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12-3



 美味しそうに食べているのを見たから、お腹が鳴り出しそうだ。

 スープも渡し終えたので再び一階に降りれば、二人はまだ調理台の前にいた。しれっとカジキは既にスープを食べ始めている。その片手には保存食の肉の姿もあったけど。



「あの、スープありがとうございます。美味しいって喜んでいました」

「それは良かったです」



 カジキは置いておいて、二人に声をかけると女性の方は微笑みを返してくれて、男性の方は「そうか」と返事をしたあと器にスープの中身をよそっていた。そして、その器を私の方へと突き出してくる。



「あ。ありがとうございます」



 私の分もスープをもらったので、お礼を言って近くの席についた。

 スープの香りが食欲をそそる。野菜のごった煮みたいな感じで、色んな野菜がとにかく入れられているから、様々な色があって、見た目にも美味しそうだ。



──おいしい……。



 口に入れると、野菜から出たダシと塩気が温度と一緒に広がっていく。外は大雨ではあるけど寒いとかではない。なのに、温かい物を食べるとなんだか安心した。多分、今私はソーニャと同じような顔をしている気がする。



 体にしみていくスープを、スプーンで具材を食べたり、両手で器ごと持ってスープ自体を飲んでいって堪能する。もう一掬い──いこうとしたけど、空っぽだった。昨夜食べていないのもあって、あっという間に食べてしまった。



──全部食べちゃった、し具材もたくさんだったけど……さすがに満腹とまではいかないな。私も何か持ってきて食べようかな。



 そこそこ大きな器ではあったけど、胃袋は満足したとは言えない。今日はもう戦闘をしたりだとか動き回るような事は多分ないとは思うから、ここで終えてしまっても良くはあるんだけど。それでも二食分食べていない体は、その分を強く求めている。



 スープというより煮物ってぐらいにゴロゴロと野菜が入った一杯をごちそうになったので、先にそっちを洗って返そうと思って。器を持ってまだ火の近くに立っている二人に近付いてみる。女性の方は野菜を切っていて、男性は違う火の上にあるフライパンで野菜を焼いていた。



「美味しかったです」

「足りないだろ。まだあるぞ。食うか」

「え」



 そこに、まずは声をかけてみたら男性の方が振り返った。鍋の方を見てみる。

 二人はまだ食べていなさそうだから、私とカジキとソーニャ。三人分入れたとは思えないくらい、減っているようには見えない。

 もしかしたら、今日一日分のスープかもしれない。


 そう、思いつつも断りの言葉が出てこない。



「……い……ただけるなら、もう一杯だけ」

「ん」



 食欲に負けて、おかわりをお願いしてしまった。男の人はそのライオンのような風貌の如く堂々とした佇まいで、何も気にした風もなく。短く返事をすると私の手から器をさらっていって、今度はなみなみと入れてくれた。



「あ、ありがとうございます……」



──今度はゆっくり食べよう……。



 二杯目を持って、同じ場所にもう一度座る。

 さっきはあっという間に食べきってしまったので、今度は味わっていただこう。



 ずっと火にかけられていたから、まだまだ温かい。むしろ熱いくらいだ。息を吹きかけて、それでも熱くて、はふはふと熱気を逃してようやく噛み砕ける。汁も具もさっきよりも器いっぱいにまで入れてくれたからだろう。さっきより熱い。なかなか冷めなさそうだけど、ゆっくり食べるのにはちょうど良いかも。



「前、いいですか?」



 息で冷ましながら一口ずつ食べていたら、人影が前に差して声がかけられた。声からしいて女性だろう。材料を切り終わったのかな。一度、視線をスプーンから外して前を見る。



「どうぞ」



 やっぱり女性だった。

 断る理由などどこにも無いので承諾すると、静かに前の席に座った。私のと同じ器とスプーンがテーブルに置かれる。私の一杯目と同じくらい盛られていた。あれがデフォルトなんだろうか。



「結構たくさんの野菜使われていると思うんですけど、普段持ち歩いているんですか?」



 せっかく近くにいるし、野菜の事について聞いてみる。日持ちする根菜類とか茎菜けいさい類とかではあるんだけど。そんなに持ち歩いている感じはしない。新鮮だ。コツとかあれば知りたいところである。

 携帯食ばかりだと、どうしても偏るし、今回のソーニャみたいに食欲がない時でも──私だったら蒸しイモとか焼き野菜とかなら、作れるかも。土台はいるだろうけど。



「ああ……私達、村で野菜を育てて売っているんです。近辺でだけですけど、注文もいただいていて」

「農家さん! なるほど」



 二人は農業をしているらしい。

 あの大きな馬車の中には、多くの農作物があるんだろう。その一部を料理に使用しているらしい。



「売り物なのに、私たちまでいただいて良かったんですか?」

「そんなに厳しくやっている訳ではないんです。元から、何かあった時や宿泊用に余分に持ってきている訳ではないので」



 あの馬車の中の野菜という事は売り物だという事に気付いて、念の為に聞いてはみたけど、柔和な微笑みと言葉を返された。



「あなた達はフェロルトの方ですか?」



──私はビア国で、カジキはビア国……にいるけど、靭魔じんま国出身で、ソーニャはセルーネって国出身だったかな。とりあえずフェロルト出身の一人もいないのは確かだ。



「いえ。全員違いますね」

「では知らないかも知れないので、言っておくと……この国では農業をしている人は少なくて。毎回そこそこの値段で買い取っていただけるんです。だから、あまりその辺りは気にしていないんですよ。私も彼も」



 魔石の研究が盛んな影響なんだろう。町の中も魔石を使った装置が設置されているだけでなく、魔石関連の店も多かった。

 そっち方面に取り組んでいる人が多くて、他はどうしても少ないんだろうと思う。ただ国土的には困窮って感じでもなさそうだし問題になる程ではなさそうだ。



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