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第二話【クッキーで好感度アゲアゲ大作戦、なおクッキーはまだ作れない模様】

「富、名声、力、この世の全てを手に入れる女、カトリーヌン・ライス。そう、私は女神様の使いたるドナベさんから勝利を約束されたのだー!わははは」

 この世界はゲーム。私が世界の中心、なんて素晴らしいのだろう。

「勝った、乙女ゲーム完!」

「喜んでる所悪いんだけど、このまま何となーく三年間過ごしたらバッドエンド一直線だからね」

「分かってるよ!だから、ドナベさんよろしくねっ!」

「うーん、ちょっと洗脳効きすぎだかな。まあいいや、君がハーレムを築いて魔王を倒せる様に指導していくからちゃんと従ってね。まずは、この部屋の掃除から」

 私はドナベさんの言葉に従い、部屋を掃除する。今日は疲れたから明日にしようと思っていたが、イケメンに囲まれる未来を思うと、疲れなんて感じなくなる。手始めに、ベッドと机周辺の床のネチョネチョをボロ布で拭き取り、使い終わった布をゴミ箱へ捨てる。その時、ゴミ箱の底に居た、全身複雑骨折のグロリアを見て私に一つの疑問が浮かんだ。

「ねー、ドナベさんは私にハーレムエンドを進ませる事でこの世界を救う為に異世界から来たんだよね?」

「そうだよ。僕を疑うのかい?」

「ううん、信じてるよ。けどさ、何でグロちゃん殺す必要あったの?」

「イキテ…マス」

 ゴミ箱から声がした気がするが、多分気のせいだろう。私はドナベさんに質問を続ける。

「ドナベさんは私に一番良いエンディングを選ばせたい。グロちゃんは私を鍛えて魔王に勝てる冒険者にしたい。これって、どちらも目的ほぼ同じだよね?なら、二人で仕事分担して私を育てた方が良かったんじゃ」

「それは出来なかった。何故なら、その妖精は口では『ビシバシいくわよ!』とか言ってるけど、実際には結構ヌルいんだよ。ノーマルエンドを迎える為のチュートリアルと簡単な戦闘補助をしてくれるだけなんだ。一周目プレイではありがたい存在だけど、ハーレムエンドに行くなら彼女の言う通りにしていたら時間が足りない。だから、プロローグで排除して、以降のチュートリアルイベントをすっ飛ばす事にした」

 えーと、つまり、グロちゃんは先生として二流だったって事だね。

「それに、本来ゲームに存在しないはずの僕がでしゃばると、この世界がゲーム通りに行かなくなる可能性が高くなる。だから、お手伝い妖精の立場を奪う必要があったんだ」

「なーるほど、完全に理解したよ!つまり、ドナベさんとグロちゃんはどちらか一方しか仲間にならない!」

「そーゆー事。さ、掃除はもういいから、次は庭の草抜きだ」

 床の油汚れを拭き取った雑巾とグロリアの死体をゴミ袋に詰めてゴミ置き場に出した後、私は庭の草抜きを始めた。

「ここに生えてる草はね、クッキーの材料になるんだ。自分で食べるとHP回復、攻略対象に使うと好感度が1か2上がる」

「ヒットポイント?こーかんど?」

「怪我はクッキーで治る、クッキーをプレゼントすれば男は転ぶ。それぞれの効果は微々たるものだが、ゲーム開始直後から作れるのがクッキーの最大のメリットだ。だから、今日はこの草を抜きまくって、掃除した部屋でクッキー作りまくるんだ」

