると、彼は白目を剥いて倒れた。失礼な、いくらなんでもそこまで臭くないでしょ!そう思いながら職員室を出ると、私とすれ違った人達が全員気絶していた。

「ねえドナベさん、やっぱり少しぐらいは綺麗にしていた方が良いかな?」

「そうだね、僕が間違っていた。明日、いや、今日の放課後に香水とお風呂セットを買いに行こう」

 気が付かない内に、体臭が攻撃魔法並みになってしまっていた私は、漸く乙女ゲームのヒロインらしくオシャレへの道を進み始めるのだった。

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