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11-10





 あの少年に会って、奪われたのかもしれない可能性が出てきた。彼らの持ち物が全部奪われたのは確かだろう。必需品である魔石晶のペンダントを持っているのは一人だけっぽいし。剣も斧も風の力を蓄えた魔石晶も、あの荷車の人から奪ったものだったとしたら納得がいく。



「そいつは同じようにフード被った小柄で、白い髪のガキだったか?」

「あ? ああ、そうだが……あのクソガキと知り合いか?」



 カジキが聞くと、少しだけフードの男が警戒を緩めた。構えが緩みはしたけど、睨まれてはいる。

 でも、肯定した。さすがに今回はあの少年だろう。



「いや……盗まれた物を取り返すために俺達は追ってる側だ」

「その少年と会ったのはいつ?」

「なんだ、お前らもかよ。昨日だ」



 同じ被害者だと──別に私達は自分の物が盗まれた訳ではないけど──思ったフードの男は仲間意識みたいなのが少し湧いたのか、完全に構えを解いた。さっきまでの威嚇状態と比べたら落ち着いてはいる。

 ただ、こちら側は警戒はしておかなければならない。あっちは反撃を割と食らっているわけだし、逆恨みされる可能性もなくはない。



「二人とも、出発するよ!」



 御者台で手綱を握ったソーニャに声をかけられた。もう少しだけ話を聞きたい気もするけど、聞ける事は聞けた気もする。彼らは人を殺めて盗みもしたし私達も襲った。けど、私達は正義の執行者でもなんでもない。


 あらゆる意味で、長居は無用そうだ。



 ソーニャの一声のあと、カジキも乗っていて、私達が乗ったのをソーニャが確認するやすぐに馬車は動き出した。初動はゆっくりとしたものだったけど、彼らが追いかけてくる様子はない。

 馬車はどんどん速度を上げて、じきに彼らの姿は見えなくなった。



 速度が落ち着いた頃に、肩から力が抜ける。手に握りっぱなしだった剣を、鞘へと収めて辺りを見れば布が乱雑に置かれていた。



「これは……使ってたやつ?」

「ああ。回収しといたぞ」



 乗る時に引っ張って来てくれたみたいだけど、持ち上げて広げてみれば砂がついていた。砂だけじゃなくて、よく見れば血がついている。戦闘に使用したので仕方ない事だが、どこかで洗わないと。時間が経ちすぎない内に。

 もう一つの方は二、三度回して見たけど血はついてなかった。砂はついていたので、手で払って畳んで自分の座席に置く。血のついた方は畳んで置いておいた。



「しかし、ハズレだったが結果的には悪くなかったな」

「昨日までは近くにいたみたいですけど……遅れちゃってますね」



 あの場を脱して落ち着いたからか、カジキは感想じみた事を呟く。


 追い掛けたフードの人物は、あの少年ではなかった。でも、あの少年と関わった人物ではあった。ここまで情報が入らなかったけど、お陰で確かに同じ方向に進んでいるだろう事と、彼との距離が実感出来た。



 ──私たちは、一日遅れであの少年を追い掛けている。

 それがわかった。どこかしらで互いにズレがあったりして、縮まったり広がったりしているかもしれない。今後も距離の差は変わるだろうけど、基準になるのは間違いない。



「一日……一日か」



 思っていたよりは開いていなかったけど、一日の差は小さいようで大きい。王都まではまだまだかかる。それまでに何とか巻き返したい気持ちがあった。



「急いではいるけど……これ以上は急げないかなあ」

「……あのガキ、迷いなく真っ直ぐ進んでるみたいだからな。って言ってもあっちも人間だ。どっかで止まる必要は出てくる。さっきのヤツらの持ち物全部はわからんが、盗むくらいだ。何か足りない物の補充か何かしたんだろ。あっちだって、そういうのが必要な訳だ」



──あちらも人間、か。



 あの紛れ込むような色の薄さの少年。人の形をしているけど、どこか人間っぽくない感じがしていた。


 今回、初めて人間と生死を賭けるやり取りをした。一方的ではあったけど、あの少年ともやり合った。あそこで殺されていてもおかしくはない。あの少年の厭わなさから、あり得たと思う。



 でも。

 何をされたのかよく分かっていなかったっていうのはあってか、今回みたいに人とやり合ってる感じがなかった。



 カジキと一緒に攻撃について話し合って魔晶術だろうという結論は出たから、分かった今なら違うんだろうか。



「一日差なら埋まりそうな気もする。追いつけたらその時に三人で……」



 決めていた通り、三人で彼を押さえる。そう考えて、ふとさっきの戦いの事を思い出した。

 不思議な水たまりがいつの間にか地面に出現していた。位置から考えたらソーニャが何かしたんじゃないかと思える。



「ソーニャ。ソーニャって水属性に対応しているの?」

「ふあ……? 何?」



 御者台に近付いて話しかけると、ソーニャはあくびを抑えた声が返ってきた。私の言葉が聞こえていなかったみたいだ。ただ、手綱はしっかり握っていて、前を見続けている。


 恐らくソーニャの魔石対応タイプは水で、男達の一人が足を突っ込んだ水たまりを作ったのはソーニャだと思うんだけど。



「あ、ううん。また到着してから聞くよ」



──……今聞くのはやめておいた方が良さそうだ。



 私たちの運が良い事を願いながらも馬車に揺れていると、揺れがある時から変わった。街道に戻ってきたんだろう。安定した揺れだ。




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