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12-1






「ん……よく寝たぁ」



 ベッドで寝たためか、ぐっすり眠れた気がする。アクシデントというべきなのか、昨日は寄り道をする事になってしまったのにソーニャが間に合わせてくれたお陰だ。



 よく眠れたからか、気持ちよく起きられた。体を回旋させて起きたばかりの体をしっかり動かす。



「お?」



 結構しっかりめに体を捻ったつもりだけど、どこも痛くない。体の奥から来る鈍い痛みがない。昨日は割と無茶な動き方をしたような気もしたけど、まったく今日に持ち越していたりもしない。体は万全だと言えるんじゃないだろうか。



 結構時間はかかった気がするけど、あの少年から受けたダメージもなくなった。時間がかかったのは、あの少年の打撃だか圧迫だかが強かったのかずっと安静にしてはいなかったからなのか。

 どちらにしても、復活だ。気持ちも新たに出発出来るだろう。



──そう、思ったのに。



「止みそうにないなぁ」



 今日は生憎の雨だった。起きた時には雨が降っていた。

 しかも小雨ではなく、大雨で。しばらく外の様子を見ていたけど、ざあざあ降りのままで一向に止む気配がない。



「う、うううぅぅ……」



 しかも。朝からソーニャがダウンしてしまっていた。ベッドから起き上がってこない。額や頬を触ってみたけど、特別熱くはない気がする。



「熱は出てなさそうなんだけど……」

「昨日の疲れが出たんだろ」



 電池が切れたみたいにベッドに倒れ込んで唸り声を上げている。今まで見てきたソーニャとは思えない姿だ。カジキ曰く昨日の疲労から来るものだろうという事だろうけど。見たり触ったりした感じは確かに重病という様子じゃない。医者ではない私たちの──素人判断ではあるんだけど。



 昨日は町に着いて、販売して、その後に盗みを働く四人組と戦った。そこそこ濃い一日だった。

 私たちは戦闘はしたけど、その後馬車の中で休んでいた。


 だけど、ソーニャはその間も馬車を走らせていて休めていなかった。こうなるのも仕方ない。



「食べたりは出来る?」

「出来る……けど今は食べる気分じゃないかも……」



 朝を迎え、昨日は夜食べていなかっただろうし食事をと思ったけど、食欲がないらしい。カジキの言うように疲労だとしたら、倦怠感から来るものだろう。



「わたし……水の魔石に対応してるんだけど……たくさん使うといつもこうなの。少し休んだら治るから、あまり気にしないで~」



 やっぱり昨日、戦いで出来ていた水たまりはソーニャに因るものだったらしい。曰く戦いで使用した魔晶術はソーニャにとっては結構な負担だったようだ。あの命がけの局面。咄嗟に思いついて実行してくれた。私たちはそれに助けられたが、本人は辛そうだ。


 気の抜けた声と、力の入っていない手が私たちを送ろうとする。ソーニャは気にしなくて良いと言ってくれているけど、しっかり休んでほしいし、休ませてあげたいところだ。



──あの少年との距離は更に広がってしまうけど……。いくらなんでも、こんな状態のソーニャに馬車を走らせるなんて出来ない。



「今日は一日停留だな」

「そうですね……。明日にはソーニャの体調もだけど、早く晴れるといいんですけど」



 今日は一日ゆっくりとソーニャには休んでもらうとして、問題は雨だ。雨脚が衰える様子はなく、降り続けている。


 出来る事なら、今日中には止んでほしい。

 泥濘んだ地面に車輪がハマったりしたら大変だ。大雨で視界不良で何かに衝突したり横転したりなんて事になったらシャレにならない。



 早めに降り止んで地面が乾いた状態で出発したいところだけど、今のところはどうなるのかさっぱり分からなかった。



「とりあえず下で何か食べますか。何か温かい物でも……作れたらいいんだけど」



 ソーニャはベッドで休ませて、私たちは一階のスペースで食べる事にした。飲料水はあるから火にかければお湯に出来る。ただ、コップなり鍋なりを持ち歩いていない。



──下に……調理器具とかあったっけ? なかった気がする……。



 スープでも作れたらソーニャに持っていってあげたい気持ちなんだけど。魔晶術を使った事で疲れているなら、何にせよ疲労だし、あまり力の入らない物であっさりした物なら食べられそうだとは思うんだけど。

 持っているものは携帯食なので、噛むのに力がいる。あれだと、どうしても食べる気力はわかないだろう。



 何とか出来ないかなあと思いつつ、カジキと一緒に部屋を出た。ベッドで眠るソーニャを見ながら部屋の扉を閉める。



「それにしても……私もそれなりには使うけど、あんなに疲れてしまうものなんだ」



 火という事もあって、あちこちで使ったりもするし、機会さえあれば何の気兼ねなく使ってしまうけど。ソーニャの疲労具合からして使いすぎも良くないのがよくわかる。ソーニャには極力控えてもらうにしても、私も今度からは配分を考えた方が良さそうだ。



「お嬢ちゃんが共鳴力が低いタイプってだけな気がするけどな」

「共鳴力が低い……」



 今の私たちの周りにいる人達は、対応タイプの違いはあれど魔石の力を使っている。魔石の力を引き出すとは言っても、共鳴しなければならない。その共鳴する力も人によって結構違いがあるっぽい。今まで見たのは日常で使用する程度で使っている人ばかりだったけど、ソーニャまでなっている人はいなかった。



──そういえば、そういう感じの事を指す言葉があったような……。



「魔石に対応……しづらい体質? の……あれなのかなぁ」

「……魔石不対応症、だったか」

「ああ、そうそう! そんな名前の」



 あまり馴染みがないけど、魔石に対してのそういう体質だか病気だかがあるらしい。滅多にはいないみたいではあるけど。実際、私はこれまでにそれらしき人には会った事がない。

 私よりもっと多くの人──ビア国以外の人とかも──に出会っているだろうカジキも、うろ覚えなのか曖昧な返事だ。余程珍しいのだろう。



「あれは、そもそも一切共鳴出来ないヤツだろうよ」

「あぁ、そっか……」



 ぼんやりとした認識だったけど、魔石不対応症は共鳴自体が出来ない人らしい。今のここの人達は進化して共鳴する力を得ているけど、その人達は元の時代の地球人みたいな感じみたいだ。でも、ソーニャは使えるから該当しない。



「じゃあソーニャは単に共鳴力が低い……んですかね」

「だろうな」

「さっき言っていた魔石不対応症の人はもっと大変だろうけど……共鳴力が低いのも苦労してるだろうな」



 魔石の流通具合からして、当たり前になっているし。今私達がいるフェロルト国なんかでは魔石に関する装置やら道具やらと出ている。それを使うために力を引き出さなければならないのだから、日々大変だろう。



「共鳴力が高すぎるのも問題あるらしいな。魔石晶が多い場所に行くと、頭が痛くなるとか吐き気がするとかってヤツを見たことある。魔石酔いしやすいんだとよ。……そっちもまァ稀らしいけどな」

「ままならない……」



 いっそ魔石なんて無い方がいんじゃないかと思えてくる。

 そもそも、人間が進化する程、エネルギーのこもった魔石で満ちているというのも、考えたら少し怖い気もするなあ。本に書いてあるのも〝奇跡〟だとか〝災害〟だとかのワードで、どうして魔石がそんなに大量発生したのかとか詳しく書かれていないし。




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