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第31話 二次試験とチームメンバー

 Bランク探索者昇格試験の第一次試験合格者数は、『一般枠』と『【魔法師】枠』合わせて三十人。


 瑠奈はもちろん、別会場で試験を受けていた鈴音も無事に一次試験を通過していた。


 そして、翌日。

 第二次試験――これでBランク昇格が決まる最後の試験が始まる。


 とあるBランクダンジョンゲート前。

 そこには、一次試験の合格者ら三十人が集められていた。


 そんな中で――――


「体調どうですか、瑠奈先輩?」

「昨日はどうなるかと思ったけど、今日は大丈夫そうだよ~」


 それなら良かったです、と安心したように微笑む鈴音。

 瑠奈はそんな鈴音に「そういえば――」と気になっていたことを思い出して尋ねる。


「二次試験って何するのかな? またモンスター狩るの?」

「えっと、Bランク昇格試験の二次試験は毎回恒例で、総合的なダンジョン探索の技術を審査する試験になってます」


 どゆこと? と首を傾げる瑠奈に、鈴音が右手で三本の指を立てて説明。


「まず、一次試験の結果をもとに、ギルドの方で三人一組スリーマンセルのチームが作られます」

「つまり、今回だと十チーム作られるわけだね」

「その通りです。それで、ギルドがダンジョン内に隠したフラッグを見付けて持って帰るというのがルールなんですが……毎回フラッグはチーム数の半分しか用意されてないんです」


 なるほどねぇ~、と瑠奈は腕を組みながら周囲を見渡した。


 ここには一次試験を突破した三十人が揃っている。

 瑠奈は一般枠の内容しか知らないが、少なくともこの場にいる全員が“十五体のCランクモンスターを相手にして勝てる”レベルだということになる。


 この中で更に二次試験を突破できるのは半数となると、激戦になるのは想像に難くなかった。


「教えてくれてありがと、鈴音ちゃん」

「いえ、お安い御用です。一緒のチームになれると良いですね」

「あ、鈴音ちゃんそれはフラグ……」


 フラッグだけに、と流石に寒すぎるので瑠奈は心の中の呟きに止めておいたが、案の定試験官が発表したチーム分けによって、瑠奈と鈴音は別チームとなってしまった――――



◇◆◇



 第二次試験のルールは鈴音の説明通りだった。

 三人一組の計十チームによる、Bランクダンジョン内に隠された五本のフラッグ争奪戦。


 既に探索開始の合図が出され、各チーム森林系ダンジョンにどんどん足を踏み入れて行っている。


 もちろん瑠奈もチームを組むことになった二人と森の中を歩いており――――


「いやぁ、まさかあのルーナちゃんと一緒に試験受けられるとは思ってなかったよぉ~」


 いつも配信観てるんだよぉ~、とどこかのんびりとした口調で気さくに話し掛けてくるのは佐々木ささき美穂みほ。Cランク探索者の大学生だ。

 両手で握る木製の長杖が【魔法師】であることを示している。


「えっ、ホントですか!? 嬉しいです~!」


 貴重な視聴者。自分のファンだ。

 瑠奈は美穂を幻滅させないように、とびきり可愛い笑顔を浮かべてファンサービスを怠らない。


 すると、もう一人のチームメンバーであるこれまた大学生くらいの男性探索者――桐島きりしま洋輔ようすけが鼻で笑った。


 おっとこれは不穏なやつか? と思ってルーナが視線を向けると、洋輔は丸眼鏡を中指で押し上げながら言った。


「ふん。僕なんかルーナたんが有名になる前のチャンネル開設時から観てるんだぞ」

「へ、へぇ~! そうだったんですね! いつも応援してくれてありがとうございます!」


 何の対抗心と古参アピールだよ、と瑠奈は正直ツッコミを入れたくなったが、自分を応援してくれている一人なのでこちらにもファンサービスの笑顔を向けておく。


 しかし、いつまでも呑気な会話をしているわけにもいかない。

 瑠奈は話を切り替えた。


「それにしても、フラッグどこにあるんでしょうね? 五本しかないから早く見付けないと……」

「ふん。安心して良いよルーナたん。この僕が絶対に見付けてみせるから」

「あっ……はい! が、頑張りましょうね!」


 謎の自信を見せる洋輔にややぎこちなさの窺える笑みを浮かべていた瑠奈だったが、すぐにその表情に警戒の色が滲む。


「モンスター来ます!」


 その声に洋輔と美穂も構える。

 スキルで戦う【魔法師】である美穂は後衛に。前衛は瑠奈と洋輔。


(……あれ? でもパーティーでの協力戦闘ってどうやってやるんだろ?)


 これまで探索歩ほとんどをソロでやって来た瑠奈。

 まともにチーム戦術などを使って戦ったことがない。


 瑠奈が小首を傾げている間に、茂みから勢いよく植物の蔓が飛び出してきた。


 すると――――


「ルーナたんに触手プレイなんかさせられるかっ!!」

「「え?」」


 瑠奈と美穂の戸惑いの声が重なった頃には、既に洋輔が動き出していた。


 得物はやや反りがあるナイフ二本。

 それらを素早く取り出して器用にクルリと回してから手に持つと、瑠奈に迫らんとする蔓を見事に切り落として見せた。


「大丈夫!? ルーナたん!?」

「は、はい一応……」

「ふん……ルーナたんに触手を向けるなんてこの僕が許さないッ!!」


 むしろ瑠奈は洋輔の頭の方を心配したいが、洋輔は冷ややかな視線を送る女性人二人に構わず、蔓の主である植物型モンスターに突っ込んでいった。


 こんなでも一次試験を突破した探索者。

 迎え撃とうとするモンスターの蔓を見事に凌ぎ、十秒足らずで討伐して見せた。


 黒い塵となって空気に溶けていくモンスターの屍を背にして振り返った洋介が、カチャッ、と丸眼鏡を押し上げて言う。


「ルーナたんは、僕が守る……!」


 そんな宣言を一緒に聞いた美穂が、瑠奈にこっそりと耳打ちした。


「(むしろ、あの人が一番危険そうだよねぇ~)」

「(ちょ、ちょっと……身の危険を感じますね……)」


 第二次試験は、まだ始まったばかり――――

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