ガラガラ、ガタガタと
大きくない荷馬車だけど、荷物は私達が持っていた物だけだし、そんなに狭くはない。片側にだけ段差がついているけど、そこは座席として使えるからそこはむしろ有り難い。何より歩かなくていいというのは、徒歩で向かっていた時とは大きな差だ。
国境での事は別として──新しい国に入って早々良いスタートを切れた。それは良い事なんだけど。
「お、お金が……ない」
「足りねえなあ」
移動時間で余裕が出来たのでカジキにお金を渡した。カジキに借りたお金がいくらなのか分からなくて、その状態も怖いし、一枚も渡さないのも嫌なのでとりあえず全財産を。だけど、カジキからは具体的な数値を出され片手も出される。思った通り足りない。
ゲームみたいに魔物を倒したらお金が手に入るなんて事がある訳もなく。いや、現実に魔物を倒して毎回お金が出てきたらそれはそれで「なんで?」となるけど。
幌馬車を手に入れて、宿に泊まらなくても一応体を休められるようにはなったけど食料を買う事を考えると、減っていく一方だ。
今回は御者を出来るソーニャがいるから御者無しだったみたいだけど、もし雇うとかって選択だったらお金がいるのも事実。前々から気にはなっていたけど、そろそろ脇に置いてもいられない。一心不乱にあの少年を追い続けるにも限界がある。
大金は望まない。ただ、何かあった時に出せるくらいには常に持っていたいところだ。
とは言っても、どうすればいいのか。移動しながらお金を稼げれば一番良いけど。思いつくのは、お遣いイベント的なやつとか、クエストみたいな感じで討伐みたいなのとか──カジキが生業にしているようなやつだ。
「指定のやつ退治とか、代わりに何かするみたいなのってどれくらいかかるんですか?」
「種類や数による。ただ、誰かに何か渡すとか簡単なやつはいきなり受けられるもんでもないし、出来たとしても依頼料は安いぞ。退治系は命懸けるからな、高額になりやすいが、最低一日かかる。しかも戦えるやつ多いからな、簡単なやつほど取り合いになりやすい」
「う……そりゃあ、そうか」
そういう稼ぎ方になるなら、目の前に慣れている人がいるから訊いてみたはものの、やるにしてもそう都合の良い答えは返ってこなかった。高額としか言われてないけど、治癒魔法的なものも無く、まともな治療法もないから結構な高額なんじゃないだろうか。一回でしばらくは旅費に悩まずに済むくらいの。
だけど、怪我が少なさそうなものは取り合いなら見付けて受諾までが難しそうだ。かといって、お遣いイベント的なのも、簡単に受けられるものでもないみたいだし。
「依頼をもらうのって、むずかしい……」
「そーなんだよ。難しいんだよ。信用が大事になってくるから、何年もみんなやってるって訳だ」
「……でも、何かしらで稼ぐってなったら。仕事につく訳にもいかないし。どうやって手に入れよう……」
「お金稼ぎの話?」
御者台の方から、ソーニャが話に加わってきた。御者台と荷台の距離は近いから、二頭の馬を操りながらも私達の話を聞いていたようだ。
「それなら、売ったりしたら良いんじゃないかな」
「売る?」
「うん。道の途中で拾ったりして集めるの。ハーブとか、石とか、土とか、木の実とか……全然売れなかったり売れてもあんまり高くないものもあるけど」
ついつい労働力の方面で考えてしまっていたけど、確かにソーニャの言う通りだ。今なら幌馬車もあるから多少の荷物は運べるし。道中で見付けたものが売れるなら、売る時間は多少かかるけど、そこまでじゃない。
「フェロルトはね、魔石の研究が盛んだから、それに必要な材料とかはあってもあっても欲しいみたいでよく売れるよ。材料だから一個単価は安いけど。例えば……さっきあげたハーブとか石とか。荷馬車もあるし、露店の申請をしたら町で売る事が出来るよ。長くても数日間だけどね」
──さすが商人の娘。頼もしい。
悩んでいたら、ソーニャは色々と教えてくれた。どれだけ売れるかわからないけど、売ってお金を稼ぐのが今のところ最善そうだ。
「売る、なあ。石はわからんがハーブならある程度は判別できる」
「へぇ、ハーブはわかるんですね」
「フェロルトは特にみたいだが、薬に使える材料は割と依頼あるからな」
薬は重要であり、その材料として使える類は安定して需要がある──って事かな。それならカジキは結構依頼を受けていそうだ。
「依頼ってなると、結構な量要求されるし、探して集めないといけないしで、結構な手間だったけどな。売る目的なら適当な量でいいし良いんじゃないか?」
肩を交互に上げては深く息を吐いて、どこか気怠げにカジキは言う。過去に請け負っただろう依頼で、本当に手間だったのだろう。問屋から卸してもらう訳でもない。自分一人で大量に収穫しに行かなきゃならないとなると、そりゃ大変だっただろうな、と依頼とはいえ同情に似た気持ちを抱いて見てしまう。
「……言っとくけど、俺に全任せしたらお前さんには売上分けねえからな」
「いや、さすがに全任せはしないですよ……」
他人事として見ていたからか──実際依頼を受けた当時の事は他人事なんだけど──釘を刺された。全任せする気はまったくなかったので、すぐに否定したけど。
「よーし、それなら道の途中で見かけたり休憩する時に集めよっか」
素材を集めて売る。
お金を集めるやり方はひとまず決まった。あとは、次の町までに集まってくれれば言う事はない。