「はーい!」

 三時間ぐらいが経過し、クッキーになる草と邪魔な雑草をあらかた引き抜いた私は、部屋に戻りクッキー作りを始め…られなかった。

「ドナベさん、小麦粉とまな板とカップとラッピング用の袋と焼き菓子鍋が無いよ」

「…えっ?」

 私が当然の事を指摘すると、ドナベさんは今までの自信満々な態度が嘘の様に、顔を青ざめさせた。

「いや、そんなはずは無いだろう。ゲームでは、自室で料理コマンドを実行したら、なんかこう、料理道具が出て来てクッキー作ってたよ」

 そんな事言われても、ここには机とベッドと掃除道具と土鍋と申し訳程度の薪しか無い。

「えーとカトちゃん、君、アイテムボックスの中に料理道具入って無い?」

「無いよ」

「いや、あるはずだ。原作ゲームでは、料理コマンド実行したら必要な道具を使っていたから、この部屋に無いなら君が持ってるはずなんだ。さあ、アイテムボックス確認して」

「無いよ、アイテムボックスなんて」

「ええっ?」

 ドナベさんが完全にフリースする。先程よりも深刻に焦り出し、顔から汗がドバドバ出ている。この子に従って本当に大丈夫なのか、私も心配になってきた。

「アイテムボックス…無いの?」

「伝説の勇者だけが使えた異空間収納魔術が、私如きに使えるとでも?」

「えっ、ナニソレ。僕の知ってる乙女ゲームと設定違うんだけど。それじゃあ、仮にクッキー大量に作っても、すぐ腐るじゃないか」

 ドナベさんは当たり前の事を言いながら頭を抱えた。彼女を信じてついていく選択は間違ってたのかも。初日にして早くも暗雲が立ち込めてきた。

「はあ…、まさかカトちゃんがここまで無能だとは思わなかったよ」

「今の私が悪いの!?」

「仕方無い、この草は全部干し草にしよう」

 私のクレームは無視し、ドナベさんは草を次々と竈門へ放り込んでいく。私は彼女に疑いの眼差しを向けながら、薪に火を付けて干し草を作る。

「食べれる干し草完成、と。使えば回復するし、プレゼントすれば好感度が1上がるかも知れない。ハッキリ言って、クッキーの下位互換アイテムだ。はあ〜、君がゲームぐらいに能力があったらクッキー量産出来たんだけどなあ」

 ドナベさんは当然の様に干し草でプレゼント攻撃をしようと考えてる様だが、クッキーならまだしも、草をプレゼントとして仲良くなれるのは小学生までだと思う。というか、下手したら、嫌われる。

「ねえドナベさん、もしかして、この干し草をプレゼントして男の子に好かれようとか」

「クッキーが作れないし、仕方無いだろ」

「で、でも、初対面でいきなり干し草渡してくる異性とか、私はちょっと無理かなあ」

「うるさい、ホンワカパッ波〜!」

「うおっ、まぶしっ」

 洗脳が解けかけていた私の顔を、ドナベさんの目からビームが照らす。ああ、またこの感覚だ。頭が…おかしく…なる…。

(ホワンホワンホワ〜ン)

『冒険乙女カトリーヌン』PV第一弾!恋愛編!

 こんにちは!今日はアタシ、グロリアが冒険乙女の魅力を紹介してあげる!

 このゲームでは、基本的に三人の男性のいずれかを攻略して、お友達から恋人になるのが目的よ。で、その為には好感度っていう各キャラに設定されたパラメーターを上げなきゃならないの。好感度を上げるには、一に同行、二に贈り物、三に会話。これだ!と思った男子と一緒に勉強したり冒険したりして、ある程度仲良くなったらプレゼントを贈ったりすればオッケー!

 一緒に行動していると、会話イベントが発生するわ。文系・理系・体育会系の男子それぞれ会話が弾ませるコツがあるから、何度も同行して相手の好みを理解するのよ!

 このゲームは、恋人が作れるか、誰を恋人にするかで大きくストーリーが変化するから、目当ての男子をゲットしたら、二周目以降は他キャラ攻略もやって見よう!それじゃあ、ゲーム本編でまた会いましょうね!

(ホワンホワンホワ〜ン)

「うおおおおー!ハァーレェームゥー!」

 私は何を疑っていたのだろうか。神様の使いであるドナベさんは全てにおいて正しい。この世界の真実を知る彼が私に叡智を授けて下さる事、そのありがたさを知りながら、もう少しで踏みにじる所だった。

「ドナベさん!私が間違っていたよ!草、めっちゃプレゼントする!」

「ふふふ、その意気だカトちゃん。今日作った干し草は、明日の始業式で攻略キャラの口に全部放り込むんだ」

「分かりました!明日、全員の口を緑色に染めてやる!お休み!」

 今日やれる事を全部やった私はベッドに再び飛び込み、泥の様に眠ったのだった。

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