──三人で町を歩くのはあまり無いからかな。なんだか賑やかに感じる
魔石エリア以外にも、居住エリアや、食事や買い物が楽しめるエリアがあった。露店はまり見掛けない。あっても数える程だった。
人も物も多ければ、町自体がも大きいので買い物というのも探すだけで大変だ。食事の後に買い物をしたけど、意図せず色んなお店を覗くことになった。大体何の店なのかは看板でわかるけど、何を売っているのかまでは分からないからだ。しかも、それが一桁とかではない。時間の事もあって、値段とか商品の見比べとかする余裕もなく片っ端から入って見つけ次第買った。
特に食べ物系が大変だった。店舗はいくつもあるのに、食べ物を売っているお店はほとんどなかったのだ。しかも売っていてもやや高めだ。食事処とかで食べる物は一食はそこまでしないのに。野菜が入っている物は高かった気はするけども。
何とか買い物まで終えたは良いけど、太陽が大分傾き始めてしまっていた。ソーニャが馬の世話をして、私とカジキっは買った物を馬車に乗せる。それを終えたらカジキと私は後ろに乗り込んだ。
「色々買ったね~買えて良かった」
補充という話だったけど、ソーニャはあれやこれやと色々と買っていた。何を買ったかまでは見ていないけど。対してカジキは必要最低限って感じだった気がする。
不意にソーニャが御者台に乗ったのが見えた。その後、ゆっくりと馬車は動き始める。町中なので、徐行をキープして王都方面へと向かっていた。少し遅くなってしまったから、しばらくしたら野宿かな。
そんな事を思って、ふとカジキを見たら鞘から剣を抜いていた。剣の刃を見ていて、自分の荷物を傍らに開いた状態で置いている。手入れをしているみたいだった。襲ってくる獣や虫の体液はすぐに拭っているのが目にしたけど、ちゃんと手入れをしているところを見るのは初めてだ。
──邪魔しちゃ悪いな。
いつもなら、カジキが眠っていない時は適当に話でもしているけど、刃物を持っている相手に話しかけるのは悪い。というか、何かあったら怖いのでやめておいた。大人しく町の景色でも見ていよう。
御者台側に片手をついて、前のめりになった時だった。馬の蹄が固い地面を頻りに蹴る音がしたのは。
明らかに前──私達が乗っている馬車の馬じゃない。私達の乗る馬車は一定の速度でゆっくり進んでいる。
それに。音は後ろの方から聞こえてくる。音はこちらに近付いてきていた。左右が覆われているから、何が近付いてきているのか見えない。前側を見るのをやめて後ろ側を見てみる。カジキも異変を感じ取ったようで、手入れをやめて後ろを窺っていた。私もそれに続いて見てみる。
「何……?」
「馬を走らせているが、様子がおかしい」
カジキの言葉通り、後方から馬に乗った誰かが走ってきているけど、町中とは思えない速度を出している。周りの人々は衝突を恐れて遠巻きに見ているらしい人影がぽつぽつと見えた。
そして騎手は、どんな人物かはここからでは見えないけど様子が変だ。きちんと座っていないように見える。馬にしがみつくみたいな体勢だ。
「なんだか、まるで」
──何かから、慌てて逃げてきたみたいな……。
「わっ」
「退いてくれっ!」
ゆっくり動いているこちら側と、馬を全速力で走らせているあちらとではあっという間に距離が縮まる。とうとう追いついた彼らは横を駆け抜けていった。音は聞いているだろうけど、後ろを見れないソーニャは驚いて反対側に体を傾けている。手綱はしっかり握っていてくれて、こちらの進行には問題なさそうだ。
「びっくりした……」
「何かあったのかなぁ」
一時は体が反れる程に驚いていたソーニャも元の位置へと戻って、何事も無かったかのような状態へと戻る。しかしあれは一体何だったんだろう。
後ろから来てはいたけど、後方になる以前──どこから来たのかはわからない。慌てていたのは見て取れたけど。でも、ただ慌てて飛び乗っただけという風にも見えなかった。
「さっきの人……研究所の人かなぁ」
「え?」
ぽつりと、ソーニャが言った。
──研究所? 言っていた、近くにある魔石の研究所の事だろうか。
「うん。研究所の人が着ている服着てたから」
横を通った時にソーニャは騎手の人を見たらしい。
私達よりも近くで見たソーニャ曰く、走り去っていったのは魔石の研究所の研究員と思しき人物。そんな人物が、逃げるように町中を馬で駆け抜けていった。
「何かあったなら研究所だけど……一体何が」
「……王都方面に向かっていったな」
逃げたにしても一人だけだし、この町からじゃ研究所らしき場所は見えないから何か起こっていたとしても分からない。あくまで全部憶測でしかないのだ。
──ただ、でもこの近くにはあの少年もいる。
あの少年だと思って追いかけたら盗賊団だった、という前例もありはするけど。もしかしたら関わっているかもしれない。魔石研究所というくらいだから、魔石もあるだろうし。
「お嬢ちゃん。町から出たぐらいから飛ばせるか。追った方がいい」
「あ、はーい! ……って言っても、もう見えなくなっちゃったけど……」
迷っていたらカジキが動いてくれて、ソーニャに伝えてくれた。ただ事ではなさそうだし、彼の目的地が王都ならどうせ向かう先は一緒だ。迷っているよりも追った方が良いだろう。
既にもう見えないみたいだし、追いつけるかはわからないけど。それでも目指す先が同じなら、何があったのかだけでも分かるかもしれない。