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ドナベさん〜乙女ゲームマスターがヒロインを幸せにします。多分〜
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異世界恋愛恋愛ゲーム
2024年07月16日
公開日
187,455文字
連載中
冒険者学園に入学したカトリーヌン・ライスは、寮に置いてあった土鍋から現れた異世界転移者ドナベさんによってこの世界が乙女ゲームである事と自分がそのゲーム『冒険乙女カトリーヌン』のヒロインである事を告げられる。ハーレムエンドに到達すれば自分も含め皆幸せになると教えられたカトリーヌンは、このゲームをやり尽くしたと豪語するドナベさんと二人三脚でクリアを目指す。だが、この世界とゲーム世界のズレや、前世の記憶を持つ悪役令嬢フリーダの暗躍で物語は思いもしない方へと転がって行く。

第一話【土鍋の中からドナベさんが現れた模様】

 ネチョネチョする汚い床に足を踏み入れた時、私のやる気は3割引きになった。

「天国のおっかさん、お元気ですか?カトちゃんは、寮の汚さに挫けそうです」

 この冒険者学園は完全実力主義。入学試験の成績で割り振られる寮が決まっており、補欠合格の私にはこのボロ小屋を貸し与えられた訳だ。

「うぅ〜、猛勉強して貴族様も通う大都会の学園に合格したのに、まさか男爵領の貧乏長屋よりボロい所に住む事になるなんて…もう寝よ」

 この寮に来るまでに歩き疲れ、部屋の汚さに心も疲れきった私は、今日はベッドで寝る事にした。ベッドも汚いけど床よりは綺麗。

「オーイ…オーイ」

 ベッドで暫くウトウトしていると、どこからか私を呼ぶ声がして目が覚めた。学校の関係者だろうか。

「はーい、誰ですかー?」

 玄関に向かって呼びかけるが、返事も無ければ人の気配も無い。空耳だったのかなと思っていると、また声が聞こえた。

「どこ見てんのよー!アタシはこっちだよ!ここから出して頂戴!」

 ベッドの近く、ホコリを被った学習机から声がした。

「と、都会の机は喋れるの!?」

「バカ!そんな訳無いでしょ!アタシはここよ!早くこの引き出しから出してよ!」

 声の主はどうやら引き出しの中に閉じ込められている模様。こんな場所には子供でも入る事は無理なので、どんな人外が封印されてるか分かったもんじゃない。

 学校の人を呼ぶのが正解だったかも知れないが、今日の私はとにかく疲れており、そして私は頼まれたら断れない性格だった。もし、引き出しの中からミミックが出てきたらとかを思うより先に、引き出しに手を掛けて引っ張ってしまう。

「それじゃ、引っ張るよ。せーの、うわっ!」

 引き出しを引っ張った瞬間、眩しい光と共に、蝶の様な羽を付けたお人形みたいな少女が飛び出した。

「あー、やっと出られた!外なんて何百年ぶりかしら」

「よ、妖精?」

 引き出しから出て来た小さな女の子を見て、私は信じられないという気分になった。

「妖精って、絶滅したんじゃあ…」

「してないわよっ!現にアタシが居るでしょ!それにしても、汚い部屋ねー。テリウスの奴には、来るべき日に備えて定期的に掃除する様に頼んどけって言ったのに…で、アンタ誰よ?」

「わ、私はカトリーヌン。冒険者学園の補欠合格でこの寮に住むように言われて…」

 私がここに来た経緯を正直に話すと、妖精は力の抜けた顔でため息をついた。

「アンタ、冒険者学園の補欠合格って言ったわよね?それって、落ちこぼれってコト?」

「う、うーん。一応名門に合格してるから無能では無いと思うけど、新入生の一番下だから、この学園で一番駄目なのは私だね」

「はあ〜っ、やっぱりニンゲン共は色々と教えを忘れてしまってるみたいね。ねえ、アンタ!」

「あ、はい」

「アタシはね、王国の危機に備えてここで眠っていた、とってもえらーい妖精様なのよ!本来なら王国一の冒険者と共にダンジョンを巡るはずだったのに…何でアンタみたいな見習い以下が起こしに来たのよ!!」

「す、すみません!」

 何だか分からないけど、妖精さんは強い人を待っていたみたい。でも、それなら今から外へ出て強い人を探せば良いんじゃあないかな?

「アタシはね、この引き出しから出してくれた人と契約しなきゃいけないのよ」

「そ、そうなんですか」

 私の考えを読み取ったかの様に妖精さんは語った後、どうしたものかと右へ左へ飛び回り、やがて私へと振り向いた。

「こうなったら仕方無い!アンタでいいわ!」

「へ?」

「アタシはグロリア!かつて勇者と共に戦い、魔王を倒した伝説の妖精様よ!アタシはいずれ復活する魔王に備え長い眠りにつき、ここを訪れた才能ある若者を導く役目を背負っていたの!」

「ええっ、それじゃあ私これから魔王倒さなきゃならないの!?む、無理だよっ。学校もあるし」

「心配無いわ!魔王の復活は早くて三年後、アンタは冒険者学園を卒業し、世界一の冒険者になった後、満を持して魔王に挑めば何の問題も無いわ!」

「つまり?」

「アンタは最高の家庭教師を得たのよ。アタシは勇者と呼ばれた伝説の冒険者テリウスの戦いをこの目で見てきた。だから、アタシなら補欠合格のアンタを首席にもSランク冒険者にもしてあげられるわよ!」

