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第十一話【クッキーリベンジは悪役令嬢の前に散る模様】


 対抗戦が終わり、五月となった。でも、私はまだC組に居る。

「えー、この国では古くよりダンジョン資源により生活を潤して来ました。では、ダンジョン資源の三分類とは何か答えられますか、トム君?」

「先生、トムはB組に行きました」

「おっと、そうでした」

 モブ達がクスクス笑ってる中、私は笑えなかった。くっそ〜、何でトム如きが昇格して、主人公たる私がC組残留なんじゃーい!対抗戦の成績は同じ0点なのに!

「それでは、この問題は雑炊に答えて貰いましょうか」

 まあ、トムなぞに嫉妬しても仕方が無い。来月の対抗戦に向かい成績を上げておかねば。その為にも、小さなチャンスを確実にモノにしていくんだ。

「ハイ!ダンジョン資源はノーマル・レア・レジェンドの三種類があります!」

「違います」

 私は自信満々にドナベさんと勉強した内容を答えたが、デール先生は嬉しそうに両手でバツを作り不正解を告げた。

「ダンジョン資源の三種とは、魔物の死体から取れる骨や毛皮等の『魔素』、ダンジョン内に存在する植物や鉱石等の『採取物』、古代文明の跡地やダンジョン内で亡くなった冒険者から回収される『遺産』、この三つになります。雑炊が言ったノーマル・レア・レジェンドは、資源の売価基準に使われるランク分けですね」

 モブ達が私を見て笑う。あー!また簡単な問題ミスった!対抗戦以来ずっとこんな調子だよ!頑張っても結果が着いてこない!


「雑炊、最近の君からはやる気を感じられない」

 放課後、ドナベさんからもダメ出しされてしまった。

「四月に躓いて、モチベーションを失う。典型的な五月病ってやつだね?ここで踏ん張れないと、退学エンド一直線だ」

「う〜、私だって分かってるよ。でも何故か上手く行かない。ドナベさーん、何とかして。ほら、こーゆー時こそホンワカパッ波してよ」

 例のやる気の出る光を要求したが、ドナベさんの答えはノーだった。

「アレはね、君が心に隙を見せている時に照射しないと、殆ど意味が無いんだよ。待ち構えながら浴びても、君のやる気スイッチは入ら無いのさ」

「がビーン」

「今の君に必要なのは、あんなものじゃ無くて、基礎能力の向上だよ。さあ、今日も六時間マラソンと徹夜勉強会でステータスを上げるんだ」

 ドナベさんは、私に猛特訓の開始を告げる。だが、私の答えはノーだ。

「やだ!」

「やだ、じゃないでしょ?君の頑張りでイケメン達の運命も、この国の未来も決まっちゃうんだよ?その自覚を持ってよ」

「やだったら、やだー!私、授業で簡単な問題も間違ったのを、ドナベさんも見ていたでしょ?あれは絶対に睡眠不足のせいだよ!」

 私は床に寝転がり、手足をジタバタして抗議する。

「今日は休ませて!」

「やれやれ、仕方無いなあ雑炊は。そこまで言うなら気分転換を許可しよう」

「やったあ!寝られる!」

「勘違いしないで、あくまで気分転換だ。マラソンの代わりに、今日はクッキー作りをして貰う」

「それでも嬉しい!やるよ、クッキー作り!」

 こうして、始業式では準備不足で失敗したクッキー作りに再挑戦する事になったのだった。


「雑炊、クッキーの作り方は覚えているかい?」

「うん!小麦粉も買ってあるし、調理道具も寮母さんから借りた!今なら作れるよ!」

 トンテンカンテン、チーン

「でけた!」

「よし、それじゃあ完成したクッキーは来るべき日に備えてアイテムボックスに…、君はアイテムボックス使えないんだったね」

「うん。せっかく作ったのに、このままじゃ腐っちゃうね」

 また、A組の三人とは交流関係を築けていないからクッキーを渡しに行く事も不可能。どうしたものかと悩んでいると、ドナベさんが突然変な提案をして来た。

「実は、現時点でも30%の確率でクッキーを渡せる方法がある」

「えーっ、でも攻略キャラ達の家に行っても門前払いされるだろうし、A組の使ってる校舎に入ったら先生に捕まるんでしょ?というか、30%ってどゆこと?」

「説明している時間も惜しい。まずは今直ぐ学園に戻るんだ」

 私は意味も分からないまま、クッキーを持って学園へトンボ返りした。

「よし、何とか学園が閉まる前に戻って来れたね」

「ドナベさん、そろそろ説明してよ!どうやってクッキーをプレゼントするの?」

「C組校舎の屋上から空中ダッシュして、A組校舎の屋上へ着地する。こうすれば、教師に捕まる事無く、A組昇格前でも攻略キャラに会える」

 こいつ、まーたとんでもねえ事言いやがったー!

「それで、30%というのは屋上に狙いの攻略キャラが居る確率で」

「待てーい!」

「え?」

「その空中ダッシュとやらが100%成功する前提で話をしないで!私、屋上から飛ばなきゃならないの!?」

 C組校舎は四階建て。落ちたら骨折は確実だろう。

「飛ばないからね!私、絶対飛ばないから!」

「雑炊、君のハーレム愛はその程度なのかい?」

「この程度だよ!元々、アンタに言われて始めた事だから!私の本当の夢は、立派な冒険者になって、両親の遺品を見つける事なんだから!」

「その言葉を待っていたよ、ホンワカパッ波〜!」

 あー、こーゆー感じで…、完全に意識してない時に…浴びせるんだ…。


(ホワンホワンホワ〜ン)

『冒険乙女カトリーヌン』、フィールドアクションの使い方!

