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11-11








 揺れているなあ。

 そんな、内容の無い事をぼんやり思いながら、カジキやソーニャとも話す事なくただ座っていた。


 何なら一秒ぐらいの時間、時々意識がなかったりした。彼らとの一戦で脈打ちまくっていた心臓は今は落ち着いた脈動になっている。体全体は気が抜けたのか、ダルい。終わって、落ち着いたから今になって疲れが来たみたいだった。



 そんな感じでうとうとして。夢と現実の境界線にいた。



「お疲れ様~」



 気の抜けた声がして、辺りを見る。幌馬車の中だ。でも馬車は止まっていて、前方にいるソーニャは両腕を上げて体を伸ばしていた。



──お疲れ様? という事は……着いた?



 一気に意識がハッキリする。いつの間にか到着したらしい。

 隣を見れば、カジキは大きなあくびを一つして、気だるそうに馬車を降りている。



「先客がいるみたいだが、空いてんだろうな?」

「え、先客がいるの?」



 先に降りたカジキが横を向いて不安になる事を言う。早速、誰も利用していないなんていうのは無い事がわかってしまった。カジキに続いて馬車から降りてみると、もう一つ馬車があった。

 停めてある馬車は、私たちの乗っている幌馬車よりも大きい。馬も、馬車に合わせて数も多い。



 詳しい馬車の種類は分からないけど、人だったら詰めれば二〇人ぐらいは入れそうだ。中までは見ていないから、空だったらだけど。



「いいなあ。いずれは、わたしもこれくらいの大きさの馬車手に入れたいな」



 最後に降りたソーニャが同じように隣の大型の馬車を見る。その声は眠そうだ。早くベッドを使えるか確認した方が良さそう。



 空はすっかり暗くて、旅小屋の入口に設置されているランプが点灯していた。少ないけど街灯もあって、旅小屋の近くのだけついている。旅小屋自体は大きくて街灯と入口のランプだけでも全体は見れなかった。高さはそんなには無さそうだ。多分ここも二階建てぐらいじゃないだろうか。



──それでも、あの大型馬車に人が詰め込まれていたとしたら部屋の空きなんかないんじゃ。



 ベッドが空いていなくて野宿するにしてもネカフェで一夜を明かすのに近い感じで座席だけ確保とか。仮に空いていなくても、どのみちもう暗いし、そんな感じで今日はここに泊まるしかないんだけど。


 ちょっと不安に思いながら扉を開けると、長テーブルが繋げられている空間に出る。大人数が食事出来そうだ。奥の方には調理出来そうなスペースもある。以前カジキと再会した旅小屋とは当たり前だけど違う。



──あそこも広いと思ったけど、こっちはもっと広いなあ。



 テーブルとイスの数も多いし、簡易の調理スペースもあるのがはっきりと違うと思わせる。



「人がいない……」



 でも、一階のその部分には私達以外には誰もいなかった。荷車の事を思い出してテーブルの下を覗いてみたけど、幸いそう立て続けにはなさそうだった。人は倒れてない。ゴミがチラホラ落ちてはいるけど。ゴミ箱らしき大きなくず入れは置いてあるのに。


 テーブルの方を見ていたけど、ふと振り返ってみたらカジキもソーニャもいなかった。辺りを見回してみれば、カジキが階段を上がっているのが見える。ソーニャの姿は見えない。


 とりあえず、置いていかれないように──というか部屋が空いているか気になって追いかけた。



 二階には部屋が三つあった。手前にある扉は閉まっていて、奥の扉二つが開け放たれている。手前の扉にカジキが手にかけて開けた。後ろから覗いてみる。



「うわ……あ、あぁ」



 部屋は誰も利用していないようで、誰もいなかった。その事にまず安堵した。


 部屋の中にはベッドが四つある。私たちは三人だから、一つベッドが余る。ベッドはあるけど、それ以外はない。本当に寝泊まりするだけの場所って感じだ。


 必要なものはある。けど、必要じゃない物もある。



「下でもそうだったけど、ゴミが……」

「旅小屋なんてこんなもんだろ」



 いらなくなったのだろう物や使い捨てられたゴミが部屋の中にも放棄されている。部屋の中にはゴミ箱はない。でも下にはそれらしき物があった。二階と一階で離れているから、入れるのが面倒だったんだろうな。

