近くの町に着いたのは日が落ちるくらいの頃だった。
同乗していた男の人と女の人が運んでくれようとしたが、さすがに断った。何度もお礼を言ったけど、二人は特に気にした風ではない。でも私が気になるので瓶詰めの飲み物と、携帯食を買った。旅をするなら、どのみち必要だし。
三人と別れたら、宿の確保だ。カジキは旅券の発行費用を全額出してくれているので、せめてと宿代は私が払った。小さな町だからか、あまり高くなかったけど。節約したくて一部屋にしていいかカジキに確認したら、まったく気にしてないみたいだからツーベッドの部屋を一つ借りた。
「じゃ、俺酒飲むから」
部屋をとったら、カジキはへらっとした顔でそう言って、上機嫌でどこかへ行った。私はそんな元気はないので、部屋のベッドに横になって体を休めた。
──何とか国に入れた。古代の遺物と呼ばれる中でも、特に貴重とされている『聖遺物』
そんな『聖遺物』は首都で保管されているだろうから、首都の方をとりあえず目指そう。
どこか調子が悪いと、普通にしていても体力をゴリゴリ削られる。怪我をしてからは馬車に乗って、あとは宿で過ごしたけど早い内に眠りについて、朝を迎えた。
起きたら、いつの間にかカジキが帰ってきていて寝ていたので起こして出来るだけ支度をした。やられたところは痣になっていたけど、刺激しない限りは痛みは落ち着いている。
宿で適当にご飯を済ませて、出ると近くにソーニャが落ち着かない様子で立っていた。背中には昨日見たリュックを背負ってる。パンパンに詰まってるように見える。
「おはよう、ソーニャ。今からお仕事?」
「あ……イルベリちゃん! ……と」
拳を作った両手を上下させて力強く反応を返してくれた。ソーニャは近くにいるカジキを見て止まる。名前を呼ぼうとしたみたいだけど、首を傾げている。
そうだ。カジキの名前は何回か言ってはいたけど、ちゃんとは紹介していなかったんだ。
「彼はカジキだよ。言ってた人」
「ドーモ」
「わたしはソーニャ・フルリだよ、よろしくね!」
改めてに近いけど、ソーニャにカジキの事を紹介した。ソーニャも自己紹介をし、挨拶を交わしている。短く挨拶を終えると、ソーニャはじっとカジキを見ていた。カジキ自身を、じゃなくてカジキの衣服を見ているみたいだった。
「
耳慣れない単語のはずなのに、どこか響きが馴染む。アジア系の顔立ちだと思ってた彼の事を最初伝える時、変わった服と言ったしあまり見ない服ではあったけど──国が判別出来る程のものらしい。着物っぽい感じがするなとは思ったけど。民族衣装と呼ぶにはノーマルな服の中にあっても、あまり浮かずに馴染んでいたから。
本人は当たっているのか当たっていないのかわからないけど、興味なさげだ。
「あ、そー。よく知ってんなあ」
「
いずれも
「じゃあ……そろそろ私たちは行くね」
「あ! 待って!」
カジキを見上げて促せば、片手を振ってくる。同意ととって、街の出入り口に向かおうとしたら、視界から外したはずのソーニャが、また目の前にいた。
「実は、二人にお願いがあって」
「……お願い?」
引き止めてきたソーニャは私たちに頼みたい事があるらしい。
ソーニャには色々助けてもらった。手当てをしてもらったり、馬車での移動だったり、食べ物だったり。そんなソーニャには出来る限りの事はしたい気持ちがあるし、頼みたい事があるなら聞きたい。時間はあまりある訳では無いけど。
商人だし、何か採取してきてほしいとかかな。買い物を手伝ってほしいとかもあり得る。何を頼みたいのかわからないけど、その辺ならよっぽど難易度が高い物じゃなければ出来そうだ。まずはその頼み事の内容を聞いてみよう。
「どんなお願い?」
「わたしも一緒に行きたいの! 行っていいかな?」
ソーニャから出されたお願いは、まったく思っていなかったお願いだった。
商人として、日々三人で売り歩いている彼女が、私たちと一緒に行きたがるというのは一瞬結びつかなくて肯定も否定も出来ずに首を傾げた。
「ええっと……一緒に行きたいって、一緒に捕まえたいって事?」
「うん! 追いかけるの手伝いたい」
もしかして、ソーニャは商売をしている人間だから盗人であるあの少年の事を許せないんだろうか。それなら、そんな事を言い出してもおかしくはない。
でも、連れて行くのはどうだろう。最早彼とは話し合いで済む気がしないし、むしろ取り押さえられる可能性が上がるし、人が増えてくれる方が有り難いと今の段階では思ってる。
ただ、協力相手であるカジキはどうだろう。一緒に行動している以上、私の一存では決められない。
「どうする?」
「……どうする、つってもなあ。世話が必要な子どもでもないなら、後は分け前いらないってんなら別に」
「ワケマエ?」
カジキに聞いてみたら、どちらでも良さそうな態度だった。会話が聞こえたらしいソーニャは目を瞬かせている。知らないっぽいソーニャからしたら、褒賞金に関しては本当に「何の話だろう」状態だろうな。
ともあれ、協力者であるカジキは問題無さそうだし、承諾する事にした。
「わかった。じゃあ一緒に行こう」
「本当!? 良かった、これからよろしくね!」
承諾すると、飛び跳ねそうなほどにソーニャは大喜びした。
これからは三人での追走だ。