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13-2




 ──雨が止んだとはいえ、地面はまだ乾ききっていない。それでも、土質のお陰で車輪がとられる事もなく進んでいけた。



「あ。町が見えてきた! 中継地の町だから、結構大きい町だよー色々補充したいね」



 順調に進んで、どのくらい経ったか。簡素で古く、綺麗とは言えなくともベッドで安心して眠れた旅小屋の事を少し恋しく思い始める頃。ソーニャの明るい声を聞いた。


 前の方を覗いて見てみれば、建物が並び立っているのが広がっているのが目に入る。ソーニャの言う通り大きな町だ。まだ近くまで行けていない、ここからでも大きい。ビア国の王都よりも大きいんじゃないだろうか。



「本当に大きい町だね……。でも中継地って、ここを越えたら王都だから……とかだけでなく?」

「うん。ここからが魔石の研究をしているっていうところに行きやすいみたいだから。わたしは行った事ないから」



 魔石の研究所も近くにあるらしい。そこで魔石自体の研究や、町に設置されているような装置や道具が作られているんだろうな。


 今私達から見えているあの町は、王都にも行けるしその研究所にも行ける場所。その分人も来そうだ。居住エリアも広そうだし。都会の中心地に近い場所に住みたいけど家賃が高いから県境近くに住むみたいな感じで住んでいる人も多そう。中心地ならアクセスも良いし。



「ここまで来たら王都も近いし、補充とかしたらすぐ出発するね」

「うん、ありがとう」



 盗賊達から聞いた話では一日遅れ。更に旅小屋で一泊してるから二日遅れている。距離がどんどん空いてしまっている。それをソーニャも分かってくれていて、急いでくれるようだった。


 大きな町で人も多そうだから出店したら売れやすいだろうけど、今回はパスだ。いよいよ二つ目の『聖遺物』が──あの少年との再会が近いのだから。



 国境検問所では、話をする事に重きを置いていて彼と戦う事なんて考えていなかった。同じ立場だと言うのなら、戦う理由なんてあちら側にもないと思っていた。だけど、あの少年は何の躊躇いもなく、攻撃してきた。私も他の人も。ならば、話せる状態になるように、こちらも戦う心構えでいなくては。



 今回は私とカジキだけではなくソーニャもいるし、対策も考えている。少なくとも、前回みたいに何も出来ないという事はないはずだ。



「着いたら、ひとまずメシだな」

「三人で食べて、そのまま買い物に行くのが良さそう」



 普段なら、ソーニャは町に到着しても馬の世話を先にしてくれる。だけど、今回は休息を挟んでもらうためと、流れ的にも三人での行動が良さそうだ。



「……そうだね! そうしようかな。この子達にあげる水やごはんも少ないし、その方が良いかも」



 考えていたのだろう。しばらく黙っていたけど、ソーニャは承諾した。



 ──三人での行動って意外と多いって訳じゃない気がする。大体カジキと二人か、ソーニャと二人か……っていうペアでの行動した記憶の方が多いかも。もちろん馬車での移動は除くと、だけど。



 三人で町を歩く事にちょっとだけ楽しそうだなって期待感を持ちながら、待っていたらほろ馬車は町の中へと入っていった。



「おお……でかい、しなんだか色々あるね」



 馬車から降りて見てみれば、建ち並んでいる建物が縦に長かった。ぎっしりと詰めているようにあるから、それで道が出来ている。色味は落ち着いているけど、海外の町並みでイメージされるものっぽい。

 そこに、あちこちに設置されている魔石を使った道具。他の町では何かに装着している事が多かったけど、装置そのものが設置されているのが結構目につく。研究所が近いからだろうか。



「王都より前の町でこれなら、王都はもっとすごそう」



 研究所の近さ的にはここだけど、国の中心である王都の方が優先されるだろうし、魔石道具を町中で見かける率は高そうだ。



「えっと……確か、この町ね、魔石エリアがあるんだよ」

「ま、魔石エリア?」



 自国はおろか、この世界で生きてきた中でも聞いた事のない言葉だ。単語の組み合わせから、想像が出来ない訳ではないけど耳にあまり馴染みはない。



「うん。魔石を使った道具を種類ごとに売っていたり、魔石のアクセサリーを売っていたり、魔石関連の材料だったりを売っているお店だったりが集まったエリアだよ。町の半分……まではいかないけど、結構広いんだあ。仕入れの時によく行くお店もあるの」

「専門街……かあ」



 立地的な面から、そういう店が多そうには見えたけどエリアとして分けられている程とは思わなかった。とは言っても、私は用は無いし立ち寄らないだろう。カジキもあまり魔石に興味が無さそうだし魔晶術に頼らずに剣の腕だけで戦うタイプっぽいし同様。ソーニャも補充の枠に入れていないならソーニャもだ。

 そんな訳だから──ソーニャ次第ではあるけど──そっち方向には行く事はないだろう。



「さすが大国……しかも魔石研究が盛んな地」

「大国はいいが、食事がおざなり気味なのは何とかならんのかねぇ」

「そうだっけ?」



 旅小屋で農家を営んでいる二人から美味しいスープを食べさせてもらったりだとか、ほとんど食事は携帯食だったせいか。あまりこの国フェロルトでの食事の記憶がない。

 むしろ、この国での食事で思い返した時、エレナさんとロジェさん二人から分けてもらったあの美味しいスープの事を思い出す。



「あー……でも力を入れていないのはその通りかも。食事するところ自体も他国より少ないし。靱魔国は料理に力が入っているし、余計にそう感じるんじゃないかなあ」

「へー、靱魔国はご飯美味しいんだ。イメージ通り……って、カジキは料理より酒ってタイプじゃないです?」

「いやメシも大事。体が資本。あと酒に合うメシっていうのがだな」



 きっぱりと言いきったかと思えば、やっぱりと言うべきか最終的にはお酒の話をし始めた。ダメだこの人。ソーニャは声を出して笑っているけど。



「とりあえずご飯! だね。どこか食べられるところに入ろっ!」



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