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第十話【黒幕は登場と同時に土下座した模様(フリーダ視点)】

(ホワンホワンホワ〜ン)


 質問届いてました。


『主人公のカトリーヌンは田舎から来た男爵令嬢と名乗ってます。ですが、彼女の名前には王国貴族には漏れなく付いているフォンの文字がありません。本当に貴族なのですか?』


 答え:貴族の娘として育ったけど貴族では無い。


 どういう事かと言いますと、カトリーヌンは男爵に引き取られたんです。彼女の実の両親は共に貧しい冒険者で、父はカトリーヌンが生まれて間もなく亡くなり、おっかさんも難関ダンジョンへ向かい行方不明になってしまいました。そして、おっかさんに恩がある男爵がカトリーヌンを引き取り育てたのですが、カトリーヌン自身が養女となる事を拒んだ訳です。


 彼女にとっては、天国のおっかさんこそが唯一の親だった。だから、貴族の家で育った平民となる事を選んだのでしょうね。では、何故自分の事をたまに男爵令嬢と言うのか?それは、単に彼女がアホの子で名乗り間違えているだけです。


 質問、お待ちしております。

 リー・ラオ研究所!


(ホワンホワンホワ〜ン)


 それは正に一瞬の事でしたわ。青い光を浴びた私の頭にゲームのおまけムービーが思い起こされた後、気が付くとそこには水色のパーカーを着た少女が立ってましたわ。


「こんにちは、僕ドナベさんです」

「雑炊に色々と変な事をさせていた人は貴女ですの?」

「ウフフ、その通りさ。僕がグロリアに代わって雑炊を今まで導いて来た。そして、雑炊は今、僕の魔術で自分にとって都合の良い夢を見ている」


 ドナベさんの言う通り、雑炊は床でアホ顔晒して気絶してましたわ。時々、ブヒィと気持ち悪い笑い声を出しながらお尻を左右に振ったり鼻血をドバドバ流してますわ。


「あらあら、一体どんな夢を見てますのやら」

「夢の内容はどうでも良いだろう?僕達にとって大事なのは、雑炊が当分目覚めないという事さ」


 そう言うと、ドナベさんは地面に両膝をつき、流れる様に頭を下げた。


「フリーダさん、ウチの雑炊が迷惑掛けてすみませんでした」

「…は?」


 あまりにもスムーズな土下座&謝罪に、私の頭がフリーズしてしまいましたわ。


「まさか、悪役令嬢が転生者だったとは夢にも思いませんでした。ゲーム通りに行かないのが確定したので、これからは貴女達に迷惑が掛からない様に大人しくしてます」

「ちょ、ちょっと、お待ちになって!段取り!段取りってものがあるでしょう!」


 ヒロインの裏に黒幕が居て、その黒幕がこれまでの行いを謝罪する。それ自体は喜ばしい事であり、私の望んだ決着ですけど、色々と順序というものが!


「まだ実害が出る前に貴女が転生者だと気付けて、そしてこうして二人きりで話せて本当に良かった。どうかお許しを〜」

「タイム、ターイム!ドナベさん、謝罪はいいからそれよりも先に説明をして貰えないかしら?主に貴女の正体と目的とか」

「ふむ、それもそうだね。僕達は未だ初対面の関係にある。まずは、改めて自己紹介といこうか」


 ドナベさんはスッと立ち上がり、再び己について語りだしましたわ。


「こんにちは、僕ドナベさんです。日本から来た異世界転生者です」

「あ、そこからやり直しますのね。では、私も」


 私はドナベさんに習い、頭を下げて自己紹介を返しましたわ。


「ご機嫌よう、私はフリーダ・フォン・ブルーレイですわ。十歳の時に前世の記憶を取り戻した転生者ですわ。まあ、貴女と違って肉体と魂はこの世界の人間ですけれど。貴女は、日本から直接来ているタイプの転生者で合ってますわよね?」

「うん、僕はこの世界を創造した女神様から頼まれて、良い未来を作れって頼まれたんだ。でもさ、悪役令嬢が前世持ちだと話が変わってくるだろ?」

「ですわね」


 原作の悪役令嬢フリーダは、物語開始前から様々な悪事を積み重ねてきており、説得や和解はどのルートでも不可能。だからこそ、私はそれを回避する為にこの五年走り回りましたわ。


「僕はこの一ヶ月の間、土鍋の中から色々と見聞きしてきたけれど、公爵家の様子とか君の対人関係とか大分原作と違うじゃないか」

「ええ、むっちゃ頑張りましたのよ」

「そっか、ならこの先の展開も、例えば魔王対策とかも出来ているの?」

「モチのロンですわ。私は、ヒロインが敵対してきた場合を想定して、もしヒロインがやるべき事を行わずに退場した場合でも、彼女の義務を引き継いで人々を救うつもりでしたわ」


