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4-3







 あっさりとしたものだったけど、アイリスと別れを告げた。最近、度々一緒になっていたからか長い付き合いだったような気になる。また会えそうな気もするけど。出る時に挨拶しに行きたいけど、見つかるかな。



 ──と。

 成人の儀も終わり、アイリスと一緒に働き口を探すという手はなくなった。成人式の間食べていたからお腹も空いていない。城内に入って『古代の遺物』を見付けて見せてもらうのは明後日くらい。何をしようか。


 帰る方法を探す事に夢中になっていたけど、ダメだった時の事も考えて何か面白い物──娯楽として消費できる物を探しに行くのもいいかな。



「となると……オモチャ屋とか雑貨屋さん?」



 いくら王都でもゲーム屋とかがある訳もないだろうし、アナログな物を探すしかない。手芸とかアクセサリー作りとか作る系のものとか。何か日常を充実させられる程にハマるものがあるかも。


 ここでの私が生まれ育った地であるファヌエルでは牧歌的な感じ寄りだけど、基礎的な戦いとかも当たり前に教わる感じで一辺倒ではなかった。あと、私の周りで手芸やアクセサリーとか趣味で作ってる人はほとんど見なかった。職人さんとかは作ってたし、日々に必要な物とか親世代が作っている感じだ。



 でも、王都になら色々ありそう。

 三泊分ほどのお祝い金はもらったけど自分もお金は多少持ってきている。とはいえ、お土産買ったり宿泊や食事のために持ってきたお金なので、あまり使えないけど。



「とりあえず、商業エリアを順に見ていこうかな」



 見ていかない事には始まらない。お店だって数十軒はあるのだから。見るだけならお金を請求される事は少ないだろうし。


 ゆっくり休める時間が欲しくて堪らないのに、何も予定がないとそれはそれで困るあの感じにちょっとだけ急かされて。この世界の、のんびりとした土地で二〇年過ごしたけど、そういうところは変わらないらしい。



 大通りから順番にお店を見ていく。王都の方がやっぱり種類はあるみたいだけど、有名な物は揃えてあるけどローカルな物はないって感じかな。それでも、ファヌエルよりは全然あって。今までに見たことがない物も結構あったし物によってはしっかり取り揃えられていた。

 アクセサリーの制作に使える物とかも、本格的で。一通り揃ってる。でも趣味って言うよりは仕事って感じ。必需品である魔石をアクセサリーとして身につける事が日常的だからだから、事前にやり方を身につけておくためとかだろう。


 ハマれば、そのレベルまでガチれるだろうけど自分にハマらなかったから散財に終わってしまう。本格的なだけに値もそこそこ張っている。簡単には手が出せなさそうだ。


 手芸の方は王都でも数が少ない。でも、こっちも本格的な物は揃っている。アクセサリー作りよりは安価だ。

 あくまで一例として出した二つは、何とも言えない感じだ。



 王都で流行ってる遊びとかチェックした方が早いかもしれない。

 少し大通りかられて、小道の方に入る。住宅エリアの方に向かってみると、ざわついてる気がした。



──何だ? 人だかりとかは出来ていないっぽいけど……泥棒とか出たのかな。



 王都は人が多い分そういう事も割とあるのだろう。ある程度は仕方ない。

 そう思って、騒ぎのする方から遠ざかろうと進んでいっていた。



「えっ、わ!」



 突然、誰かが目の前に降ってきた。背丈は私と同じくらいの、オリーブ色のローブみたいなのを着ているけど、線が細いのはわかる。何かを抱えているっぽい膨らみはあるけど。



「あれ」



 落ちてきた人が振り返ってこっちを見る。白い髪に、やけに淡い色の瞳がなんか人っぽくなくて少しぞっとした。

 あどけない顔立ちで、少女ともとれるけどどちらかと言えば少年っぽい子だ。



「お姉さん、ぼくと同じだね」

「同じ……?」



 この少年と同じ物。背丈以外にあったかな。

 言われて自分の身体を見てみる。フェミニンとは遠い動きやすさ重視の、それでいてタイトすぎない服装。アクセサリーは魔石の物のみ。母譲りの栗毛。どれも、同じとはとても言い難い。


 それでも、少年はにっと笑った。



「ぼくも、過去から来たんだ」



 一瞬。何を言われたのかわからなかった。

 茫然としていると、少年はくすりと笑う。



「帰れるといいね、お姉さんも」



 その笑みは、私を嗤っているようでもあった。言葉だけを残して少年は走り去っていく。

 頭の中で彼の言葉が反響する。



──ぼくも、過去から来たんだ。

 ぼく、も? 過去?



 今まで見た情報も、タイミングを見計らったように頭の中を駆け巡っていく。この世界の名前は地球

で、古代の遺物と呼ばれるものは私の知っていそうなものだと。私は王都に来てからの調査で知った。



「ここは……未来の地球?」



 マンガやゲームや小説の舞台とされるファンタジー世界じゃない。ここは私の知る地球かもしれないのだ。



「いたぞ!」



 見付けてしまった答えに、足の感覚がせずに立ち尽くしてしまう。彼を追ってきただろう兵の声と複数の足音が後ろからしている気がする。現実感がない。



 ──私は、気付けば地面に押さえつけられていた。



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