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◇ステータス情報◇
【早乙女瑠奈】Lv.12(↑Lv.10)
・探索者ランク:E
(ランクアップまであと、↑Lv.8)
・保有経験値 :200
(レベルアップまであと、1000)
《スキル》
○なし
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探索者登録してから一ヶ月が経過していた。
高校では一学期中間テストを来週に控えており、生徒らは皆憂鬱になっている。
だが、その点瑠奈は問題なし。
今高校でやっている単元など、前世でとっくに履修済み。
そんなわけで、瑠奈は今日が休日であることを良いことに、いつもよりしっかりダンジョンに潜ろうと思ってEランクダンジョン前の広場にやって来ていた。
(それにしても……まだ探索者歴一ヶ月なのに、もうEランク探索者になっちゃったなぁ~)
広場に入りながらEADを起動した瑠奈は、ホログラム画面のように表示されるステータスを見ながら表情を綻ばせる。
駆け出しの頃は少ない経験値でレベルアップ出来るため、基本的に成長速度は速い。
しかし、いくらレベルアップしやすいと言っても、ダンジョン探索に慣れるまでに時間が掛かるもの。
Eランク探索者になるためLv.10まで上げるのに二ヶ月は要するのが普通だ。
そんな中で瑠奈がものの一ヶ月でLv.12になれたのは、安全かつ効率の良い探索が出来る姫プレイのお陰。
当初の予想通り、瑠奈はイージーモードな探索者ライフを送っていた。
だが…………
(でもなぁ……何か、物足りないんだよねぇ。ワタシの探索者ライフには、
最近ずっとそんなモヤモヤを抱えていた。
ちょっと可愛く振舞うだけで安全に効率良くダンジョン探索出来て、サクサクレベルアップしていて順調なはずなのに。
そんな答えの見付からない霧のような悩みについて考え込んでいると――――
「ねぇねぇ、もしかしてパーティー探してる?」
「えっ……ああ、はい!」
考え事に夢中になっていて一瞬可愛いモードが解けていたが、瑠奈はすぐにいつのも仮面を被って声が掛かった方に振り向いた。
明るく髪を染め、耳にピアスをしている大学生くらいの青年。
あまり瑠奈の得意なタイプではなかったが、身に纏う装備は今この広場の中に集まっている探索者の中でも上質な部類。
「だったらさ、俺らと組まない? 君めっちゃ可愛いし是非来て欲しいんだけど!」
「え、えぇっと……」
この一ヶ月間色んな探索者に勧誘されてきたが、ここまであからさまに下心を出してくる人は初めてだ。
瑠奈は少しばかり困惑の色を浮かべた。
(うわぁ……こういう人苦手だなぁ。でも、後ろにいるのがこの人のパーティーメンバーだよね……?)
青年と同い年くらいの男が一人と、女が二人。
三人ともEランクダンジョンに潜る探索者の中では、青年と同じく値が張りそうな装備をしている。
(装備から見るに割と強いのかな? レベルももうすぐ20くらい? 苦手なタイプだけど、これは付いて行って損はないかも……?)
少し悩んだが、相性の悪さを我慢してでも強いパーティーに付いて行ったときの報酬の良さを優先することにした。
「わ、わかりました! ワタシ弱いですけど、お言葉に甘えて同行させてくださいっ!」
「大丈夫、俺が守るからさっ!」
「あ、あはは……!」
別にカッコ良くないウィンクに加えて気安く肩に手を置いてきたため、瑠奈の可愛い笑顔が若干引き攣り気味になった――――
◇◆◇
ダンジョンに潜ってからまだ三十分。
瑠奈は四人パーティーに同行しながら、どこまでも広がる森の中を探索していたのだが…………
(あぁ、ダメだこりゃ……失敗した……)
早速今回の探索に見切りをつけていた。
目の前で繰り広げられるモンスターとの戦い。
パーティーだというのにそこに連携は一切なく、個々人が手近なモンスターを相手している。
瑠奈はそんな四人から少し下がったところに佇んでいた。
というか、立たされていた。
「瑠奈ちゃんはそこにいてっ! 俺達が守る!」
「あ、はぁ~い……」
と、そんな具合で瑠奈を危険な目に遭わせまいと皆が積極的にモンスターを狩っていってくれているのだ。
(って、アホかぁあああ!? コイツら、姫プを理解していない!? 少しは私にも戦わせてくれないと経験値入んないんですけどっ!?)
