20万の損をしてから一週間が経過した。その間、私はひたすらガマを潰していた。
「おりゃ!おりゃ!おりゃ!」
「ガマ!ガマ!ガマ!」
ボキィ!
「うわ、また折れちゃったよ。やっぱ安物は駄目だね」
ガマ叩き棒、物干し竿の先に石の入った麻袋を巻き付けた物。一本350エン。
ガマ、でかいカエルの見た目をした、ダンジョンで最も多く見る魔物。ごるびんと違い、サイズ以外はカエルそのもの。その死体は、ギルドで10エンで買い取ってくれる。
「えーと、これまでに倒したガマは82匹で、ガマ叩き棒は三本目だから、えーと、ドナベさん計算して!」
「82×10−3×350=マイナス230エン。今日も赤字だね」
「この仕事、割に合わねー!ドナベさん、このガマ狩りが今一番稼げる仕事じゃ無かったの?」
「雑炊が武器の扱いが下手なのが悪いよ。原作のカトリーヌンは、何百体のガマを潰しても武器を壊す事は無かった」
「だーかーら、原作とやらの私と、目の前の私を比べて馬鹿にするのやめてって言ってるでしょ!」
ごるびんの出たダンジョンは警備が厳重になり、あの時の状況再現が不可能になった。ならばと、別のダンジョンで雑魚狩りで稼ごうとしたらこのザマだ。
「お金は貯まるどころか減っていくし、冒険者ランクはFから上がらないし、もうやだ。ねえドナベさん、今の私の行動ぅて正解を進んでるの?」
「心配しないで。隠しダンジョン攻略の次に効率の良いごるびん周回の次に効率の良いガマ無限狩りにも失敗したけど、それでも今はこれが一番の近道なんだ」
そんな事を言われても、成功しているという実感を数字で表して欲しい所だ。ドナベさんは嘘を付くけど数字はドナベさんよりは嘘を付かない。多分。
「ドナベさん、具体的にここまでの行動で何が良くなったのか教えてよ。データとか出してさ」
「自覚してないだけで、君は相当強くなっているよ。そこまてま言うなら、ちょっとステータスオープンしてごらん」
「ステータス、おーぷん?」
私は首を傾げた。ステータスを確認するには、学園かギルドに行く必要がある。今、このダンジョン内で出来るはずも無い。
「原作のカトリーヌンは、ステータスオープンを自在にしていたのに、君は」
「あー、もう黙って!ここ出たらステータス検査受けに行くから!それで良いんでしょ?」
私は干し草を編んで作ったカゴにガマの死体をありったけ詰め込むと、ダンジョンを出てステータス測定を受ける事にした。
「お姉さん、これ今日のガマ。それと、ステータス測定したいんだけど」
「魔力量だけなら無料、全ステータスを調べるなら2000エンよ」
「うう〜、やっぱりお金掛かるんだね」
決して安くない測定料を払い、番号札を受け取り椅子に座って待つ。ああ、また大事なお金が消えていった。これで、特に変化が無かったら恨むよドナベさん。
「58番でお待ちのお客様、測定室にお入り下さい」
「はーい」
私は測定室に入り、全ステータスを確認する為に様々な事をやらされた。力を見る為のバーベル上げ、素早さと体力を見る為のシャトルラン、弱点属性を知るために色とりどりのスライムひしめくプールに肩まで浸かり、今使える全部の魔法と武器術の型をギルド職員の前で披露し、ようやく結果が判定される。
「雑炊、お疲れー」
「ステータスの確認って…しんどい!で、これが測定結果が書かれた紙なんだけど、寮に帰ったら一緒に確認する?」
「する」
私は帰宅し、ドナベさんと一緒に用紙を広げて中身を確認する。
「「せーの、ステータスオープン!!」」
【カトリーヌン・ライス】
レベル:9
HP:53
MP:216
魔力量:291
身体能力:力F速E体A技E運F
武器技能:剣F槍E斧F拳F杖C
魔法技能:火F氷F土F風F雷C光F闇F
弱点属性等:闇・魅了・混乱に弱く、光・雷に強い
「うーん、わがんねっ!」
この紙だけでは、私がFランク冒険者として、C組の学生として強いのか弱いのか判断出来ない。こーゆー時こそドナベさん。
「ドナベさん、これって強いの?それとも普通?」
「まだまだクソ弱い。力も速さも技も育って無いし魔術師型だから、同年代の前衛と殴り合ったら一方的にボコられる。体力は無駄に高いからダメージを受けにくいけどHPが低いから何の強みにもならない」
「オッケー、それじゃあ今日はお風呂に入れてあげるね」
私が土鍋を水風呂に沈める準備を始めると、ドナベさんは慌てて話を続けた。
「待って!まだ説明は終わって無いから!ホラ、ここ。杖技能が結構育ってるだろ?これは、ガマ叩き棒を振り回し続けたおかげだよ」
「ガマ叩き棒って槍じゃ無いの?」
私は、あの武器を使った戦闘を思い返す。どう考えたも槍、百歩譲っても斧だろう。
「確かに、あの武器で杖技能が上がるのはおかしいと僕も思う。でも、ゲームではガマ叩き棒を使い続けると、何故か槍と杖の技能経験値が手に入るんだ。それも、杖の方に多目にね。魔術師用の杖はどれもこれも高いし、入手の手間が掛かるから、魔術師型育成ならガマ叩きは必ず通る道なんだよ」
どうやら、私は自分でも分からない内に、杖の扱いがそこそこ上手くなっていたらしい。
「と、言う訳で後は魔術師用の杖を手に入れて接近戦対策をすれば、雑炊はかなりの実力者に化けるはずだよ」
「そ、そうなんだ。私、ちゃんと強くなってるんだ。でも実感出来ないなあ…」
私がこれまで勝利したのはトム(相打ち)とごるびんだけで、どちらも弱点を突いた不意打ち。そして、ガマは初心者でも倒せる雑魚なのでいくら倒しても参考にならない。
「もし、私が本当に強くなってるのなら、早く杖を買ってベストな状態での実力を確かめたいよ。あ、そうだ!杖ならもう持ってるじゃない!」
私は外に出るとガマ叩き棒を取り出し、周囲にぶつけない様に注意しながら振り上げて得意魔法を詠唱する。
「雷の精霊よ、我が眼前の敵を薙ぎ払え。ライトニング!」
バチバチバチ!
ライトニングはガマ叩き棒を握りしめた両手から発射された。もし、ガマ叩き棒が杖ならば、両手を伝って棒の先端から増幅されたライトニングが発射されるはずだ。
「ママ、あのお姉ちゃん、槍を構えて魔法使ってるよー」
「しっ!馬鹿にしちゃ駄目!世の中には義務教育で救えない子も居るのよ!」
近くを通りかかった、山菜採りの親子連れが私の方を見て、頭の弱い子認定する。ちゃうねん!これは、ちゃうねん!
「ドナベさん!この棒って実は杖じゃ無かったの!?さっき杖って言ったよね?」
「言ってない。ガマ叩き棒は槍と斧の中間の武器に分類される。ただ、何故か槍と杖の経験値が入るってだけで、杖としての機能は一切無い」
「ナニソレー!」
「文句はゲーム会社か女神様に言ってね」
こうして、私はまた一つ大きな恥をかいてしまった。うう〜、ドナベさんの攻略情報はひっかけ問題みたいなのばかりだよ〜。