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第07話 新装備と配信の準備

 放課後、瑠奈はダンジョン探索配信者になるために最も必要な機材――ドローン式の撮影カメラを購入した。


 パーティーメンバーがいれば頼んで撮影してもらうことも出来るが、生憎そんな相手はいない。


 しかし、別にそれでも構わない。

 ドローン式撮影カメラは優秀なのだ。

 人工知能が搭載されており、最も良い画角で被写体を追従し、アップとルーズを自動で行ってくれる。


(よし、機材はオッケー。次は……ここ!)


 瑠衣が立っているのは、防具から武器まで幅広く取り扱っている大手探索者装備メーカーの店の前。


 恐らくこのダンジョン・フロートで一番大きな装備店。

 品揃えが豊富のため、初めて色んな装備を見比べて購入するには持って来いの場所だ。


 店内に入ると、まずは防具系統が陳列していた。

 革製のものから金属製のものまで多種多様。


(わぁ……何か、ファンタジー世界のブティックって感じ……)


 少し奥に入れば洒落た装備が並べられており、デザイン性にも力を入れている品が多くあった。


「さて、ワタシはどんなキャラにしようかなぁ~」


 配信する上でキャラクター性というものは大切だ。


 ここに来るまでに一通りダンジョン探索配信のチャンネルを見てみたが、装備からしてその辺りにいる探索者のような人のチャンネルは伸びが悪い。


 対して、何かのテーマを持っているチャンネルは強かった。


 凝った衣装のような装備でモンスターと戦うチャンネルは、まるで本当に異世界に生きる冒険者のようで映える。


 また、装備は機能性や実用性に重点を置いたものだが、ダンジョン探索の仕方やコツ、モンスターの倒し方を解説するようなチャンネルも伸びが良い。


(でも、ワタシ解説動画作れるほど経験豊富じゃないしなぁ。ワタシが戦ってるところを見てもらうチャンネルのほうがいいよねぇ~)


 こういうところに前世の知識が活きていた。


 瑠奈は前世でゲーム配信を行っていた。

 その甲斐あって、動画配信というコンテンツに対してある程度の知識は持っている。


(やっぱり、映える装備が良いよね。綺麗というよりは可愛い目の方がワタシに合ってるから、そんな感じで……)


 大まかなイメージが掴めたところで、フリルなどがあしらわれた可愛いデザインの装備が並べられているコーナーを歩く。


 すると――――


「あっ、コレ……可愛い……!」


 目に映ったのは、ゴシックドレス風の装備だ。


 白いブラウスに黒のコルセット。スカートは黒と赤を基調としており、裾にフリルがふんだんにあしらわれいてふわっふわ。


 非常に可愛らしい印象だが、ブラウスがオフショルダーで肩が出るため、同時に色気も兼ね備えたデザインとなっている。


 袖もひらひらなのが機能性の面で不安だが、お洒落は我慢。

 可愛いは何物にも優先されなければならない。


「価格は……うっ、百万円……」


 昨日の探索で大体二百五十万円の収益を得ている。

 目の前の装備を買えば、その五分の二が消し飛ぶことになる。


 瑠奈は顎に手を当てた。


 今まで使っていた駆け出しセットの片手剣は昨日の地下空間での戦闘でボロボロで、これからも更に強いモンスターと戦っていかなければならないことを考えると、武器を新調しなくてはならない。


 そこそこ使える武器となると百万は超える。

 そうなると、昨日の稼ぎがすべてなくなったことになると言っても過言ではない。


 瑠奈は、悩みに悩んだ。

 この場所で三十分近く唸った末…………


「仕方ない……可愛いは何物にも優先されるんだよ……」


 ……買った。


 残金、およそ百五十万円。



◇◆◇



 次にやって来たのは武器コーナーだ。

 やはり危険物を取り扱うだけあって、店内の最奥に構えられている。


(ふふん、武器に関してはもう目星付けてるんだよねぇ~)


 やはり動画映えするために、得物を手にしたときのビジュアルも大切だ。


 ただ、何より昨日の戦闘で自分に合うバトルスタイルというものが少し掴めたので、それを元に武器選びをしたい。


 これまで王道に片手剣で戦ってきた。

 小回りが利き取り扱いやすく、これと言った不都合はないと言える。


 しかし、それは相手がFランクやEランクモンスターだったから。


 これから先も探索者としてやっていくなら、昨日戦ったゴブリンなどとよりも遥かに強いモンスターとも交戦していくことになるだろう。


 より巨体で。

 より硬質で。


 そんなモンスターを狩るのに、片手剣では一撃の火力が不足していて決定打に欠けてしまう。


 となれば、やはり持つべきは――――


「うんっ、重量武器!」


 剣や刀、槍のコーナーと違い、人気がほとんどない場所に斧やハンマーと言った重量武器が立て掛けられていた。


 チラリと目をやれば、ただ一人だけ同じコーナーにお客がいる。筋骨隆々とした長身で色黒の男性だ。


 瑠奈はそんな男性から少し離れた位置に立っている。

 両者を比較したときの場違い感が凄い。


 だが、瑠奈は気にしていなかった。それどころか…………


(昔っから重量武器系少女って好きだったんだよねぇ。ギャップ萌えって言うのかな~? 一見か弱い美少女が軽々重量武器を振り回す姿がたまらんのですよぉ~)


「うへっ、うへへぇ――って、危ない危ない。気が緩んで陰キャ特有のキモい笑みが……」


 誰かに見られてないよね、と瑠奈が周囲を見渡すと、先程のマッチョの男性と目が合った。


 怪訝に眉を顰めて瑠奈を見ている。

 無理もない。

 重量武器を見詰めて笑みを湛える女子高生など、普通に考えたら変態だ。


 瑠奈はコホン、と咳払いして体裁を整えてから商品を見ていく。


 斧、斧、斧…………

 ハンマー、ハンマー、ハンマーカンマ―…………


 大剣や棍棒なども置かれている。


 あまり琴線に触れる重量武器が見当たらないなと思いながら瑠奈が歩いていると、ふと一つの商品に目が留まった。


 立ち止まり、ジッと視線を向ける。


「……良い……凄く良いっ!」


 金額は百五十万円弱。

 残金のほぼすべてを使い果たすことになるが、その重量感、そのフォルム、そのオーラが瑠奈の感性にドストライク。


 もうゴシックドレス風味の装備を買った手前、躊躇いはなくなっていた。


 瑠奈はを持って店員さんに声を掛けた。


「すみませぇ~ん。コレください!」

「えぇっ!? こ、これですか……ほ、本当に……?」

「はいっ!」

「か、かしこまり、ました……」


 店員さんはぎこちない笑顔を浮かべ、同じ重量武器コーナーを見ていたマッチョで長身な男性は、開いた口を塞げないままでいた――――

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