 私は考えた。グロリアの言っている事が真実なのかは分からない。だが、私みたいな貧乏男爵令嬢を騙した所で彼女に何の特も無い。それに、口は悪いが、彼女の言葉には真実味を感じた。

「…分かった。知らないとは言え、起こしちゃった責任もあるし、グロリアさんの期待に応えられるかは分からないけど、私も冒険者として高みを目指してる。だから、グロリアさんの提案に乗るよ」

「グロちゃんで良いわ。アタシもアンタの事はカトちゃんと呼ぶから」「うん、よろしくねグロちゃん」

 これは、世界一の冒険者を目指す半人前が、伝説の妖精のスパルタ教育で英雄となるまでの物語。

 になると思ったその時、突然近くにあった土鍋の蓋が開き、真っ白な手が伸びてきてグロリアを掴んだ。

「えっ、ちょ、何よこれ!キャアァー!!」

 あっという間にグロリアは土鍋の中へ引きずり込まれ、ボキボキと嫌な音がした後、鼻紙の様に丸められた状態で排出され机の横にあるゴミ箱へと落ちていった。

「グロちゃーん!!!」

 キャンプにダンジョン探索に勉強に体育祭。グロリアと過ごした三年間の思い出が私の頭の中を駆け巡った。そんな思い出は無いけどなんかそういう空気だったので駆け巡った。

 私がグロリアとの存在しない思い出に浸っている間に、彼女をゴミ箱にポイした手は土鍋へ引っ込み、暫くすると全身が土鍋から出て来た。

「こんにちは、僕ドナベさんです」

「ひいっ!」

 土鍋から出て来たのは青いパーカーを着た少女だった。この国の人間とは少し雰囲気が違うが、それ以外におかしな所は見当たらない。だからこそ、土鍋から出て来た事への恐怖はマシマシとなった。

「たーすーけーてー!あなた変質者でしょ!ヤバい奴なんでしょ!」

 私は力の限り叫んだ。ようやくグロリアに対する恐怖を乗り越え分かり合おうとした先で、より恐ろしい意味不明のナニカが現れた事で私の心は壊れた。敵か味方を判断する?そんな余裕ない!

「落ち着いて、僕は君とこの世界を救いに異世界からやって来たんだ」

「知るかバカ!」

 この寮に来るまでに汗だくになっていた事が幸いし、漏らす事は無かったが、普段なら間違いなく漏らしてた。もう無理、恐怖マックス。これが夢であってくれー!

「つまり、この世界は」

「わー!わー!わー!」

「乙女ゲームを元に作られた世界で」

「わー!わー!わー!」

「僕はそのゲームのプレイヤーで」

「わー!わー!わー!」

 少女が何か言ってるが、私にはそれが何を言ってるのかサッパリ分からない。分かりたくない。怖い、誰か。

「だから、女神様に頼まれて君を…ええい説明面倒臭い!ホンワカパッ破〜!」

「何の光っ!?」

 突如少女は両目から強い光を放ち、その光は私を包み込んだ。おっかさんと一緒の布団で寝ている時の様な安心感と共に、私の頭の中に知らない記憶が流れ込んで来る。

(ホワンホワンホワ〜ン)

『冒険乙女カトリーヌン』は冒険者学園を舞台にした乙女ゲームである。ヒロインのカトリーヌンは一人前の冒険者となる為に王都の冒険者学園に入学し、そこで三人の攻略対象と出会う。

 文系男子のブーン、理系男子のリー、体育会系男子のタフガイ。誰と付き合うかでカトリーヌンの、そして王国の未来は大きく変化する。果たして彼女の恋は実るのか、そして、王国の危機を救えるのか?恋愛シミュレーションとダンジョンRPGが融合した奇跡の一品、冒険乙女カトリーヌンは定価11980円で発売中!

(ホワンホワンホワ〜ン)

「何、今の!?」

「君は乙女ゲームのヒロインって事さ。さっきのは発売当時のテレビCM」

 全くもって意味が分からん!だけど、先程とは違い、彼女の言葉を信じられてしまう私だった。駄目だ、多分私洗脳みたいな事されている。しかし、この洗脳は冒険者学園の新入生でしか無い私がとうこうして抵抗出来るもんじゃ無い。

「君の頭に流し込んだ光景は、これから君が辿る未来の一部だ。三人のイケメンが出てきたり、選択の果てに世界が滅ぶ危機を迎えたりしたのは見ただろう?」

「は、はい、見ました」

「君は今はただの男爵令嬢で貧乏学生だ。しかし、君の選択と努力でこの世界は良くも悪くも大きく変わる」

「は、はい」

 私は最早彼女の言葉を待ち、それに頷くだけのアーティファクトと化していた。きっと、あの光のせいなのだろうけれど、気持ちよくて逆らえない。ああ〜、元々大して良くなかった頭が馬鹿になっていく〜。

「そして、君が三人の攻略対象全員と恋仲になった時、世界は平和皆幸せ君は逆ハーの一番良いエンドになる訳だ。僕はこの世界を作った女神様に頼まれて、君を助けに来たゲームプレイヤーなのさ」

「そなんだ、すごい」

「だから、僕と契約してハーレムエンドを目指そうよ」

「うん、私、ハーレム、好き」

 私はドナベさんとがっちり握手した。契約成立。

 これは、異世界からやってきた美少女ドナベさんが、私に最高の幸せをプレゼントしてくれるまでの三年間のお話である!

「ハーレム、うへへ〜、あの記憶にあった三人がぜーんぶ私のもの〜」

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