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第06話 ダンジョン探索配信の切っ掛け

「はぁ、はぁ、はぁ……終わっちゃった……」


 Eランクダンジョン未踏破エリア。

 ドーム状の地下空間の真ん中で、瑠奈が激しく刃こぼれした片手剣を右手にぶら下げて佇んでいた。


 周囲には大量の魔石がゴロゴロ。

 ついさっきまでゴブリンモノだ。


 もうゴブリンはいない。湧いてこない。狩り尽くしたのだ。


 瑠奈が剣を鞘に納めてパッと表情を明るくし、四人に振り返る。


「皆さん、これでもう大丈夫――」

「――いやぁあああ! もう嫌ッ!!」


 一人の女性がヒステリックに叫び出して、一人で入口へと駆け出して行った。


 ゴブリンが全滅したからだろうか。

 出入り口を塞いでいた蔓はなくなっている。


「あ、あの――」


「――く、来るなぁあああ!!」

「私も行くからぁッ!」

「お、おい! 置いて行くなよ!!」


 青年を含めた残りの三人も慌ててこの場をあとにしていく。


 ゴブリンという脅威はもう去ったのに、何をそんなに怯えているのか……皆の恐怖の視線が瑠奈に向けられていたことに、当の本人は気付いていなかった。


「えぇっと……つまり、ここにある魔石と魔鉄鉱、ワタシが貰っても良いんだよね?」


 なにぶん散らばった魔石の数が多い。

 魔鉄鉱もドームの壁伝いに沢山ある。


 一人で収集するのは時間が掛かるが、これらを換金すればそれなりの稼ぎになるはずだ。


(探索者の道具は高いし、可愛さの維持にも何かとお金が掛かる……頑張って集めようか……)


 このあと一時間ほど掛けてゴブリンの魔石を拾い集め、EADの特殊空間に格納可能な容量の限界まで魔鉄鉱を収集した――――



◇◆◇



 瑠奈はダンジョンを後にすると真っ直ぐギルド本部へ向かった。

 今回の探索で獲得した魔石と魔鉄鉱を換金するためだ。


 その成果は以下の通り。


・ゴブリンの魔石:500円×160個=80,000円

・魔鉄鉱100g:5,000円×50kg=2,500,000円

・計:2,580,000円


 ゴブリンに関しては、地下空間で討伐した数が多かったためそれなりの金額にはなったが、所詮はEランクモンスター。単位当たりの換金率は高くない。


 ただ、やはり驚きなのが魔鉄鉱の換金率。


 EADの特殊空間に格納出来る容量の限界まで持ち帰ったため、これまで瑠奈が送って来た一般的な学生生活における金銭感覚からすると、一気に大金持ちの仲間入りを果たしたような稼ぎだ。


 しかし、今は探索者。

 百万円など、それなりに使える武器を一本買えば消し飛ぶ。


 Cランク探索者であれば、五日から十日以内には稼げて当たり前の金額である。


(でも、嬉しいものは嬉しいんだよねぇ~)


 ギルド本部からの帰り道、瑠奈はそれはもう幸せそうに顔を綻ばせながら歩いていた。


(今までの姫プレイでは得られなかった満足感、感動……これが自分の力でモンスターを狩ってお金を稼ぐ楽しさなんだ……!)


 これからの自分の探索者ライフに期待を膨らませ、瑠奈はグッと拳を握り込んだ。



◇◆◇



 翌日、学校にて――――


「えぇ~、瑠奈ちゃん探索者してるの~!?」

「えっ、ホント!?」

「うん、ホントだよ~」


 昼休み、教室で机を向かい合わせでくっ付けて弁当を食べていると、流れでダンジョン探索の話になった。


「でも危なくない?」

「そうだよ! 瑠奈ちゃんはか弱い女の子なんだから~!」

「あはは、大丈夫だよぉ~」


 これでも一ヶ月でEランク探索者になったんだよ、と瑠奈が少し自慢げに胸を張って言う。


 実は愛嬌振り撒いて姫プで安全かつ効率的にレベリングしていたとは露知らず、クラスメイトの女子達が驚き顔を作る。


「瑠奈ちゃんすご~い!」

「勉強だけじゃなくて、探索も出来るなんて!」

「私、瑠奈ちゃんがダンジョン探索してるところ見てみた~い!」


「それはちょっと難しいんじゃないかなぁ……」


 ダンジョンにはギルド職員を除けば探索者の資格を持つ者でないと入場できない。


 いくら探索者としての瑠奈の様子を見たいと言っても、皆は探索者ではないので同行することが出来ないのだ。


「まぁ、探索の様子を動画撮影するくらいなら出来るかもしれないけど――」

「――あっ! だったらさ!!」


 瑠奈の言葉を拾った女子が、何かを思い出したように声を上げ、取り出したスマホを手早く操作する。


「これ! 瑠奈ちゃんコレやってみたら!?」

「え?」


 突き出されたスマホの画面には、とあるダンジョン探索配信者のホーム画面が映し出されていた。


「私、探索者じゃないけどこういうダンジョン探索配信は結構見ててさ~」

「ダンジョン探索配信? でも、探索者はやってないんだよね……?」

「うん! でも、私みたいに実際にダンジョン探索はしてないけど配信は見てるっていう人結構いるんだよ!」


 へぇ、と瑠奈が目を丸くする。


 その間に「私も見てる!」「あ、私も私も!」「俺も~」とダンジョン探索配信を見ている生徒が楽しそうに名乗り出ていた。


「どうかな!? 瑠奈ちゃん可愛いし、ダンジョン探索配信者になったら絶対人気になるよっ!」

「に、人気に……!?」


 ゴクリ、と喉を鳴らした瑠奈。

 腕を組んで両目を閉じ、考え込む。


(確かに……ただでさえダンジョン探索配信っていうコンテンツ自体人気っぽいし、このワタシがやったらもっと可愛がられるのではっ……!?)


 可愛いという言葉に目がない瑠奈。


 前世では冴えない男子として、誰にも必要とされず何も楽しくない青春を送ったので、美少女にTS転生した今世では、皆に可愛がられて楽しい青春を送ると決めているのだ。


 ダンジョン探索をする自分が沢山の視聴者に可愛いと称賛される光景が目に浮かぶ。


(アリだ……アリ寄りのアリだっ……!)


 瑠奈は胸の内の興奮を表に出さないようにコホンと咳払いし、平静を装って答える。


「み、皆がそこまで言うなら……や、やってみようかなっ!」


「うんっ、良いと思う!」

「わぁ~、楽しみぃ~!」

「瑠奈ちゃんどんなスタイルで探索してるんだろ~」

「おい聞いたか!? 早乙女が配信者するって!」

「マジかよ! 俺絶対見る!」

「チャンネル登録必至だな、これは……!」


 瑠奈がダンジョン探索配信をしてみると聞いて、クラスのあちらこちらからその話題が上がる。


 瑠奈の身体の奥底でみるみる膨張していく承認欲求。


(えへっ、えへへ……折角まとまったお金も手に入ったし、そうと決まれば配信機材はもちろん、新しく可愛い装備も買おうっ!)

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