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11-4


 カジキも同じ考えだという事が聞けた。それは私にとっては、同意を得られたのと同じだ。

 早速ソーニャに一声かけておいて、出発をひとまず待ってもらった。



 盗人の話をしていた三人組は、私達が来た方面から来た。既に進行方向である先の方か、町の中にいる。

 だから、奥の方で色んな人に盗人を見なかったか聞き込んだ。フードを被っているかもしれない事や、小柄な男である事も伝えて。



「あー、それなら最近聞くやつかもしれんな」



 何人目かに聞いたら、知っていそうな人に出会った。

 その人は実際に被害に遭った人ではなく、被害に遭った人の話を聞いた事がある人だったけど。



「この辺で襲われて盗まれたとかでな。ただ、どうも皆どんなやつかわからんらしい。つい最近だから、また新しい盗人稼業のやつだろうな」



 被害に遭った人たちを憐れんでいるのか、次は自分が被害に遭うかも知れないからか、ため息をついている。やっと知っている人に出会えはしたけど、身体的な特徴はやはり新しい情報はない。

 そもそも、あの少年も身体的特徴は多くはない。髪も瞳も何かに同化してしまいそうだし。逆に身体的な特徴がわからない人物である方が可能性は高かったりするかもしれない。



「大体どっち方向に行ったとか、そういうの聞いていたりします?」

「うーん……逃げられたって事しか知らんなぁ」



 覚えている情報を捻り出そうとしてくれているが、それ以上は出なさそうだった。お礼を言って次の人に聞きに行こう。この調子だと決定的な情報は得られないかもしれない。かといって、行方がわからないと探すにも限度があるから厳しい。



「町の中にいたら遭遇しかねないし、町の中にいないんじゃないかとは思うが……それ以上はわからんね。すまんな」

「いえ。ありがとうございました」



 情報をくれた人に礼を言ってその場を去る。

 さっきの人の言うように町の中にはいなさそうだ。一応町の端──進行方向まで歩いているけど、怪しい人影は見当たらない。



「全然情報集まりませんねー」

「場所に関しても曖昧だしな。これ以上はロスだ。戻るか」



 盗人の件は気にはなるけど、違ったらただ時間をとられたという事になる。あの少年だったら、と惜しい気持ちがあったがソーニャも待たせているし戻る事にした。


 馬車まで戻ったら、中でソーニャは売上の計算をし終えて三つのコインの塊を作っていた。



「あ、おかえり」

「待たせちゃってごめんね」

「ううん! 何かあったの?」



 私達の姿を見ると、三つのコインの塊の内の一つをとってカジキに渡した。カジキに渡すと、またコインの塊の一つをとって、今度は私に差し出してくれる。それを受け取って、数えながら軽く説明する事にした。



「私達が探していた泥棒かもしれない人の話を聞いたから、もっと詳しく知っている人がいないか聞いて回ってたんだけど……あれ?」

「そうなんだ! 何かわかった?」

「ちょ、ちょっと待って」



 数えていたけど、数が合わない気がして、今度は集中して一枚ずつ数える。店を閉めて商品を片付けたのは私達だから、大体の商品数はわかっている。石と素材を売ったけど石は一セットしかなかったから、もうない。素材の方は私の方は二つくらい余ってた。



 でも、それ全部が売れたとしても──多い。

 もしかしてカジキの分が混ざっていたりしないかと、カジキの方を見ようとしたけど、既に財布の中だった。



「ソーニャ、取り分多くない? カジキのと混ざっちゃってるかも」

「え?」



 確認が出来なくなってしまったので、ソーニャに直接聞くと首を傾げられる。さっきまであった三つ目のコインの塊もなくなっていた。


 既に完全に終わっている雰囲気だけど、私が言うとソーニャは私の手の中を覗き込んで、一枚一枚声に出して数えた。数え終わると、こちらを見上げてくる。笑顔で。



「ううん! 合ってるよ。売れた分と、働いた分」

「え」



 渡された分には、集めた素材を売った分の売上だけじゃなく賃金も入っているらしい。ただ、賃金と言っても子どものお手伝い程度の事しかしていない。あまり忙しくもなかったし。手伝いには入ったけど、ソーニャは元々自分一人で出来るくらいに慣れてるから、ソーニャの方で結構捌いていた。

 なのに、コイン一枚二枚とかではなく、しっかり追加されている。そんな二桁とかではないけど。



「でも……そんな働いたって程働いてないのに」

「ダメだよ、イルドリちゃん」



 笑顔の多いソーニャには珍しく、真剣で、でも子どもに叱るように優しく言われた。



「労働は労働。働いた人にお金を渡すのも当たり前の事だから。ちゃんと受け取って?」



 荒さは一つもないけど、逆らえないような強さが言葉にこもってる。そう言われてしまっては反対する気も失せる。有り難く、賃金も含めた売上を財布にしまった。私が財布に入れると、ソーニャにはまた笑顔が灯る。どことなく恥ずかしそうに。



「って言っても、今は少額だけど。拡大につれて増やしていくからね! そんな感じで、一緒に販売してくれた時はちゃんと渡すよ」

「……良い経営者になってね」



 上手くいく事を願わずにはいられない。このまま進んでいけば、良い経営者になるだろうな。


 ──売上の事がありはしたが、当初の予定通りすぐに町を後にした。手がかりになり得るかもしれない情報を聞いて惜しい気持ちはあるが、旅小屋を今夜の寝床にしたいからだ。


 それに何より、仮にあの少年だったとしても、目指す場所は同じ。『聖遺物』のある場所だ。そう自分に納得させて、馬車に揺られた。






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