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13-1





 すごく快適という訳ではないけど、空を覆い尽くす雨雲から容赦なく降り注ぐ雨を凌げ、馬車の中ではなくベッドの上で眠れる大きめな旅小屋での一泊。心身は休められたけど、雨が弱まったのは外が暗くなってからだった。


 お世話になったエレナさん達は、私達が眠る前くらいに挨拶に来てくれた。私とソーニャでドアの方まで見送ったけど、その時には雨はポツポツくらいになっていた。地面はまだ濡れているけど、ドロドロという訳でもない。元々の地面が固いんだろう。エレナさん達の大きな馬車だったら余裕で走って行けるに違いない。雨の中の出発は他人事ながら心配だったけど、少しだけそれが薄れた。



 惜しい気持ちはあったけど、エレナさん達は挨拶を交わしあって、そこで別れた。



 朝になって目が覚めたら、外は雨が上がっていた。一階にはもう人気はない。鍋とかも残っていたりはしなかった。



「今から、出来るだけ走らせるから……王都に結構近づけると思う!」



 そして、ソーニャは完全復活していた。

 朝、魔石の装置を使って水を出していて若干不安になりはしたけど、何ともなさそうだ。ロジェさんも水の魔石対応タイプで装置を使って同じように水を出したりしていたけど平気そうだったし。本当に仕組みとかは私にもわからないけど、あまり得意ではないソーニャも大丈夫そうなら良いかな。


 すっかりいつも通りの明るさを取り戻したソーニャから、今後の事の話をされた。朝食を食べながら私とカジキは聞いていたけど、概ね最初に聞いた通りくらいだった。既に日数は経過してきているし、これからもまだかかるけど。でも。王都の話が出ると、いよいよって感じがする。



「そうだ。ソーニャ、お願いしたい事があるんだけど……」

「どうしたの?」



 王都に近付いてきているという事は、あの少年との戦いも近いという事。先延ばしになっていたけど、今の内に三人であの少年との戦いに挑む際の事を話す事にした。



「私達が追っている少年がいるんだけど、その少年の力を封じるのに、ソーニャの手を貸してほしいんだ」

「わたしの……。もちろんいいよ! 何をすれば良いの?」



 ソーニャは快く了承してくれた。でも、ソーニャは非戦闘員だ。盗賊達の戦いでの時みたいに、水たまりを作って足を取らせたり驚かせたり──という事を頼むのはあまり良くはなさそうだ。今回も、それが原因でダウンしてしまった訳だし。



 どうあの少年の力を抑えるか。カジキと話し合って、あの力は魔晶術に因るものだろうから魔石を手放させる方針で決めはした。ソーニャにはどういう役割を担ってもらうか。話しだしたはいいけど、その辺りはまだ決めていなかった。

 ただ、あまり魔石の力を使うような事は出来ないし、戦闘員では無い以上取り押さえる役目は任せられなさそうだ。



「えーっと」



──となると……どうなるんだ?



 助けを求めて、発案者であるカジキに視線を投げてみる。カジキはちょうど欠伸をしていて目が合わなかった。終わるまで待てば、やがて目が合う。欠伸の後だからか。眠そうな目だ。



「ソーニャにはどうしてもらう?」

「あー……」



 目で訴えるだけでは答えてくれなさそうなので、言葉でも聞いてみる。それでわかったみたいで、カジキは腕を組んで天を仰ぎ始めた。追々でと言っていたけど、カジキも事前に考えてはいなかったらしい。



「……不意をつく?」



 しばらく考えたカジキから出てきたのは曖昧なものだった。何も思いついていない私が言うのもなんだけど、あの時一緒に考えていなかったんだろうか。

でも、根本の意見としては同じようだ。ソーニャには直接戦う以外の事を頼もうとしている。



 いま一度、あの時のカジキとの会話を思い出してみる。馬車の中で何度も話したけど、その中の一つの光景が蘇ってきた。


 光によって目眩ましをされた前回の事があるから魔石の力を使われる前に手放させる。彼は武器を持っていなさそうだったし、魔晶術を使えない事がほぼ封じる事になるはず。魔晶術を使うには、多少でも集中力と時間がいる。その隙を狙って協力して取り押さえる──という話だったはず。



『意識が必要なら、魔石に集中させなければいい。意識を逸らす事は視界の確保になる。視界が確かなら、やりようは増えるだろ? 人数だって、こっちの方が多い。分担も出来る 』



 カジキの声と言葉が頭の中に浮かぶ。

 分担。あの一連の会話で思った役割分担は確か、二人が取り押さえて一人が気を引くという感じの事を考えていた気がする。そうなると、ソーニャにはこの気を引く役目を担ってもらう事になるのかな。



「私とカジキで押さえるから、ソーニャには意識を逸らさせてほしいんだけど……何って言われると具体的には思い浮かばないかも……」



 非戦闘員な訳だから、気を引いてもらうにしても無茶な事はさせられない。魔晶術を使ってダウンする云々とかだけでなく、何かあった時に反撃したり防御したり身を守ってもらわなければいけないからだ。

 ただ、武器を携帯していないし扱えなさそうな様子だからその危険がありそうな事は避けたい。見た目は無垢そうな少年風ではあるけど、彼はおぞましいと感じるような冷酷さがあるように思える。何かの目的のために、彼は何の躊躇もなく道を塞ぐ人に危害を加えているようだから。私もされた側だし。



「意識を逸らす……かあ」

「あ! 出来れば魔晶術以外でね」

「魔晶術以外……それなら道具を使って……とかになるのかな? まだ王都まではもう少しかかるし、ちょっと考えてみるね」



 道具の方向かつソーニャの方で考えてくれるようだ。

 まだ完全に決まった訳ではないけど、ソーニャにもようやく話せた。これであの少年と遭遇しても三人であたれるだろう。



 それにはとにかく、次の『聖遺物』があるだろう王都に向かわなくてはいけない。みんなで食事を取ると、馬車に乗り込んだ。




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