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第23話 水晶の巨人の試練開始!

「ありゃ、SNSで『今からまたBランクモンスター狩ってきます』って投稿したら、配信してくれってコメントで溢れちゃった……」


 順調にダンジョンを進んで行っていた瑠奈は、目的のミスリル結晶と【クリスタル・ゴーレム】が待ち構えるエリアの前で一時休息を取っていたのだが…………



○コメント○

『はぁ!? またBランクモンスターとやるの!?』

『命が惜しくないんか……』

『配信希望!!』

『配信して!』

『ルーナの最期は見届けたい……!』

『あぁ……今度こそルーナの見納めか……』

『LIVE頼む!』

『前回死にかけたのに懲りてないな、こりゃ』

 …………



 何気なくスマホでSNSをチェックしてみると、探索開始前に呟いていた投稿にそんなコメントが多数寄せられていた。


「あ、ホントですね」


 どうやら鈴音も瑠奈――いや、ルーナのSNSをフォローしているようで、自分のスマホで確認していた。


「ん……瑠奈、配信者なの……?」

「さ、流石お姉ちゃん……最近結構話題になってる配信者ルーナも知らないんだね……」

「配信者……興味ない、し……」

「配信者に限らず他人全員の間違いでしょ……?」


 そんな姉妹間のやり取りの傍らで、瑠奈は何か考え込むように顎に手を当てた。


「うぅん、これは鉄平さんに認めてもらうための試練だからちゃんとやらないといけなくて……でも、別に動画撮影したらいけないとは言われてないし……」


 しばらく唸っていた瑠奈だったが、「よしっ」と言って立ち上がるとEADの特殊空間から撮影用ドローンを取り出す。


「えっ、瑠奈先輩今から配信するんですか!?」

「うんっ! 折角強いモンスターと戦うんだし、その姿を皆に見てもらわないと!」

「その姿をって……で、でも相手はBランクモンスター。もし負けたらどうするんですか!?」


 瑠奈はせっせとドローンとのペアリングを済ませたり、AR機能付きのイヤホンを装着したりと配信の準備を整えていきながら答える。


「負けたら? そんなの考えるだけ無駄だよ」

「ど、どういう……?」


 準備が終わり、瑠奈が大鎌を肩に担ぐようにして持ちながら可愛らしく微笑む。


「可愛いは最強! つまり、可愛さの化身であるワタシの辞書に敗北の文字はないっ!」

「えぇ……」

「そんなことより、鈴音ちゃんと凪沙さんは顔出しオッケー?」


 そんなことより? と鈴音は戸惑いが隠せないまま「別に気にしませんけど……」と答え、凪沙もよくわかってなさそうに頷いた。


「了解っ! じゃあ、始めようか――」


 戸惑ったままの鈴音に構わず、瑠奈は配信を開始した。


「――さっ、みんな! 狩りの時間だよ!」



○コメント○

『ゲリラライブだ!』

『一回目のLIVE配信でBランクモンスター、二回目でもまたBランクて』

『ルーナのLIVE配信は命懸けって決まりでもあるんか?w』

『あれ、他の人もいる』

『パーティーメンバー?』

『え、待ってw』

『あれっ!?w』

『何かSランク探索者おるんだがw』

『映ってるのSランク探索者の【剣翼】だよな!?』

『いつの間に知り合いにw』

『やっぱルーナはただ者じゃねぇw』

 …………



「えぇ~と、見てくれてる皆に簡単に事情を説明するとね? ワタシの新しい大鎌を作ってもらうために、【クリスタル・ゴーレム】を倒して力を証明する必要があるの。で、こちらの方々は護衛で同行してくれているSランク探索者の凪沙さんと、その妹の鈴音ちゃんです!」



 というわけで! と瑠奈は大鎌の柄頭で地面を叩いて大雑把な状況説明を終える。


「今からBランクモンスター【クリスタル・ゴーレム】を狩りに行こうっ!」


 瑠奈は鈴音と凪沙に目配せしてから、最奥の空間へと足を踏み入れる。


 巨大なドーム状の空間で、壁も床も天井もすべてがキラキラと輝く鉱石で出来ている。


 しかし、何より目を引くのがやはりドームの真ん中に片膝を付いた状態で静止している巨大な水晶の像。


 立ち上がれば五メートルは優に超えると思われるその巨体には、太くて立派な腕と脚が付いている。顔面部分の中心には赤い宝石が一つ取りつけられており、目のようにも思える。


 そんな彫像へ一定のペースで歩いて近付いていく瑠奈。


 鈴音も思わずそのあとを付いて行こうとしてしまっていたが、ドーム空間に入ってすぐの場所で凪沙に片手で行く手を阻まれ立ち止まる。


「鈴音……危ないから、ウチらはここで……」

「で、でも……」

「……これは、瑠奈の試練……」

「うん……」


 鈴音が不安げな視線を向ける先で、瑠奈はどんどん水晶の彫像へと近付いていく。その度に、口角のつり上がる角度が増していった。


 そして、彼我の距離十メートルといったところか。

 水晶の彫像が揺れを起こした。

 ゴゴゴ……と地面を揺らしながら、立ち上がる彫像。

 高い位置で顔面の赤い宝石をピカッと輝かせ、足元の瑠奈を見下ろす。


「あはぁ~、大きいねぇ~」


 チロッ、と舌なめずりをしてから、瑠奈が低く大鎌を構えた。


「斬り応えがありそうだねっ!!」


【クリスタル・ゴーレム】の宝石の輝きにも勝るとも劣らない眼光を灯した瑠奈が、大きく上体を倒して地面擦れ擦れを疾走し――――


 カァアアアアアンッ!!


 相手は巨大。

 まずは体勢を崩させるべく脚を切り落としてやろうと大鎌を横薙ぎに一閃するが、深さ三センチにも満たない程度の切り傷を与えただけで、あとは甲高い音がドーム内に反響するのみ。


「かったぁ……!!」


 金属バットで地面を思い切り叩きつけたかのようなジンジンとした痛みが両手に広がって、危うく大鎌を落としそうになるが、それをグッと堪える。


「前に倒したデカ蛇も硬かったけど、鱗だから何とか剥がすことが出来た……でも、コイツは……」


 全身が鋼鉄のように硬い水晶で出来ている。

 瑠奈のフルスイングで、三センチ弱の切り傷。


 巨体を支える脚をどころか、ゴーレムの手の先にそれぞれついている三本の指でさえ切り落とすのに苦労しそうだ。


「いやぁ~、なかなか斬らせてくれなさそうだね……あはっ、これは……どうやら出来るだけ長くワタシと一緒に居たいらしいねぇ~!」


 第二回LIVE配信。同接数九千七百人。

 鈴音、凪沙、そして多くの視聴者が見守る中、瑠奈の試練の幕が上がった――――

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