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10-2






 ──ソーニャがついてきたがった理由もわかったところで、二人でお店を見て回る。先に軽い物から買うという話になったので、先に布とか織物、調度品のお店に入った。

 というのも、今後を考えたら就寝時の体への負担を危惧したからだ。初期投資として、座席を良くする事は悪くない。提案したのは私だが、ソーニャも賛成してくれた。



「最初のうちは布とかを畳んで置いても良いかも。安上がりだし」

「うーん……フェロルトだと調度品は高いね。あんまり値段も変動ないよ~……わたしの国──セルーネとか、あとは……シアド! シアドとかは結構安いのが多い印象だなぁ」

「シアド?」



 違う国名らしいのを聞いたので、地図を取り出してみる。そうすれば、ソーニャは指さしてくれた。



「と、遠っ……」



 だけどそれは今私たちがいる大陸とは別の大きな大陸の上の方だった。とてもじゃないけど、今すぐには行けそうにない距離だ。フェロルトほど大きな国ではないけど、セルーネやビア国程の小さめの国ではない。国土としては二、三番目くらいじゃないだろうか。



「シアドは寒い国でね。だからこそ、防寒になるようなものとか、こういうクッションみたいなのとか、織物とかはたくさん生産されているんだぁ」

「でも、さすがにクッション買うために海は渡れないからなあ……やっぱり厚みのありそうな布とかで今はガマンしよう」

「そうだね」



 何もないよりはマシだろう。布なら他の事にも使えるので、生地が集めの布を数枚買った。購入したのはソーニャで、私はそれを全部抱え持っているだけだけど。

 布を買ったけど、そのまま買い物を続行して違うお店に向かう。箱で馬の飼料を買って、箱の上に布を置いて二人で馬車まで運んだ。ソーニャからは「ムリしないでね」なんて心配されたけど、二人で持っている事もあってあまり重くなかったので笑顔を返した。



 馬車に運び込んだけど、買う物はまだあるらしく、もう一度お店の方に行ってもう一往復。

 結果、ソーニャが買いたいものは全部買えた。座席には先に布をセットしている。御者台の方は厚みを出しすぎない程度にした。これで少しは馬車旅が楽になるだろう。



「荷物分、場所はとるけど快適さは上がってそうだ」

「うんうん。でも十分ではないから、いずれはもっと良いの買おうね!」



 ソーニャの握りしめられた両手の拳が上下に振られる。

 旅に必要なものを買ったけど、それ以外にも買っていた。そんなには多くはないけど。それは多分売るために仕入れた物なんだろう。



「出発はいつ頃にする?」

「うーん、ご飯食べたらかなあ」

「じゃあ、どこかゆっくり食べられそうなところでご飯食べようか」



 太陽は真上に近いし、この町で一泊するような時間じゃない。だけど、ここまで手綱をとってくれていたソーニャが休めるように寛げそうな食事処に誘った。



「……この子達のお世話したいし、交代でいいかな?」



 だけど、ソーニャには首を横に振られてしまった。彼女がパワフルっていうのもあるだろうが、先に準備を終わらせてしまおうという気持ちとか防犯面とかがあるんだろう。一緒に行けないのは残念だが、仕方がない。



「じゃあ食べてくるね」

「いってらっしゃ~い」



 ソーニャの私を送る声が後ろから聞こえながら、私は再び店が立ち並ぶエリアに向かった。

 どこで何を食べようか。これまでに食べてきた料理のイメージを頭に思い浮かべて比較しようとしたけど、そんな選択肢はないに等しい。



 色んなお店が軒を連ねる中、大衆酒場っぽいところを覗いてみた。酒場っぽいところはいくつかあったけど、入ったのは町で一番大きそうなところだ。

 昼間から人々の賑わう声の中、入っていく。客の顔を流し見ていけば、端の方で一人楽しんでる見知った顔を見付けた。



「交代で食事して、全員が食事終わったら出発だって」

「あいよぉ」



 案の定酒場で飲んでいたカジキの正面の席が空いていたので、座る。カジキはご飯を食べ終わったのか、食べてないのか手元にあるのはジョッキだけだ。



「カジキはもう食べたん……ですか?」

「一応」



 どれだけ食べたのかはわからないが、どうやら食後ではあるらしい。なら自分ひとり分だけでいいので、店員を呼びたいところだが、まだそこには進めない。

 じっとカジキを見る。カジキの手にはもうあの数本あった針は一本もない。宣言通りに全部売ってきたのだろう。



「……ちなみに、針はいくらくらいで売れました?」

「あ? あー全部合わせりゃ、まァそこそこ」



 そう言って、カジキは財布を取り出した。その中からコインをいくらかとって、私の手元に置いた。バラバラと手からテーブルへと落ちたコインを数えていく。


 一、二、三、四……。

 一枚一枚数えていたけど、まだある。余裕で食事分ぐらいはありそうだ。今回の食事分を入れて、あと数回ぐらいは食べられそう。安いやつに限るが。



「これって、借金分は……」

「もらってる。これでチャラな」



 渡したお金と、針一本分でようやく返金出来たらしい。カジキへの借金がなくなった事にホッと息を吐く。

 売ってくれたもう一本分のお金は自分の財布に入れる。そこでお店の人を呼んで料理の注文に入れた。カジキはもう食事は終えているとの事だったから、自分の分だけ注文しようとしたらカジキは「同じのもう一杯」としれっと追加注文した。



「何杯目……?」

「三杯」



 酒を飲んでいる事はわかるが、何を飲んでいるかは分からないがジョッキサイズ。それが三杯目らしい。ソーニャの食事が終わったら馬車にガタゴト揺らされるというのに、大丈夫なんだろうか。



「……後で吐いても知りませんよ?」

「こんな薄っすいのじゃ酔わん」



 美味しいとかまずいとかいう話ではなく、もっとアルコール度数が高いのを何度か飲んだ事があるとかそういう話だろう。

 かといって、この人が酔いつぶれないようにキープしきれる人にも見えない。多分、私は今胡乱な目で彼を見ているだろう。


 乱切りにされたイモや根菜や肉類と、麦類が混ぜ込まれたようなお手軽なワンボウル料理がテーブルに置かれて、ありつく。向かいには同じデザインのジョッキが入れ替わりで置かれた。



「ヤムシって結構よく見るらしいけど、針を集めるのは大変?」

「ある程度腕があるやつなら大した事ない。が。メンドくさい。襲う時は何匹かの集団で襲ってくるしな。あの時のは多めだったが」



 凶器持って飛び回る連中が集団で来るって考えたら、針を集める目的があったとしても前のめりで挙手はなかなかしなさそうなのは理解出来る。カジキの方は何本分売ったのか──複数持っていたのは見たが正確には数えていないので──わからないが。

 ただ、ここで三杯お酒を飲んでいる辺り本当にそこそこの額は手に入れてそうだ。余裕が出来たからではなく、宵越しの銭は持たないとまではいかなくても使ってしまうタイプかも知れないけど。


 とは言っても、一本分で数食分だったから小銭稼ぎ程度だろう。数食分と言っても、食事代は安い。私が今食べている屋台飯みたいなものは、日本円にすると多分二〇〇円とかだ。



──……あの戦いがお金で換算するといくらか。釣り合ってなさすぎて虚しくなるので、深く考えるのはやめとこう。生きて進めただけで良い。



 ただ、ヤムシの針は素材の中ではお金になる方だという事はわかった。また遭遇した時には針を回収するのを忘れないようにしないと。

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