四人は瑠奈を守るばかり。
これではダンジョン探索の意味などない。
(はぁ……まぁ、ワタシの見る目がなかったのが悪いか。今日の探索は諦めよ……)
瑠奈が肩を落としてため息を吐いていると、粗方のモンスターを倒し終えた青年が声を張ってパーティー全体に呼び掛けた。
「皆、こっちに来てくれ!」
「どうしたの~?」
「何かあったのか?」
「なになに~!?」
(ん、何だろう……?)
瑠奈も少し遅れて青年のもとへ向かう。
すると、青年が指さす先――元はさぞ立派な大樹であっただろう切り株の根元に、人が優に通れるほどの大穴が開いていた。
「コレ、もしかして未踏破エリアへの入り口じゃないか?」
未踏破エリア――現在このダンジョン・フロートにあるほとんどのダンジョンが探索し尽くされている。
ましてここは低難易度のEランクダンジョン。
これまでに何百、何千人もの探索者がこのダンジョンを探索している。
だが、それでも稀に見落としが出てくる。
未確認の素材であったり、モンスターであったり、エリアであったり。
「えっ、うそうそ~!?」
「行こうよ!!」
パーティー内の二人の女性が目をキラキラと輝かせて言う。
まだ誰も手をつけていないエリア。
もしかしたら何か貴重なものが――宝などが隠されているかもしれない。
そんなことを考えているのだろう。
「そうだな……もし本当に未踏破エリアなら、大発見だ」
「おい、行ってみようぜ?」
男二人も足を踏み入れることに前向きな考えを示している。
だが、瑠奈はどこか嫌な予感を覚えていた。
確かにEランクダンジョン。
されど、ダンジョンであることに変わりはない。
ファンタジーの産物。
一体どんなイレギュラーが発生するかわからない。
ここはギルドに報告するだけに止めておくのが賢い選択だ。
「あ、あの、危険じゃないですか? 本当に未踏破エリアなら、この先にどんな危険があるかもわからないんですよ……?」
瑠奈が小さく手を挙げてそう進言する。
しかし、それを怖がっていると勘違いした青年が安心させるような笑みを浮かべて、またもや気安く肩にポンと手を置いてきた。
「大丈夫、瑠奈ちゃん! 俺達強いからさ!」
「ああ、そこらのEランク探索者と一緒にされちゃ困るぜ」
「そうそう。さっきまで私達の戦いぶり見てたでしょ?」
「安心して良いよ!」
見ていた。
そう、瑠奈は先程までの四人の戦いぶりをしっかり見ていた。見ていたからこそ、不安なのだ。
家が裕福だからなのか理由はわからないが、確かに四人の装備は上質。
だが、個々の探索者としての力量は大したことない。
加えてパーティーでの連携がまったくない。
順調にEランクダンジョンを探索出来ていたのは、装備のスペックに頼っているから。
これでは、万が一危険な状況になったときにとても対処できるとは思えない。
「で、でも……!」
「大丈夫、大丈夫! ほら、瑠奈ちゃんは俺達の背中に隠れてればいいからさ!」
瑠奈は再度忠告しようとするが、青年らは聞く耳を持たない。
未踏破エリアを発見した興奮に従って、切り株の根元の大穴へ足を踏み入れて行く。
(あぁ、もう仕方ないなぁ……)
瑠奈も説得を諦めて、四人に続くように歩き出した。
大穴は地下へ続くように降りていく。
瑠奈は足を進めるたびに胸の奥で不安が大きくなるのを感じていた――――