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第三話【AとCとの間には越えられない壁がある模様】


 その夜、私は夢を見た。三人のイケメンが私のプレゼントした草でハッピーハッピーになる夢。

「カトリーヌン君、君からのプレゼント感謝する!見たまえ、君からの贈り物で私の美しさに更に磨きがかかったよ!」

 文系男子のブーン様が、私から受け取った干し草を首飾りの様に巻きつける。

「カトリーヌンさん、この草は良いですね。僕の身体をとても元気にしてくれます。今度、作り方を教えてくれませんか?」

 理系男子のリー君が焼いた干し草の煙を鼻から吸引しながら私に教えを請う。

「カトちゃん!これうっめえなあ!オレ、メシがうめえと筋トレもやる気が出んぞ!ありがとなあ!」

 体育会系男子のタフガイ君が草を一束丸ごとバリバリ食べながら私に感謝する。

 干し草一つでここまで仲良くなれていいのだろうか?というか、まだ干し草プレゼントしてないよなと思い出し、これが夢だと私は気付いてしまう。この夢を現実にしてやろう。そう決意しながら、私は夢から覚めて冒険者学園へ向う。

「ふあ〜、おはよう、ドナベさん」

「おはようだって?遅いよ、遅刻ギリギリだ」

 ドナベさんが呆れた顔で時計を指差す。時計は、かなりヤバい時刻を表示していた。

「何で、起こしてくれなかったの!?」

「そりゃあ、ゲームの君が始業式の日に寝坊していたからさ」

「先に!言ってよ!」

「言ったら早起きするだろ?そしたら、原作イベント再現が出来ないじゃないか。ほらほら、急がないと間に合わないよ」

「ピギー!」

 私は奇声を上げながらパジャマを脱ぎ、制服に手足を通す。顔を洗う時間は無い。朝食を作る暇も無い。

「カトちゃん、何をしてるんだい?朝ご飯はちゃんと食べて」

 今すぐ出ないと間に合わないのに、ドナベさんが外に出ようとする私を阻止してくる。

「ドナベさん!私を遅刻させたいの?間に合わせたいの?」

「通学前にやるべき事があると言ってるんだ。原作では君は、パンを咥えて頭の上に妖精を乗せた状態で始業式の会場に滑り込む。そこで攻略対象と出会う事になるんだ」

 そう言うと、ドナベさんは自分が入っていたドナベに紐を付けて私に渡した。

「はい、これ被って」

「土鍋を頭に!?」

「うん、だって僕は原作の妖精の立ち位置だからね。原作の君は、頭に妖精を乗せたおもしれー女だからこそ、様々な重要人物から興味を持たれたんだ」

 そういう事なら、被らなきゃいけない。被らなきゃいけないんだけど…、身長10cm以下で髪の毛の中にギリ隠せそうなグロリアを乗せるのと、私の頭より大きい土鍋を頭に乗せるのとでは、私の首の負担も、おもしれー女の方向性も大分違う気がする。

「どうしたんだい?早くしないと、本当に遅刻するよ」

「いや、流石に土鍋被って三年間過ごすのは違う気が」

「そんな君に、ホンワカパッ波〜!」

「目がぁー!目がぁー!」

 完全に油断していた私は、ドナベさんの目から放たれる洗脳光線をマトモに浴びてしまう。あー…、また知らない記憶が…流れて…く…。

(ホワンホワンホワ〜ン)

『冒険乙女カトリーヌン』PV第二弾!恋愛のコツ編!

 おうっ、オレだ!体育会系の攻略キャラことタフガイ・マキシマムだ!今日は恋愛イベントのコツをおめぇらに教えに来たぞ!

 えーと、前回はグロちゃんが好感度の上げ方を教えてたんだよなあ?なら、オレはおめぇらに好感度を下げねえコツを教えるぞ!オレとブーン君とリーは好みがバラバラだ。だから、誰かの好感度が上がる選択をすると、他の二人の好感度が下がっちまうなんて事がよくあるんだ。

 だからよぉ、最初から一人に絞って、そのキャラに合った選択肢やプレゼントを選ぶのが確実だ!皆と仲良くなりてぇ気持ちは分かるけどよぉ、全員と友達以上恋人未満で終わったら目も当てられねえよ。

 ハーレムエンドとかを目指してえ気持ちはよーくわかる。ブーン君もリーも変わってるけど凄く良い奴らだしよぉ。でも、いや、だからこそまずは個別のルートをプレイして、オレやあいつらがどんな男か知ってからハーレムに挑戦して欲しいんだ。

 まっ、メタな話をすると、いきなりハーレムルートに突入すると、ストーリーが理解できねぇ…おっといけねえ!これ以上はネタバレになっちまう!