 私は自分の幸せの為だけに動いていない事を知ったドナベさんは、安心したかの様に、フッと表情を柔らかくしましたわ。


「はぁ〜、どうやら僕がここに来る必要は無かったみたいだね。それどころか、余計な事をしてしまったかも知れないな」

「余計な事、ですの?」

「ああ。何せ僕はそこで屁をこきながら幸せは夢を見ている雑炊に、『悪役令嬢を倒す事が君の目標だ』と洗脳教育してしまったからね」

「ウヘヘ〜、グッドエンドだぁ〜(プッ)。悪役令嬢を倒したんだぁ〜(プッ)」


 ドナベさんの教育がすっかり行き届いてしまった雑炊は、夢の中ですら、私を完全な敵と認識してる様でしたわ。


「どうしようか、このゴミ」

「ご自身で育てておいて、ゴミ扱いとは酷くありませんこと?責任取って再教育なさい」

「そうした方がいいかな?…いや、やっぱダメだ。今気付いたんだけど、フリーダさんと雑炊は卒業までは争っていた方が良い」

「何故そんな事を…あっ」


 私は気付き、ドナベさんはその通りと頷きましたわ。


「僕が妖精グロリアを排除して彼女の立ち位置に滑り込んだ様に、ヒロインと悪役令嬢の対立軸が消えると、僕達の知らない別の誰かがこの世界を動かす中心人物になってしまう可能性がある」

「ヒロインと悪役令嬢の対決はゲームで一番盛り上がる場面ですからね。物語の強制力があるとしたら、最も強く働くでしょう」

「その通り。だからさ、これから三年間、物語がエンディングを迎えるまでの間、僕は雑炊をけしかけるから、君はそれを適当にあしらって欲しいんだ」


 要するに、余所で争いが起きない様に、私と雑炊で八百長プロレスをやれって事ですわね。


「言いたい事は分かりました。ですけど、貴女の事を信頼して良いのですの?」

「大丈夫。これから雑炊には、効率の悪い間違ったトレーニングをさせて、絶対君には勝てない様に育成するから。疑うなら、リー君の使い魔をもっと増やして好きなだけ監視したらいい」

「あら、偵察の事バレてましたのね。さて、どうしましょう。私としては、後日また貴女と話し合いたいのですが」

「オッケー。じゃあ、来月屋上でどう?」


 どうやら、私が屋上で攻略対象達と作戦会議をしている事もバレていたみたいですわね。油断のならない転生者ですこと。


「分かりましたわ。では、本日はこれで」

「だね。いつまでもこの場所に居たら他の学生に怪しまれちゃうからね。あ、そうだ。そぉい!」


 私との話し合いを切り上げたドナベさんは、雑炊の頭をドナベの蓋でフルスイングすると、トムの巨体を持ち上げて雑炊をその下に挟み込みました。


「貴女、何をしてますの!?」

「この部屋に入ってからの、雑炊の記憶を消しておいたんだ。彼女はトムに雷魔法を使い、倒れてきた彼に潰されて真っ先にリタイアした。よって、君とは顔も合わせていない。その方がこれから八百長するのに都合が良いだろ?」

「ああ、そういう事でしたの。ご協力感謝しますわ」


 これで、私が転生者云々を口走った事や、雑炊の心が折れて私に恐怖した事もリセットされた訳ですわね。確かに、これから八百長やるにはそうした方が良いですわ。グッジョブですわ、ドナベさん。


「じゃ、僕は土鍋の中へ戻って大人しくしてるから、対抗戦頑張ってね」

「ええ、行ってきますわ」


 その後、五人で固まって動いていたB組がC組を各個撃破し、その後B組集団が逃げ回るスグニを追いかけ回しリンチし、そこに駆けつけたタフガイさんがB組全員を一人で全滅させました。


 それから十分後、隠されたトラップとアイテムを回収していたリーさんと、秘密会議をしていた私、設置されていたゴーレムを律儀に相手していたブーン様がタフガイさんの居た場所に集結し、余った時間でバトルロイヤルしておりましたが、決着前に時間切れとなりましたわ。


 全員で集まって行動したB組の方は、『これ、そういう競技じゃねえから』と厳重注意を受けたそうです。まあこの流れは原作知識で知ってましたけど、雑炊も同じ様に叱られたのは可哀想でしたわね。せめて、トムに勝っていたなら評価も違ったのでしょうけれど、その勝ち星はドナベさんが無かった事にしてしまいましたわ。


 そして、ドナベさんとの約束が守られるなら、雑炊はこれからも私に挑み負け続ける運命が確定しています。流石に可哀想ですから、どうにか上手い落とし所を探してあげたいですわね。

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