 ベッドの方は布地が破けていたりするけど、使うには支障は無さそうだ。宿屋ではなく無料で宿泊出来る場所だし、むしろ十二分かもしれない。



 でも、さすがにこのままでは寝られないので、ゴミを片付けてからだろう。カジキは何も気にせず、既に一番手前のベッドで寝転んでいるけど。



「……あれ。ソーニャ見てない?」



 そういえば、二階に来る前くらいからソーニャを見ていない。せっせとゴミを拾い集めながらカジキに聞いてみる。



「ああ。入ってきてなかったから、まァ馬の世話だろ」

「そっか……」



 眠そうだったのに、馬の世話をしてくれているのかも知れないのか。

 どうせゴミを捨てに下に行くし、捨てたら覗きに行こう。寝ちゃってたら良くない。



 部屋に落ちているゴミを集め終わったので一階に戻る。入ってきた時に見付けたくず入れを覗いてみた。

 種類なんて関係なく放り込まれている。予想は出来た事だ。特には驚かない。持って来たゴミをそこに加えて手を叩いて何となく払い落とす。



「片付け終わり、と」



──さて、ソーニャの様子を見に行こうかな。



 振り返って出入り口の扉の方を向くと、ちょうどソーニャが入ってきていた。ソーニャはふらふらと覚束ない足取りで歩いている。そこに駆け寄った。



「お疲れ様、ソーニャ。部屋空いていたよ」

「そうなんだぁ。良かった」



 今まで一緒に行動してきたけど、かつてないほど疲れている。その場に寝落ちしてしまわないかとハラハラしつつも二階まで一緒に向かった。

 部屋に着くや、空いているベッドに両腕を投げ出して倒れ込んだ。うつ伏せで。



「ふたり共おやすみぃ~……」



 終始ふわふわした声音で若干聞き取りづらいけど、多分挨拶をしてくれたんだろう。就寝に入ろうとしたソーニャに、ふと思い出す。



「あ。ソーニャ、ご飯は……」



 ここなら落ち着いて食事が出来る。ずっと手綱を握ってくれていて、あの盗賊達との戦いからずっと停まった様子もなかった。食事が出来ていないだろう。

 声をかけてみたけど、返事はない。先に自分が今夜眠るベッドを確保したカジキが、いつの間にか胡座をかいて座っていた。



「もう寝てる」

「……相当疲れてそうだったもんなぁ」

「俺はちょっと齧ってたから俺もメシはなしで寝るかな」



 私がうとうとしている間にカジキは食べていたらしい。あくびをして、再び寝転がった。

 せっかく一階で調理出来そうではあるけど、そんなガッツリ調理して食べられる物がある訳でもない。ほぼほぼ携帯食だ。

 私は食べていないので、私もちょっと齧って寝る事にした。ベッドの余った一つには剣とか荷物を置いて、リラックス出来る状態にして。



「……ってソーニャ、リュック持ってきてない」



 眠気で忘れてきたんだろう。ソーニャは何も持っていなかった。

 ここは公共の場所なので誰でも利用出来る。馬車を利用していない徒歩の人も通りかかるし、持っていかれてもまあおかしくはない。わざわざ馬車のある場所まで行って、馬車の中を覗き込む手間はあるけど。それでも盗まれる可能性はあるので、また一階までソーニャのリュックを取りに向かった。


 私たちだけ何じゃないかというくらい、辺りも旅小屋も静かだ。ソーニャのリュックを取りに戻ったけど、何もなかった。



──多分、二階のあの閉まっていたドア。あそこに泊まってるんだろうな。



 必然的に前を通りかかるので、一度止まっていたけど、話し声が聞こえてきたりはしない。となると、眠っているんだろう。

 ソーニャも眠っているし、起こさないように部屋に戻った。


 部屋に戻ればカジキももう眠っているみたいで目を閉じていた。

 ソーニャのリュックを荷物を置いているベッドの上に置く。置いたはいいけど、食べ物を取り出すべく体が動かなかった。一回リュックを取りに戻るっていう動作が挟まってしまったせいで、眠気と疲労が優先されてしまった感じだ。



「……私も寝よう」



 貴重なベッドでの就寝だ。食事は明日にして、今日はもう眠る事にした。






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