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8-5









 新しくソーニャも一緒に行く事になり、後でトラブルになっても嫌なので──先に承諾してしまったけど──忘れず褒賞金についても話した。分け前を渡すってなるとカジキが嫌がるかもって事も一緒に。

 だけど、ソーニャは全く気にした素振りはなくて「いいよ」と一つ返事だった。


 それよりも、一緒に行く事が嬉しくて仕方ないみたいだ。すぐにリュックを背負ってる背中を見せてきた。中身は食料や道具などを色々詰め込んでる事を笑顔で教えてくれた。ついてくる気満々だったみたいだ。



「んじゃま、行くか」

「あ。そうだ。お父さんとお母さんが向こうの町の出入り口で待ってるから来てほしいって言ってた」

「お父さんとお母さん? って事は……家族ぐるみでやってたんだ」



 向こう、と言ってソーニャが指差したのは私達が入ってきた方向とは反対方向──つまり町の奥だ。どのみち、そっち方向から出る予定だったから問題ない。

 ソーニャと一緒に商売していた二人はご両親だったようだ。しかも、この口ぶりからして今回の事は両親に話していそうだ。いくら手がかりを見つけたとはいえ、両親に帰ると言っていたのに突発的に追いかけ始めて手紙だけで済ませた私とは大違いである。


 ともかく、待っているというならあまり待たせるのも悪いし、急ぎ足で奥の方に向かった。



「あ、いた。おーい!」



 小さな町だから、反対側にはすぐ着いた。

 ソーニャが大きく片腕をブンブンと振り回し出した。町との境目部分にあたる辺りに、見覚えのある二人が立っているのが目に入る。二人の傍らには荷馬車もあった。


 私達が乗せてもらった荷馬車とは違う。一回り二回り小ぶりで、馬は二頭だ。形も違う。ただ、屋根はあって、白い布みたいなので覆われていて、荷馬車をイメージしたときに一番浮かびやすい姿だ。ファンタジー物とかで見るような大きなものではないけど。



「ああ、良かった来てくれて。私達もそろそろ出ないといけなかったから」



 私達が近付くと、女性──ソーニャの母に声をかけられた。ご両親の方は自分の娘と離れた後も商売のために次の町にでも行くのだろう。何せ商人だし、この町は本当に小さな町みたいだから当然も当然だ。



「お見送り?」



 体を左右に動かしてソーニャが聞く。体が揺れているだけじゃなくて、声も弾んでるし、嬉しいのが私にも伝わってくる。



「行く前に顔を見るためと……これだ」



 父親の方が親指で指し示したのは近くに停めてある荷馬車だ。



「移動にはこれを使いなさい。今あげられるお前の馬車だ」

「えっ!? こ、この幌馬車ほろばしゃくれるの?」



 いつの間にか、傍らにいたはずのソーニャが荷馬車の方に駆け寄っていた。多分ああいうタイプの馬車を幌馬車というんだろう。幌馬車の周りをウロウロして見ている。


 嬉しそうだなぁ、と呑気に見ていたけどソーニャの父親の言葉を思い返して首を傾げる。



──移動にはこれを? あげられる?



 他人事として聞いていたけど、ソーニャに荷馬車をあげたという事は一緒に行動する私達が乗る馬車でもある。思いもしなかったけど、乗り物を手に入れられたという事だ。

 屋根もあるから、雨は凌げる──ぬかるみが心配だけど──し、馬車の中で寝る事も出来る。寝心地はベッドと比べたら良くないけど地面の上に寝るよりはいい。荷馬車だから、ある程度荷物だって置ける。



 もらった本人であるソーニャも大喜びしてるけど、私としても非常に有り難い事だった。



「ソーニャをよろしく頼むよ」

「は、はい」



 ご両親は幌馬車を渡すのが主目的だったみたいで、用事を終えたらソーニャと顔を合わせたあと、私達に言葉をかけた。改めて言われると、その責任に少し揺らぎそうになる。

 まあ、どうにかなるだろう。ってレベルの楽観視は出来ないけど、あまり気にしすぎない事にした。


「なあ。御者は?」



 二人が立ち去ったあとに、幌馬車を見たカジキがぽつりと言った。



「……あっっ!」



 言われて気付いた。移動手段を手に入れた事で喜んだけど、あるのは馬車と馬二匹。御者はいない。

 田舎ファヌエル育ちのイルベリだが、馬はそこまで身近じゃない。一応町の中にはいたけど、御者レベルの学びも得てないし触れ合ってもいない。

 そんな事を言い出したって事は、カジキも御者を出来るほど馬の扱いには慣れていなさそうだ。



「この町は小さいが、検問所から一番近い町だ。ある程度馬車やそれに付随するものがあるはずだけどな」

「だとしても、雇うってなったらお金が」

「あ、それなら大丈夫!」



 御者を雇うなら、それだけの対価を──お金を払わなければならない。カジキに現在借金をしている状態である私としてはこれ以上はきつい。でも御者がいなかったら馬は上手く動いてくれない。


 二人で御者がいない話で話し合い、悩んでいると、それを吹き飛ばすように明るい声でソーニャが割って入ってきた。



「わたし、御者できるから!」



 「だから、二人とも御者つけなかったんだと思う」なんて朗らかにソーニャは笑っている。少しだけ胸を張っている気もする。

 確かに、商人として働いていたソーニャなら、必要が出てくるだろうし出来てもおかしくはない。


 ソーニャは、御者台の方に向かっていって、御者台に座って、二頭の手綱を握った。



「さあ、乗って! 出発しよ~!」



 御者がいるなら、もう何も言う事はない。後は追いかけるだけだ。

 カジキも同じ気持ちだったのか、ほぼ同時に幌馬車に向かった。




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