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第八話【ヒロインとかヒトインで語れる次元じゃ無い模様(フリーダ視点)】

 私の名はフリーダ・フォン・ブルーレイ。この国を実質的に支配しているブルーレイ公爵の末娘で、乙女ゲームの悪役令嬢でもありますわ。そう、私はこの世界が『冒険乙女カトリーヌン』に良く似た世界だと知っていますわ。

 今から五年半前、流行り病で生死の境を彷徨った私は、そのショックで前世の記憶を思い出しましたわ。前世の私は、異世界で庶民として暮らし、そして、今私が住んでいる世界に良く似た設定の乙女ゲームで遊んでましたわ。

 そのゲームの中では、私ことフリーダはヒロインを目の敵にして嫌がらせをする悪役令嬢。ヒロインが誰と結ばれても、フリーダは今までの悪行の報いを受けて死んでしまうか、追放されるかという悲惨な最後を迎えるのですわ。

 ゲームのフリーダみたいになってはいけない。そう考えた私は、病気の完治と共に行動を開始しましたわ。お父様に汚い仕事から手を引かせ、婚約者のブーン様やご友人のリーさんとタフガイさんとしっかりと話し合い仲を深め、いずれ来るヒロインと戦う事になった時の為に己を鍛え続けましたわ。やる事が…やる事が多いですわ!

 そんなこんなであっという間に五年と少しが経過し、努力の甲斐もあって悪役令嬢になってしまう要素はあらかた消し去る事が出来ましたわ。しかし、まだ油断は出来ませんわ。何故なら、世の中には悪事を働かない悪役令嬢に冤罪を着せて幸せになろうとする『ヒドイン』なる存在が居るからですわ。

 この世界のカトリーヌンさんがヒロインなのかヒドインなのか、それをゲーム本編開始前に確認し、もしヒドインだったなら学園入学前に始末する事も視野に入れておりましたわ。

 ですが、残念ながら彼女の故郷の位置は原作には書かれておらず、私も最近まで己の破滅フラグを消すのに忙しかった為、正体を確認するのは入学までお預けとなってしまいましたわ。

 そして始業式の日、私は攻略対象の三人を呼び、打ち合わせをしましたわ。

「ブーン様、リーさん、タフガイさん。手はずはよろしくて?」

「ああ、補欠合格のピンク髪の女が、遅刻ギリギリに体育館に来るという話だったな」

「僕達三人の誰かの隣に座ろうとしてきたら、速やかにC組の席へ案内し、余計な会話はしない」

「そんで、もし色仕掛けとかして来たら、先生を呼んで対象してもらうんだったよな?」

「その通りですわ。もしかしたら、遅刻しなかったり、普通にC組の席に行ったりするかも知れませんから、その場合は何もしないで下さいませ」

 全員、原作通りの席に座りカトリーヌンを待ちましたわ。果たして、彼女はヒロインなのかヒドインなのか?

 ドタドタドタ!

 来ましたわ!原作通り遅刻ギリギリで、ピンク髪の令嬢が両手に干し草を持って、頭に土鍋を乗せて、お下品な足音と共にやって来まし…おいコラ。その干し草と土鍋は何ですの?

 私の思考は一瞬停止しました。明らかに原作を逸脱し、こっちの世界基準でも、あっちの世界基準でも非常識な格好で来た彼女の意図がまるで分かりませんでした。

「グェーヘヘヘ、グェーヘヘヘ…見つけたぁ!」

 あ、タフガイさんに狙いを定めましたわ。

「タフガイくーん!私の愛を受け取ってぇーん!」

 飛びましたわ。

「干し草二つで好感度プラス2、肉体で語り合う事でタフガイに好印象を与え獲得好感度二倍、そこから回転を加えクリティカルヒットによる三倍ボーナス。命中すれば破格の好感度プラス12だぁー!」

「ンなあっ!?」

 謎の方程式を叫びながら、キリモミ回転でタフガイさんに飛びかかりましたわ。これにはタフガイさんもビックリですわ。何せ、私が教えたのと違い過ぎますもの。驚くのも無理はありません。ですが、タフガイさんは肉弾戦においては作中最強のお方。顔面に迫る干し草アタックをギリギリで回避し、ヒロインっぽい謎の生き物をキャッチしましたわ。

