乾燥肉を食べながら、座ってしばらく休憩をしたお陰でいくらか回復した。回復するとすぐに出立になり、二人で小屋を出る。太陽はまだ上にある。行けるところまで行きたい。
一応はカジキの手伝いという名目なので、基本的には彼に従う感じで動く。カジキの方が旅慣れしているというのもある。有り難い事に、カジキもその意識で動いてくれているようで、先頭を歩いてくれた。
進行方向は、多分決めた通りに林道と草原の間になるルートだ。ナナメ方向に歩いている。しばらくすると、
「あっちが林道……」
暗くなる前には入る予定の林道が見えてきて、それを横目で確認出来るくらいの距離で草原を歩く。
いざとなったら駆け込んでもいい。
そう思いながらも足を止めずにいると、何かが飛んできたような気がして、思い切り体を逸らした。草原に生えている草は短いけど、地面がぽつぽつ見える程度で。視線を正面にしていたら下は見えない。小さな獣か、ヘビみたいな物でも飛びついてきたのなら。一瞬で心臓がうるさくなり始めた。
「どうした」
「何か飛んできた気がして」
どこに落ちたかはわからないけど、飛んできたところの真後ろを注意深く見てみる。目を凝らしてみるけど、草が揺れるだけでそれ以外の動く物は見当たらない。
私の様子に気付いたカジキは「ああ」と言って、同じように辺りを見たけど、先頭に戻った。
「少し風もあるし、切れた雑草っぽいな。この辺りは基本的には魔物とかは出ないからな。出ても小動物で、好戦的じゃないやつが多い。警戒は大事だが……まァ気にしすぎるのも良くないぞ」
「……獣の類との戦いを避けるために選んだ道ですしね」
ケガは命取り。
その事がどうしても頭にあって、カジキの言う通り気にしすぎているかもしれない。実際それらしい姿は見付からない。落ち着いていない自分に、大きく深呼吸をして落ち着かせる。
「それよりも……問題は」
そう語尾を消して言ったカジキが林道の方を見る。草原を通っての進行よりも、問題になるのは林道だと──そう言っている。
森よりは危険性は下がるけど、安全ではない。夜は特に。その事を言いたいのだろう。私もそう思うので、カジキがそう言いたいのはわかった。
でも暗くなる前には入りたいし、夕暮れには林道の方に行こう。早めに野宿の準備もしてしまって、朝日を早く浴びてしまおう。
「どっちかってーと、ただ足を動かし続けるしかない……何もない事に困らせられるけどな」
「確かに」
今までの移動ルートは、何だかんだで何かしらがあった。でも、私達が今いる場所は見渡す限りの草原で。何もない。
カジキが言っていた通り、休憩出来そうな小屋はないし、木や岩もないし、何かの物が置かれていたりとかもない。道には荷車とかが廃棄されていたりする事もあるけど、ここにはそういった物もない。休息をとる事自体は、地べたに座りでもすればいいだけだ。
でも、景色が全然変わらない。代わり映えしないというのは、退屈──よりもどれだけ進んだのか分かりづらいという事の方が嫌な感じだ。来た事もない場所だから、後どのくらいあるか分からないから余計に。
「カジキは、こういう仕事をして長い?」
さすがに、これが後一日は続くのにただ歩き続けるのも気が滅入りそうなので、気分を紛らわすためにカジキに話を振った。
「長いか長くないかで言えば、そこまでだな」
「え、そう……なんですか?」
一緒に行動をする訳だし、カジキの事をもう少し知っておこうという思いもあって訊いてみたらちょっと意外な答えが返ってきた。結構慣れていそうな感じがしていたから。
「五年くらいかな。ンな事数えてねぇから多分な」
そこまでって言うから、てっきり一年とかかと思ったら五年もしているらしい。
「五年って結構やってるんじゃ」
「そうかあ? こういうのやってる連中は、もっとやってるぞ。しゃしゃり出りゃジイさん連中に若造が! なんて怒鳴られる事もあったりな」
「そう……なんですか?」
「そーそー」
ひらひらとカジキは片手を振りながら肯定する。乱暴というかいい加減な返答にも見えたから、一瞬信じるか迷ったけど。どうも本当っぽい。
まったくその辺の界隈の事はわからないけど、年齢層は高めなのか。それとも長年やってる人が何人かいるのか。わかるのは、界隈で言えばカジキのところは割合新しめという事だけだ。
「そういえば、個人でやってるとか就職には向かないとか言ってましたけど……一人でやってるんですか?」
「ああ、ダラダラとな」
依頼ありきだし、安定職ではないからか五年間一人でこなしていたらしい。戦う便利屋とか何とか言っていたし、色んな仕事を請け負うんだろうけど。
五年も続けてはいるけど、大きくする気はなくて。かといってお金に興味がないとかでもなく。上手く行ってないにしては、別の事もやらずに続けている。
──何というか……掴めない人だなぁ。
「そろそろだな。林道に入るぞ」
急に足を止めて、カジキが林道の方を指した。まだ空は明るいけど、陽が沈みはじめそうだ。
ひょこひょこと林道の方にカジキが向かったので、それを追うようにして私も林道に入った。