 んじゃあまたな!本編でもヨロシクなぁ〜!

(ホワンホワンホワ〜ン)

「シックスパックー!!」

 記憶の中でタフガイが色々言ってたが、それはどうでも良い。私が理解したのは、彼の腹筋はサイコーな事、それだけ。それだけで十分だった。

「しゃあっ、通学準備完了!」

 頭に土鍋を乗せ、紐を顎の下で結ぶ。これでタフガイに会えるなら、恥なんて捨てる!

「ふふっ、覚悟は決まったみたいだね。それじゃあ行こうか」

「うん!」

 蒸気と化したドナベさんが土鍋の中に入っていくのを確認した私は、干し草を頬張りながら冒険者学園に向かい走る。二十分ぐらい全力で走り続けると、始業式を行っている体育館に到着した。

「君、もう始業式始まる…何だねその頭は!?」

 受付をしていた教師らしき男性が私を見て驚くが、そんな事よりタフガイだ。

「すませっ、おくれましっ、じゃ!」

「あっ、君!待ちたまえ!」

 軽く頭を下げて、体育館へゴー。中へ入った私は目を見開き、新入生達の中からタフガイを探す。ブーンでもリーでも無くタフガイなのは、直前に見た記憶に彼が出ていたのもあるが、巨漢の彼なら大人数の中からでも探し出せると思ったからだ。

「グェーヘヘヘ、グェーヘヘヘ…見つけたぁ!」

 首を左右に振り辺りを見回すと、窮屈そうに椅子に座る金髪角刈りの後ろ姿を発見した。あのデカさと、シャツの上からでも分かるバキバキの背筋は間違いなくタフガイだ。

「タフガイくーん!私の愛を受け取ってぇーん!」

 私は両手に干し草を構え大きく跳躍した。

「干し草二つで好感度プラス2、肉体で語り合う事でタフガイに好印象を与え獲得好感度二倍、そこから回転を加えクリティカルヒットによる三倍ボーナス。命中すれば破格の好感度プラス12だぁー!」

「ンなあっ!?」

 こちらに気付き振り返るタフガイ。その口は大きく開かれている。私はその口へ向かって干し草をねじ込む!だが、タフガイは上半身を傾けて干し草を避けると、飛び込んで来た私をキャッチして人の居ない方向へ投げ飛ばした。

「どりゃー!」

「ほぎゃー!」

 私は数メートル程床と水平に飛んだ後、落下してゴロゴロと転がり受付まで戻って来た。

「くっそー、再チャレンジだモグモグ」

 持ってた干し草を食べてダメージを回復し、起き上がって再び突撃しようとするが、受付をやっていた先生が私を引き止めた。

「君、補欠合格の子だよね?」

「はい、そうですけど」

「じゃあCクラスだよね?君がさっき行ったあっちはAクラスの子達の席なの。Cクラスはこっち」

 私は先生に連れられ、タフガイから遠く離れた席に座らされてしまう。

「ガッテム!」

「あーあ、唯一のチャンスを潰しちゃったねえ」

「と、ドナベさん!」

 悔しがりながら着席すると、頭の上のドナベさんin土鍋が話しかけてきた。

「君は成績下位を集めたCクラス、攻略対象は全員成績優秀なAクラス。だから遅刻寸前で滑り込んで席を間違えるハプニングが、序盤唯一の攻略対象と接近出来るチャンスだったんだよ」

「そっか、だから遅刻寸前まで起こしてくれなかったんだね」

「そう。それなのに、君はその唯一のチャンスで好感度を稼げなかった。それどころか、好感度マイナスになったね。間違い無く」

 ううっ、やっぱりあの結果は攻略対象の印象を悪くしてしまったんだ。

「ドナベさん、私これからどうしたらいいの?」

「この先、君が攻略対象と接触出来る方法は二つ。一つは君がAクラスに昇格する事、もう一つは毎月末のクラス対抗戦に参加する事。いずれにせよ、学園での成績と評判を高めなきゃならない」

「その為には、どうすれば良いの?」

「…ま、僕を信じて言う通りにしたまえ」

 今は説明出来ない事情があるのか、それとも何も考えて無いのか、ドナベさんは具体案を出さず土鍋の中から不敵な声で囁いた。

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