大通りに出たけど時間もあってか、人が多い。行き交う人で、大通りという感覚は薄まっている気がする。
とは言っても、満員電車やイベント事での渋滞とは違う。そんな大渋滞ではなく、ただ人が結構いるなあって感じだ。通りに面している店も──全貌は見えなかったりもするが──概ね問題なく見える。
大通りは老若男女問わず行き来していて、店も色んなお店があるみたいだけど。何だか魔石の店が多いような気はする。さっきのやり取りがあったから、ではなく。
「魔石自体を扱っている店に……魔石を使った道具の店? かな。修理屋? みたいなのまである……」
「フェロルトだからな」
「ビアだったら、魔石ショップは主に魔石アクセサリーショップですよ」
魔石アクセサリーショップと言っても、大抵は主流であるペンダントだけど。
それでも、ビア国で魔石関連のショップと言ったらそういう店がまず一番に上げられる。でも、この国では魔石の道具も選択肢に入ってくるらしい。しかも複数店がある。
「むしろ、フェロルトだったら少ないくらいだろうな。なんでも、王都とか王立魔石研究所だかがある町なんかは、もっと数がある。こういう『魔道具』のジャンルごとに店があったりな。あとは、交換屋とかな」
規模の大きい町では当たり前だが、もっとあるらしい。この町にある店だけでも、結構あるという印象なのに。
しかし、気になる単語がいくつか出てきた。
『魔道具』は、まあ予想がつく。こういう魔石を使った道具の事を言っているんだろう。
王立魔石研究所も、字の通りだろうと予想は出来る。
なので、残りの一つについて、聞いてみようかな。
「交換屋?」
「自分の魔石対応タイプに合わない魔道具は、あってもガラクタも同然だろ? だから、交換屋で交換したり、逆に開いてるって話だ。この町にも多分一軒ぐらいはあるだろ」
「へぇ……」
色んな事情で入ってくるだろう『魔道具』を交換してくれるお店ってところかな。確かに、私も火以外の魔道具があっても使えないし、あっても仕方がない。友人とか知人にわざわざ起動してもらうのも悪いし。頻繁に使う物だったら尚更だ。
「こんな魔石に関して発展している国で言うのもなんだけど……誰でも使えればいいのにね」
「……本当にな」
そんな風に町を見て回りながら話し合ってたら、腕をぶんぶん振る誰かがこっちに走ってくるのが見えた。
──ソーニャだ。
手続きを終えたらしいソーニャが駆け寄ってきて、ハガキくらいのサイズの紙を見せてくれた。許可がとれた証らしい。
ソーニャは、出店場所を決めておいてほしいと辺りを示した。出店場所に関しては特に決まってないらしい。ただ出せるエリアは決まっているようなので、そこだけ気をつけてほしいとの事だった。
私たちに頼み事をして、ソーニャは馬車を取りに行った。頼まれた私たちは早速、場所決めをしようとエリア内を見て回る。でも、良さそうな場所には既に違う馬車が陣取っていた。
「う、うーん。どこが良いんだ……?」
「そんな量も多くないし、適当にこの辺でいいだろ」
片足の踵で地面を叩いているカジキの場所は、障害物になりそうな物も何もないただの通り道だ。曲がり角に繋がっている場所の近くという訳でもない。町の出入り口の方から真っ直ぐ来て、長い三叉路の真ん中に近い部分だから、悪くはない。両側には少し空けた場所に他に店を出している人たちがいるけど。
口からは唸り声が自然と出ていたけど、悪くはなさそうだし、そこで良い気がしてきた。商売が大いに分かっている人間が変に考え込んだところで、完璧に選べるわけもないのだ。
「ま。そこでいっか」
場所も決まったので、ソーニャの乗った馬車が来るのを待っていると、徐行運転の幌馬車が近付いて来る。
私たちの前まで来ると、御者台に乗っているソーニャが手綱を操って馬を止めた。馬が足を止めて落ち着くやソーニャは御者台から降りて馬車の後ろ側に向かう。
それがあまりにも素早かったので、ワンテンポ遅れで荷台側に早足で近付いた。
先に着いていたカジキが木箱を持ってその場から離れていく。ソーニャは中の方で作業をしていた。木箱の中に手を入れているのが見えるから、まだ運ぶのは無理そうだ。
「ソーニャ。値段とかを書くのに何か使える物ある?」
「ない、と思う。口頭でお願い!」
ペンはつけペンが基本的というのもあってか、携帯している人はほぼ見ない。普段馬車で動く商人くらいだ。
でも、ソーニャは旅についていくためにリュックに一纏めにしてきた訳なので他の優先度が高い方に負けたようだ。インクをぶちまけたら大変だし、リュックに詰め込む訳にはいかなかったというのかもしれない。
どのみち、今回は無理そうだ。
ソーニャも作業中でまだ運ぶまではいかなさそうなので、カジキの方につく。カジキは木箱から中身を取り出していた。聞いたらソーニャから「木箱をひっくり返して、中身を上に並べて」と指示を出されているらしい。その作業に私も加わった。
そうやってソーニャからの指示の元準備を進めたら、あっという間に終わった。
三人である事と売る物が少ないから、本当にすぐに準備を終えられた。
準備を終えて辺りを見れば、チラホラとこちらを見る目があった。初めてアルバイトをした時の気分になって、背筋を正す。
「う、売れるかな」
「売って足しになりゃあ万々歳。売れなきゃ次の町で出す。腐るもんでもないしな。気楽にやろうや」
販売するまでの諸々の準備が半日と経たずに終わってしまったせいか。お客さんになるだろう人を見て、ようやく現実感がやってきた。そんな私に対して、カジキはゆるい。立ち姿にすら出ているくらいに。
自分の手で集めた物だからか。手作りの品を売る時のような緊張感も混ざっている気がする。
「全部は売れなくても、少しは売れてほしいですけどね。馬車の面積的にも」
「面積つっても、その辺は嬢ちゃんが考えるだろ。あっちは商売慣れしてんだし、その辺は」
売れそうな物とかが馬車の中に増えていって、場所がなくなるのはあまり喜ばしくない。が、カジキの言う通りその辺も考えてやってくれそうではある。素人は大人しく、売る事だけを考えるのが吉か。