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第08話 狂気乱舞の配信者爆誕ッ!

――――――――――――――――――――


◇ステータス情報◇


【早乙女瑠奈】Lv.13


・探索者ランク:E

(ランクアップまであと、↑Lv.7)


・保有経験値 :115

(レベルアップまであと、1185)


《スキル》

○なし


――――――――――――――――――――



「何だかんだ、ソロでダンジョンに入るのって初めてだなぁ~」


 膝頭で黒と赤を基調としたゴシックドレスのスカートを揺らしながらダンジョン内の森を歩く少女の姿があった。


 瑠奈だ。


 装備店を後にした瑠奈は、早速Eランクダンジョンへとやって来ていた。


 新調した装備の使い心地を確かめたいというのと、ダンジョン探索配信者としての第一歩を踏み出すべく動画撮影を行うためだ。


 ダンジョン内ではいつ戦闘が始まるかわからない。

 突然モンスターが襲い掛かってくることなど日常茶飯事だ。


 そんな取れ高を逃さないように、撮影用ドローンは瑠奈を追従する形で飛行し、既に撮影を始めている。


 取り敢えず一部始終撮影しておいて、余分なシーンはあとで編集すれば良い。


「さてさてモンスターはどこにいるのかなぁ~?」


 しばらく瑠奈が周囲をキョロキョロ見渡しながら森の中を探索していると、茂みの向こうにその光景を発見した。


(わぁ……やっぱりダンジョン内でも食物連鎖があるんだぁ……)


 身を屈めて様子を窺う瑠奈の視線の先で、灰色の体毛を持つ狼型のEランクモンスター【フォレスト・ウルフ】三体が、大きなネズミのようなEランクモンスター【フォレスト・ラット】を仕留めて喰らっている。


 やがて食い尽くされた【フォレスト・ラット】は身体を黒い塵と化して四散。


 あとに残された魔石も【フォレスト・ウルフ】の一体が自身の糧にしようと口を持って行くが――――


「おぉっと、その魔石ワタシが貰っても良いかな~?」


 堂々と正面から三体の【フォレスト・ウルフ】の前に姿を見せる瑠奈。


 もしも相手が人間――それも男性であったなら、ひらひらの装束を纏う瑠奈の魅力に当てられて魔石の一個や二個、簡単に譲ってくれるだろう。


 だが、実際目の前にいるのはモンスター。

 むしろオフショルダーのブラウスから露出する肌色成分が、さぞ餌として美味しそうに見えていることだろう。


 その証拠に、三体ともが「グルルル……」と低く唸りながら、鋭い牙を剥き出している。


 向けられる敵意。殺意。


 ダンジョンという名の生態系の中に――食物連鎖の一部に自分も身を投じているんだという感覚が、瑠奈の身体の芯を熱くしていく。


「……あはっ」


 不気味に笑う瑠奈がスッと右手を宙にかざした。

 すると、EADの特殊空間に収納していたが手の先に現れる。


 百五十万円で購入した新たな得物。

 TS転生を果たしたことによって叶えられた、前世からの嗜好ロマン


 瑠奈の身の丈を優に超える長物。

 長い柄の先端で湾曲する鋭利な刃は、曲線から生み出される圧倒的な切断性と申し分ない重量を誇る。


 ――大鎌だ。


 カツン、と瑠奈は右手で握った大鎌を杖のようにして地面に立てた。


「ん~、やっぱり重いなぁ~。完璧に使いこなすにはもっとレベル上げないといけないっぽいけど――」

「――ガルゥウウウッ!!」


 刃物のような牙を光らせて飛び掛かって来た【フォレスト・ウルフ】を見据えて、瑠奈は両手で柄を握ると大鎌をスゥと浮かせて――――


 ズシャァ!!


 縦に一閃。


 襲い掛かって来た【フォレスト・ウルフ】が頭蓋から真っ二つになり、鮮血を迸らせた刹那、身体を黒い塵と化して宙に四散していった。


 勢い余って大鎌の刃の先端が地面に埋もれてしまったが、そんなことに構わず瑠奈の表情には笑みが浮かんでいた。


「……良いね。この重さが良いよ……」


 タタッ、タタッ――と二体目の【フォレスト・ウルフ】が駆けてくる。


 右へ左へと身体を振って距離を詰めてくるのはフェイントのつもりだろうが、瑠奈の瞳はその動きをしっかりと捉えていた。


 グッと柄を握る手に力を込めて、地面に刺さった刃を引き抜くとその勢いのまま横薙ぎに二体目の【フォレスト・ウルフ】を斬り裂いた。


 断末魔の悲鳴を上げる暇もなく絶命。

 瞬く間に身体を黒い塵と化した。


「さて、残りは一匹だけど……」


 瑠奈は大鎌を肩に担ぐようにして持ちながら、最後の一匹を見据える。


(まだ試し斬りし足りないけど、コレを倒したあとにまた新しいモンスター探すのも面倒なんだよねぇ……)


 そこで瑠奈は一つの案を思い付いた。


(あっ、向こうから寄ってきてくれたら探す手間省けるじゃん!)


