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13-6





 追いつかれない限りは、事態が動く可能性があるのは王都に到着してからだ。どのみち、王都に行って聖遺物を狙いに来る──いや、既に王城に入っているかもしれないあの少年と鉢合わせる事になる。開いてしまった距離的に鉢合わせられず、既に奪われた後の可能性も十分にありはするけど。どちらにしたって行って実際に見てみるしかない。


 そのかんの問題としては、追いついて来る人物だ。

 御者台の方から顔を出して横を見る。馬車の馬以外に、一頭馬が見えた。馬の上にはカジキが乗っている。



「カジキー!」



 声が届くように声を張って呼びかける。言葉は無かったが、手綱を片手で握りながら空けた片手で応えてくれた。

 そんなカジキに向けて、さっき研究所の人から聞いた話を共有しておく。カジキも前を見ていないといけないから、後ろの方から来る追っ手には気付きにくいだろうとは思うけど。知っていたら警戒は出来るだろう。私達はカジキが主戦力で要だから余計に伝えておきたい。



 ──今のところ追っ手の気配はなく、ひたすらに王都を目指して走っていく。


 同乗する事になった研究所の人は、あれから、あまり話さない。食事休憩で止まった時なんかは必要最低限の話はしてくれるけど。でもこれは「機密事項だから余計な話をしない為に」という感じよりは、本人の性質な気がした。あまり話すのが得意という訳では無さそうな感じだ。

 だから、普段は馬車の中での時間を会話で潰している私だが、あまり話しかけないようにした。お互いの距離感もあるし。



 そうこうして過ごしている内に、王都らしい町が見えてきた。追っ手らしい姿はまだない。

 前に立ち寄った町も大きいと思ったけど、王都もさすがに大きい。ただ、前の町の何倍も大きいかどうかで言えば、そうでもない気がする。ただ、王城らしき城も見えるし、町の周囲は門以外のところからは入れないように囲いがなされている。警備兵らしき人も立っていた。



「このまま王城の方まで向かってください」



 寡黙がちだった研究所の人が、王都が見えてきた事でソーニャに話しかけた。ソーニャは明るく軽い調子で「は~い」と返事をして大きな門まで向かっていく。門が近付くと速度は落ちていった。

 通る際に門前で立っている警備兵と目が合ったけど特に何か言われる事もなく、何の問題もなく通れた。


 王城の方まで馬車は動いていき、後ろにはカジキも馬でついてくる。町の様子はというと、広いにも関わらず人で溢れかえっていた。でも、それ以上に目立つのが装置だ。前の町よりも多くて、あちらこちらに取り入れられているように見えた。魔石の研究所から距離があるとはいえ、王都だから優先的に取り入れられているんだろう。



──私の知る現代と比べて……どれだけ快適に近付いているのか分からないけど、でもここではかなり快適そうだなあ。



 使い方のわからない見慣れない景色を見ながら乗っていると、馬車が止まった。王城に着いたのかな。カジキも馬を止めたのが見える。



「ここは王の御座おわす城だ。何用か」



 ふとビア国の城門前での兵とのやり取りを思い出した。聞こえてきた声は固く、厳しそうな印象を受ける。

 ビア国が緩すぎるのか、大国であるフェロルトが厳しいのか。明らかに警戒されている。一般開放されていたとしても、馬車が城の前まで来るのは珍しい事なのか。単にほろ馬車だから中身が分からないからか。


 そう警戒されていては、こちらとしてもあまり動けない。研究所の人を降ろしたら馬車は置きに行くとしても、中に入れるのか怪しくなってきた。



 席に座ったままで、あちらの行動を待っていると、研究所の人が後ろから降りて兵士に向かっていった。



「魔石研究所の者です。急ぎ、王の耳にお入れしたい事が」



 覗き込んで様子を窺う。研究所の人を見た兵士は、眉間に寄った皺を少し和らげて、顔を見合わせた。片方が城の中へ向かって駆け出していく。



「すぐに確認しますので、ここでお待ちを」



 魔石の研究に注力しているフェロルトにとって、研究所の人は重要な人物だからだろう。兵士達の態度は軟化した。国の一大事そうだし、取り次ぎもしてくれるようだ。この感じからして、大国なのもあって城内は一般開放されていなさそう。聖遺物は国が大事に管理しているという話だから、お城の中とか付近にあるはずだし近場で待機が無難かもしれない。



「大丈夫かな……」



 ソーニャが心配そうに呟いている。研究所が具体的にどうなったかまでは分からないけど、何者かに襲われているのだ。色々と心配にもなるだろう。



「あの」



 取り次ぎに行った兵士が帰って来るまでの間には時間がある。カジキが馬から降りて、端に誘導して待機させていて、ソーニャはまだ馬車を動かさず、私は手持ち無沙汰でただ座っていると、研究所の人が馬車の中を覗き込んできた。



「助けていただきありがとうございました。皆さんはしばらくフェロルトに?」

「しばらく……かは分からないですけど。今日はフェロルトにいるかと」

「でしたら、お礼に宿代だけでも……」



 結局、追っ手は追いついて来なかったし、大した事はしていないが宿に泊まらせてもらえるのは有り難い。研究所の人のお礼を受け取ろうと、ソーニャに目を向ける。



「そうさせてもらおっか」

「そうだね! そろそろ暗くなってくる頃だし」



 まだ空は明るくはあるけど、夕方も近い。太陽は結構傾いているはずだ。聖遺物の件があるから、宿に直行する訳ではないけど。今日の宿は先に確保出来ていれば動きやすくはある。研究所の人も王様への報告があるから、すぐに手配出来ないだろう。



「見つけた」

「え──?」



 決して大きくはない声。他の人もいるし、誰の声かわからなかった。でもなんて言ったかはわかった。

 誰かが何かを探して、見つけた。誰が言ったんだろう。ソーニャでは無さそうだと、他の人達が見える馬車の後方を見た。



 そこには、あの少年が立っていた。




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