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6-2








 入った林道は人の手が入っていなくて、道らしい道はない。林道と言ったけど正確にはただの林で、道の部分は私達にとっては、林の続いている道の意味になっている。

 上に伸びている木々は高く高く続いている。四方八方を巨人にでも塞がれているみたいで、少し落ち着かない。


 林道に入るや「枝と枯れ葉とか乾いた物集めろ」とカジキに一息で言われた。言った本人も足元を見て拾い集め出したので、私も良さそうな物を集める。何をしたいか予想がつくし、これに関しては今までに何度か経験があるから特に何の疑問も持たなかった。



「このくらいでいいですか?」



 お望みのものを、ある程度集めてカジキのところまで持っていくと、カジキはしゃがんでいた。カジキ自身も集めた物を横に置いているようだ。カジキの視界に入るように、私の分を置いた。



「悪くない」



 ちらりと見たカジキから許しが出たので、私は向かい側にしゃがんだ。

 カジキが自分の荷物から何か取り出す。どこかで見た覚えがある。それは確か、私の出身地であるファヌエルなんていう田舎町でも日常的に見た物だ。


 ──火の魔石に対応していない人が火をつけるための物。簡易な火起こしの道具だ。

 仕組みはわからないけど、魔石はついていないし、魔石の力に頼らず摩擦とかで火をつけるのだろう。魔石対応タイプが火以外の人は、持っている事も多い。私は火属性が使えるから、私や家族は持っていなかったけど、野宿をするとかじゃなくても持っている人を割と見た。



「あの。私、火を起こせますよ」



 でも火を起こすための魔石さえあれば、それは必要ない。この地球の母から渡された魔石を無くさず──出る時忘れそうにはなったけど──持っている。

 だから、カジキにそう言って止めると彼はこっちを向いて、私をじっと見た。



「お前さん……使えるのか?」

「はい。火に対応しているから……」



 持ってきた物をいくつか地面に置いて重ねたのち、首から下げている火の魔石晶のついたペンダントに意識を傾ける。

 体の内側が燃えているような熱が胸の奥からする。小さな火を思い描いて、カジキの前まで流れるように移動する。そんな図が頭に浮かぶと同時に、全身の血も熱く感じられた。指先から、すぅっと熱が落ちる。


 外界に意識を戻してみれば重ねておいたそこに、火がついていた。拾ってきた材料を焼いている。火は揺らめいていて、少し頼りなかった。

 人が近くにいるから、小さめな火にしたけど、少し弱かったかもしれない。火が消えないように追加して、なんとか火を燃え上がらせられた。


 ふと。

 カジキが何も言ったり動かない事に気付いた。目線を上げれば足と手が見えるから、移動した訳ではないみたいだ。


 もう少し見る地点を上に上げたら、カジキと目が合った。彼はまだ私を見ていた。物珍しそうに見ているとかではなく、怒っているとか、悲しんでいるとか、そういう表情もない。

 ただただ、私を見ている。



「……これでいいですか?」

「ああ」

「どうかしました?」



 見られていたとわかると居心地が悪い。そう見えないけど疲れが出ているのかもと思って、声をかけたらノータイムで反応が返って来た。そのまま火の様子を見て、集めた材料を加えたり囲ったりして、面積を拡げていっている。



「使えるな、と思ってな」

「……本人に言うかな」



 考え事でもしていたんだろう、と思えば短いけどなかなかなセリフを吐かれた。



「実際、火は何かと使い道があるし言われて来ただろ?」



 言い方はともかく、確かに使えるのはその通りだ。

 以前、アイリスと魔石について話をした時にアイリスが言っていたように、火の魔石対応を持っていると就職しやすい。

 この世界にはライターみたいな便利な物はない。だって、魔石は普段みんな携帯しているし、火の魔石対応さえあればその人が火が起こせるから。


 それでも、火を起こしたい人用にカジキが持っているような物で火をつけるみたいだけど──ライターみたいに押して火が点くような簡単な物じゃない。でも、もっと簡単な物を作られる気配は今のところない。火の魔石に対応している人はあちこちにいるから。

 もしかしたら、ビア国以外にはあるかもしれないけど。



 でも、それは火属性に限った話じゃない。

 水は日常的な事で言えばかなり役立つ。飲み水にも出来るし、農業をしている人たちにも重宝されていた。風とかも、小さな物から大きな物まで物を切れるし、単純に風を吹かせたりも出来る。


 どの属性も、色々と使いがあるのだ。



「他のタイプの人も言われてると思いますよ?」

「かもな。とりあえず、これなら火は大丈夫そうだな。お陰サマで手間が減った」



 安定して燃えている火を見ながら、カジキは言う。ほんの少しだけこそばゆい。ほんの少しだけなのは、彼の妙な軽さのお陰だろう。



「とりあえず火な。ついでに聞くが剣は。腕前はどのくらいだ?」



 腰から下げている王都を出る前に買っておいた剣をカジキは見ていた。彼といる間にまだ振っていないその剣を。



「基本は全部教わってます。兵士とかじゃないので、そんなしっかり学んだ訳じゃないですけど……」

「実戦は。実戦はどうだ?」



  両親とも軍人として従事した経験はないし、のどかな町であるファヌエルではそんな本格的に教えられたりはしない。

 でも周りに自然が多いから、実戦として獣と何度か戦った経験はある。大半は誰かと一緒で、複数に囲まれたとかじゃない正面からの戦いだったりはするけど。



「獣相手なら……何度か」

「まァそれなら十分だな」



 ひらひらと片手を振って、両腕を上げたかと思えば後ろの木にカジキはもたれかかった。

 質問はそれで終了。


 でも、若干思うところはあった。ここまでは道や運の問題で何ともなかったけど、これからは遭遇する可能性が高まる。そう予見させたのだから。




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