 はーっはっはっは!文系ヒーロー、ブーン・フォン・アークボルト見参!学園内や、学園から寮への移動で困っている諸君に朗報を届けに来たぞ!

 今回教えるのは、ダッシュ機能だ。Rボタンと方向キーを同時に押す事で、数秒間高速で移動出来る。そして、Bボタンでジャンプしている最中や、落下中にRボタンと方向キーを押すと…、何と空中を走る事が出来てしまうのだ!この空中ダッシュを使えば、ダンジョン内の崖の向こうへ移動したり、落下のダメージを軽減したりも出来るのだよ!

 ダッシュと空中ダッシュを使えば、恋も冒険も思いのまま…とまでは言わないが、限られた時間をより有意義に使えるのは間違い無い。そして何より、空を駆ける君は美しい!私が描く冒険譚に、君の名と姿が加わる日を楽しみにしているよ!はーっはっは!

(ホワンホワンホワ〜ン)


「ブーン様!今会いに行きまーす!」

 私はC組校舎を全力で駆け上がり、あっという間に屋上へ辿り着いた。恐怖は無い。ハーレムが作れなくなる事の方がずっと怖い。だから、飛ばなきゃ。

「よし雑炊、あっちの端っこまで全力で走ってジャンプ、そして最高点に到達したらダッシュだ。これまでのマラソンで鍛えた足腰ならギリ届くはず。タイミングは僕が伝えるから信じて飛ぶんだ」

「おけ!うおおおおお!」

 私は走った。

「飛んで!」

「おー!」

 私は飛んだ。

「ダッシュ!」

「おー!」

 私は空を駆けた。干し草持って、タフガイ君に飛び掛かった時のノリでやったら出来た。でも、ちょっと高度が足りない気が。

「ごめん、この軌道だとちょっと届かないや。僕達は向こうの校舎の三階の壁か窓に激突する」

「オー!?」

 私はダッシュ力が尽きて落下し始めた。ドナベさんの言う通り、向こうの校舎の屋上に着地するには勢いが足りない。

「ドナベさん!私、ちゃんと言われたタイミングで飛んだよね!?」

「うーん、どうやら頭に土鍋を乗せてる分、跳躍力が足りなかったのかもね。こうなったら最後の手段だ。隠しコマンドのオナラジェットを…」

「ドナベさんごめん!蹴る!」

 ドナベさんが何か解決案を言いかけていたが、それを最後まで聞く余裕は無かった。私は、頭の上にあった土鍋を足の下に移動させて踏む!

「空中二段ジャーンプ!」

「雑炊ィィィィ!!」

 踏み台にした土鍋と共に遠のいていくドナベさんの悲鳴を聞きながら、私はどうにか再浮上し、そこからもう一度空中ダッシュする。

「届けェェェェー!」

 A組の校舎がぐんぐん近づいて来た。屋上を見下ろすと、先月個人戦に参加していた五人が何やら話していた。

「ギョエー!何で悪役令嬢が私のハーレムメンバーと仲良くしてるのー!?」

 個人戦の時に一緒に居たのはクラス行事なのでまだ許容範囲だったが、放課後に屋上で一緒に居るとか、それはもう友達とか恋人とかじゃないか!その光景にショックを受けた私は、彼らの輪に割って入る事など出来ず屋上を通過してしまう。

「しまったぁー!降り損ねた!死ぬー!」

 屋上に着地出来なかった。それは即ち四階分プラス二段ジャンプした分の高さから地面に激突するのが確定したという事。もうこれ以上のジャンプもダッシュも出来ない。このまま落ちるしか無いのかと思ったその時、ドナベさんがオナラジェットとか言っていた事を思い出す。オナラジェット、それが何なのか分からないが、飛距離を伸ばす手段でオナラが関係している事は想像出来る。

「出ろー!」

 私は下腹部に力を込める。が、都合よくオナラが出るなら苦労はしない。

「出ねー!でも、ハーレム作るまで死ねるかー!」

 私はオナラジェットを諦め、別の手段へ切り替えた。ポケットの中にあったクッキーを全部取り出し、バリボリと噛み砕き吐き出す。そして、粉と化したクッキーに向け雷魔法を発射した。

「ライトニング!」

 チュドーン

 クッキーの粉に火花が引火し、小規模の爆発が発生する。それにより私は斜め上へ上昇した。

「しゃあっ、小麦粉バクハツ作戦成功!ありがとう、おっかさん!」

 小さい頃、おっかさんが料理中に小麦粉の袋をひっくり返し、飛び散った粉に火が付いて親子共々死にかけた事があったけど、その経験がこの窮地を救った。人間、どんな体験が役立つか分からないものだなあ。

 よし、後は屋上に着地するだけ。だけど、A組の校舎はもう大分遠くになっちゃったなあ。それに、悪役令嬢が私のハーレムと仲良くしている現場に降りたくは無いし、C組校舎はもっと遠い。

「仕方無い。一旦、B組の校舎に降りよっと」

 確実に届く距離にあるB組校舎に向かって方向転換。勿論、こんな場所に用事は無いので、屋上に着地したらその足で帰宅するつもりだった。つもりだったのにぃ…。

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