──次の町に着いたのは、翌日のお昼前くらいだった。
ほとんど馬車は整備された道を走っていたから、今までと比べて快適だった。たまに獣がうろついていて、襲って来る事はあったけどそのくらいだ。時間だけが過ぎていくように感じたくらいに穏やかなものだった。
そんな時間を経て、馬車が町に入って。私を辺りをキョロキョロと見回した。
「……想像していたのと全然違う」
「え?」
事前に聞いていた風車と、祭りの時にはキャンプファイヤーのあるという話から想像していたイメージとはかけ離れた町が目の前にはあった。
聳え立つ風車はある。大きな風車が一つ、風に吹かれて揺れている。町のシンボルというに相応しく、立派だ。風車の形も、私が知っている風車小屋そのもの。
──だけど。
町のあちらこちらに、何かの装置っぽいものが設置されている。今いるのは馬車を停めておくスペースから出た辺りだから町の全容はわからないけど、職人の町みたいな無骨なデザイン感がある。
ここからは見えないけど、恐らくキャンプファイヤーというのも何か装置を使いそうな気がする。
私の頭の中が見えている訳じゃないソーニャは、私の独り言を聞いてきょとんとしている。
「ああえっと……農村のイメージだったから」
「初めてみたいだったし、そうだよね。わたし、早速出店の申請出してくるから、その間に見て回ったらいいよー」
そう言って、休む事なくソーニャは出店の申請にどこぞへと向かっていった。残された私は、同じく残された人物であるカジキを見上げる。
「話を聞いた限りだと、申請が通るまでそんなに時間はかからないらしいけど……カジキはどうする?」
「どうするも何も……何かやるような時間はないんだろ?」
カジキは大げさに肩を竦めてみせる。その表情はどことなく気怠げだ。
「その辺歩いてりゃァ、手続きも終わるだろ」
どこか行くにしても、行くような時間はない。合流も面倒だ。
だからだろう。カジキは一緒に町を見て回る事にしたらしかった。ゆったりとした足取りで歩き始めている。
置いていかれて、私の方が合流しなければならないなんて事になったら意味がない。人でごった返しているとかでもなければ、路地が入り組んでいる訳でもないんだけど。カジキは服装のせいか、目立ちにくいのだ。腰を下ろして落ち着いているならまだしも。
そんな訳で、出来るだけ離れないように近くを同じような速度で歩いて、町の建物が多そうな方に向かった。
「何か装置が色々目にはつくけど……全部ではないんだ」
町のそこら中で見かける装置は、全体で見てみれば一部分だけだ。街灯だったりだとか、井戸のように穴が空いている場所の近くだとか。何かに装着するような感じで置いてある。
偶然、間近まで来れたので観察してみる。それは街灯だ。とは言っても、陽の高い時間の今は火も何もついていない。オブジェクトと化している。
ただ、今までに見た街灯とも違う気がする。
こんな近くで穴が空くほど見た事はないから、勘違いかもしれない。だけど、装置が取り付けられた街道はビア国では見た覚えはないのは確かだ。
街灯は日々手入れされていたという理由だけでは納得しきれない程に、錆一つない綺麗な状態だ。まだ出来て新しいんじゃないだろうか。装置に合うように新しく造られたというのが、完全なる予想ではあるけど一番納得がいく答えな気がする。
装置は人の身長くらい──私が手を若干下方向に伸ばしたくらいの位置にある。そこから、街灯のガラス部分までコードのようなものが伸びていた。
──伸びた先には、何もない?
内側。その中央部に伸びているっぽいけど、ロウソクだったりがある部分には何もないただの空間に見える。
なんて。見上げて、視線を本体部分らしき方に戻したら。何かマークのようなものが書かれている事に気付いた。
「あれ、このマーク……」
「炎だな」
「うわ! びっくりした!」
ぬっと視界の端から頭が生えてきた。と思ったら覗き込んで来たカジキだった。
「……って、やっぱり炎?」
意識をカジキにとられたけど、彼の言葉を思い出して、もう一度装置を見る。装置の本体部分らしき場所は、箱のようになっていた。何かをこの位置に置くためのような。
「もしかして……魔石?」
装置の中には魔石が組み込まれているのだとしたら、腑に落ちる。魔石は火で、火の魔石対応タイプの人が共鳴すれば火がつく。そうして街灯として町を照らしているんだろう。そういう分野に関わった事はないので、仕組みとかはわからないけど。暗くなったら、火の魔石に対応している人が点けて回るんだろうな。
「まァ魔石だろうな。フェロルトは魔石の研究に力を入れてるって話だしな」
「魔石を使った道具が結構普及しているんだ……」
こんな町の一角を照らす街灯にまで使われているくらいに研究が進んでいるという事なんだろう。
現代人的目線で見てしまうと、まだまだ遅れてるがこの世界においてはかなりのものだ。そのうち、魔石の雷属性を上手く利用して電気が世界中に主力なエネルギーとして普及するかもしれない。
──ただ。
この魔石というのは何となく使っているけど、どれだけあるのかとか、引き出すエネルギーの底だとか、終わりがあるのか無いのかという不安はあるけど。
「多分、店出すとしたら空いてる広場か、大通りだろうな」
隣で見ていたはずのカジキの声が後ろからした。振り向いてみれば、カジキは腕を伸ばし指差している。差した方に道は広がっているから、このまま行けば話に出た大きな通りになりそうだ。
あちこちで見かける装置に関してはわかったので、カジキが差した方に流れていった。