「どりゃー!」

「ほぎゃー!」

 見事な投げっぱなしジャーマンが炸裂しましたわ。流石はタフガイさん、人が居ない場所に投げ落とすナイス判断ですわ。体育館の入り口まで転がって行ったピンク頭は、C組の先生に捕まり、監視されながら隅っこの席へと行かされましたわ。ここは、原作通りですわね。

 一波乱があった始業式の後、一年A組に入った私達は今後について話し合いましたわ。

「フリーダさんよぉ、思わず投げちまったけれど、アレで良かったのか?」

「こちらが好意を持っていない事が伝わったでしょうし、怪我人も出ませんでした。だから、オッケーですわ。お疲れ様でしたわね、タフガイさん。それで、これからの事ですが、彼女がA組に昇格するまでは校内での接触は控えて下さい。特にリーさん」

 私から名指しされて、リーさんの顔が明らかに不満気になりましたわ。原作でも彼はヒロインを実験体として利用し、追いかけ回していましたわ。ましてや、原作の12倍おもしれー女として高校デビューを果たした彼女を目にして、リーさんに我慢しろと言う方が無理な話なのですわ。でも、我慢して貰わないと困りますわ。

「リーさん、どうか我慢して下さい。彼女がA組に上がったら、好きなだけ実験しても構いませんから」

「くっ、あんな逸材を前にして手出しが出来ないとは…、だが貴女には僕の研究に協力して貰った恩があります。約束通り、あの女が僕達と同じクラスになるまでは、使い魔による監視に留めましょう」

「感謝致しますわ。それでは、今回はこれにて解散…」

「ちょーっとまちな!」

 ヒロインの事について一旦話が終わり、授業に備えようとしたその時、A組に相応しく無い下品な声が響きましたわ。声だけで誰なのか分かりました。すぐに魔族になってやられる役の、スグニ・マゾクナルですわ。

「おいフリーダ、さっきから四人だけで秘密のお話か?俺様も混ぜろよ〜」

 スグニは、序盤にやられるチンピラそのものな口調で近づき、私の肩に手を触れようとしました。ですが、その手はブーン様によって払われましたわ。

「いってえ!何するんだ、ブーンてめえこの野郎!」

「彼女は公爵令嬢であり私の婚約者だ。許しも無く名前を呼んだり触れて良い存在では無い」

「ヘッ、この学園は実力主義だろうが!それに、そこのメガネとデブは俺様と同じ平民なのに普通に会話していたじゃねえか」

「話を理解出来ないのか?彼らはフリーダと私が許したから良いのだ。それに、貴様の順位は親が多額の寄付をして得たものだろうが」

 ブーン様が睨むと、スグニはたちまち顔を青ざめさせて後ずさりましたわ。まあ、かっこ悪い。

「本当はどちらが上か、今ここで確かめるか?」

「何だよ、俺様はただ仲良くしようと…くっ、覚えてやがれ〜!」

 捨て台詞を吐いて、スグニは自分の席に帰っていきました。おととい来やがれですわ。

「フリーダよ、すまない。あの様な輩の接近を許してしまった」

 スグニが席に着いたのを確認した後、ブーン様は私に頭を下げ謝罪しましたわ。

「ブーン様、お気になさらないで下さい。今だってあのゴミは三メートル後ろから私達の話に聞き耳を立てています。教室内で大事な話をしてしまった私の失態ですわ」

「ふむ、ならば次からは屋上を使うのはどうだ?」

「ナイスアイデアですわね」 はあ〜、ブーン様素敵ですわ〜。頭が良くて力も強くて、顔も良い。本人はリーにもタフガイにも勝てない器用貧乏だと謙遜してますけど、そこが更に良いのですわ〜!

 私は前世の知識を得た事に感謝しております。破滅を避ける手段を得られた事もありますが、婚約者であるブーン様の事をより深く知り、心から愛する事が出来る様になったのが何よりもの収穫でしたわ。

 私は今あるこの幸せを手放したくはありません。例え、乙女ゲームの主人公と敵対する事になろうとも、この幸せを守ってみせますわ。

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