 相手は狼型のモンスター。

 その特徴として、危機を感じたときに仲間を呼びつける習性が挙げられる。


 瑠奈はフッと口許を緩めると、大鎌を両手で構えて体勢を低くする。


 そして――――


「えいっ!!」


 ダッ、と地面を蹴り出して残り一体の【フォレスト・ウルフ】との距離を詰めると、湾曲した刃の峰を向けて振るった。


 峰が【フォレスト・ウルフ】の身体側面を捉えた瞬間にいくつか骨を砕いた手応えを感じたが、手加減の甲斐あって倒してしまうことはなかった。


 吹っ飛んだ【フォレスト・ウルフ】は二、三度地面の上をバウンドしてから木の幹に身体を衝突させた。

 やがてのろりと身体を起こすと、自分一体では瑠奈に勝てないと判断したのか遠吠えして仲間を呼ぶ。


「そうそう。それで良いんだよ~」


 当たり前の話だが、狼型のモンスターは仲間を呼びつける前に迅速に仕留めるのがセオリーだ。


 わざわざ仲間を呼ばせて自ら危険な状況に持ち込もうとする探索者はいない。


 だが、瑠奈は笑っていた。

 遠吠えに応えて一体、二体、三体……と、どんどん茂みの奥から姿を現す新手の【フォレスト・ウルフ】に囲まれれば囲まれるほど、その笑みを深くしていく。


「ガルルルゥ……」

「グルゥウウウ……!」

「ガァルゥ……」


 軽く十体は超えている【フォレスト・ウルフ】の群れ。

 捕食者の目を爛々と輝かせ、鋭い牙を唾液でテカらせている。


 そんな獣らの中心で、瑠奈が頭上で大鎌をブンブンと器用に回してから、腰に引き付けるようにして構えた。


「あぁ~あぁ~。そんなに睨んじゃってもぅ……あははっ、どっちが狩る側なのかわかってないみたいだね?」


「「「ガルゥウウウァアアアアア!!」」」


 前後左右、上からも飛び掛かってくる【フォレスト・ウルフ】。

 瑠奈は地面を力強く踏みしめ、自身の周囲に大きな円を描くように両手で大鎌を振るった。


 ブゥウン――ブシャァアアア――ッ!!


 宙に満開する血花。


「あはっ、あははははははは――」


 一度口を衝いて出た瑠奈の狂気的な笑いは、この辺り一帯のモンスターを狩り尽くすまで収まらなかった――――



◇◆◇



 獲得した魔石をギルドで換金した瑠奈は、家に帰ってから今日撮影したダンジョン探索の様子の動画を適当に編集し、新米ダンジョン探索配信者『ルーナ』として動画サイトにアップしてから眠りについた。


 美少女が可愛い衣装を身に纏い、ギャップのある重量武器を持って戦う。


 きっと動画を見た人はそんな姿を「可愛い!」と、「ギャップ萌え!」と称賛してくれる。


 瑠奈はそう確信していた。


 そして、確かに動画の視聴回数は伸びていった。


 瑠奈が寝ている間に、ものの数分で百、二百、三百回……日が昇り始めた頃には再生回数四桁を軽く突破していた。


 だが、それは瑠奈の想像していた――期待していた注目のされ方とはベクトルが異なっていた…………



○コメント○


『最高に狂ってて好きw』

『めっちゃ可愛い子なのに、やってることバケモンで草』

『バーサーカーwww』

『本当にこれEランク探索者なり立てか?w』

『えっ、この子Eランクなん? Cくらいかと思ってた』

『↑チャンネルの紹介欄にそう書いてあるで』

『見た目は天使、中身は悪魔』

『装備肩出てたりスカートひらひらなのに、怖すぎてそう言う目で見れない』

『↑ルーナちゃんの狂気が変態を矯正させててワロタ』

『俺は飛び切りの笑顔を浮かべたこの子に大鎌で斬られたい』

『↑ルーナちゃんの狂気が新種の性癖を切り開かせててワロタ』

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