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5-2










「──よし……」



 備え付けられた鏡を見ながら準備を整える。腰には剣を差した。剣は持ってきていなかったので、武器屋で軽い剣を成人祝いでもらった宿泊費から出して買った。短めのロングソードぐらいの長さで、ロングソードよりもう少し軽いような剣だ。これなら、そこまで負担にならないだろう。


 私と同じく過去から来たと言った謎の白い少年。ビア国が保管している古代の遺物の更に貴重な品である『聖遺物』を盗んだ彼は、あのあと姿を消した。あれから兵士たちが王都内を探してる。今のところは確保してなさそうだ。多分近いうちに王家の品が盗難にあったと発表があるかもしれない。



 私は彼を追うため、旅支度をして今終えたところだ。彼がもし『聖遺物』を集めているならば、彼の次の目的地は恐らく違う国だ。


 隣国はフェロルト。大国だ。行ったことはないけど、北上していけば辿り着ける。

 だけど、大国と言われている地で一人の人間を探すのも、街一つ移動するのも大変だ。だから、出来るだけ早くフェロルトに行きたい。出来れば距離を埋めるだけではなく、彼より先に辿り着きたかった。

 それでも欠かせないものはあって。私をここまで大切に育ててくれて、ファヌエルの家で待ってくれている両親ふたりに、帰るのが遅くなるという旨の手紙だけ届けてもらえるように預けた。



「うーん……徒歩、馬車……」



 剣の他にワールドマップも買ったので、それと睨み合う。現在地が表示されるわけではないけど、世界の全体図がわかる地図は絶対に必要だから早めに買えて良かった。多少値は張ったけど。

 ともかく、それによると隣国まではまだかかる。ビア国の端──国境付近まではあと半分くらい。馬車を何度も乗り継いで来れたあれがもう一回あるのだ。そう思うとげんなりするが、追いつきさえすればいいんだ。金銭面が心配なので馬車はやめて、歩いて向かう事にした。



 ──王都を出てしばらく。

 街道を出来るだけ歩いていけば、建物が見えた。二階建ての小屋と、馬繋場だ。旅人とかが休憩に立ち寄るための旅小屋だろう。歩き通しで疲れたし、寄ることにした。

 中は、それなりに広さがある気がする。休むだけの場所だから、あまり物が置かれていないのも関係しているのだろう。一階にあるのは、腰掛けるのに良さそうな長椅子と、テーブルだ。



「ん……?」



 そのイスとテーブルを使用している先客がいた。どこかで見た気がする。この辺じゃ見掛けない骨格っぽいというか。



「よお、また会ったな」



 ここでの知り合いは多くはない中で、見覚えがある気がしたから近付いたらあっちから声をかけられた。茶髪に壮年の範囲っぽくて、アジアっぽい感じ。カジキという前世での年と近そうな男性だ。

 でも前とは格好が違う。朱殷しゅあん色の着物みたいな服を、片肌脱ぎみたいな感じで片側が見えている。その片側はサラシを巻いた肌──とかではなく、黒いシャツっぽい服を着てる。傍らにも服が置いてあって、そっちはフードのついたジャケットだ。和と洋のミックスって印象を受ける。ここが未来の地球なら、日本とかから来ているんだろうか、やっぱり。


 でも、なんでこんな格好をしているんだろうか。



「……もしかして、仕事?」

「お。惜しい」

「惜しいって?」



 休憩がてら、そのまま会話する事にして、テーブルを挟んだ向かいのイスに座った。おつまみみたいに乾燥肉を食べているのがよく見える。



「惜しいってのは、依頼をされた訳じゃないからだ」



 ちまちまと口に入れたりしながら、カジキは答えてくれた。依頼ではないけど、やはり仕事らしい。戦闘服みたいなものだろうか。



「依頼じゃない仕事……討伐とか、ですか?」

「メインではないな」



 質問を繰り返しているけど、惜しいところをさっきから掠めているらしい。言っても構わないなら正解を教えてほしい、と念をこめてじっと見つめる。通じたのか、カジキはけらけらと笑う。常時酒でも入っているような人だなあ。



「王都で盗難があったって話が回っててな」



 聖遺物の盗難の事だ。多分、仕事を請け負ってこなすこういう生業の人たちには一般市民よりは、先に情報が流されるのだろう。何せ国宝だし、報酬とかが出るのかも。思っていたより早い。でも、それはあの子もそうで。聞きつけて次の地へ急いでいるかも。私からは特徴を伝えていないから、捕らえるどころか、見付ける事さえまだ時間がかかりそうなのが救いだ。兵士達は街の中を駆け回っていたし。



「盗られた物を取り返したら報奨金が出るって話だ。しかも割といい額。遊んで暮らせるような大金じゃないが、まあ酒をもう一杯増やしたりツマミが豪華になる……っていう日々にしばらくはなりそうだから。ノッたってェワケだ」

「へえ。じゃあ、なんでここにいるんです?」



 彼と会ったのは王都の前に寄った町だ。位置的には真逆にあたる。こっちでは、別の国行きだ。



「盗んだ物がとんでもない物でね。そんな物を持って逃げるなら、目的次第ではあるが違う国に逃げるんじゃないかと思ってな。国境検問所さえ突破出来れば、あっちからすれば追われる心配はかなり減るしな」



 他国の盗人を捕まえるには、じゃ動きづらい。兵士とかは捕まえづらくなって、こういう職業の人が彼を追いにかかる。それだけでも人数的には減る。

 そもそも、報奨金が出るとはいえ、情報の少ないあの少年から取り返すってだけでもやる人は多くはないだろう。



 でも、この人はやる気だ。

 それに、私も理由は違えど彼は隣国を目指していると思っている。


 目的の人物は同じ。

 ──ちょっと、厄介かも。



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