アイリスに教えてもらったお店に入ると、席は空いていてスムーズに座れた。店にはいくつかメニューがある。写真とかはないので、文字だけで判断するしかないけど。でも、その書かれている物には知っている食材の名前が書かれていたから、それほど苦労はしなかった。
この世界では一般的な料理を注文した。腰を落ち着けたら余計にお腹がすいたから、出来るだけ重くないものを適当に選んだ。
料理はワンプレートで出てくるやつで、雑多に具材が置かれていた。映え的なものはない。でも、逆にその雑さが美味しそう。
実際、美味しかった。
味は素朴で、本来の味を活かした感じ。ビア国全体の料理が大体そんな感じっぽい。ビア国で生まれたから口に合うっていうのもあるけど、中でも味付けが絶妙な気がする。
──そんな訳で、ペロリと平らげてしまった。
お腹も満足したので、今日は前回できなかった本での調べ物の再開でもしよう。
そう決めて、前入った図書館のある通りに向かった。
大通りに一度出ると、すぐ近くに荷馬車が置いてあるのが見えた。木箱がたくさん積んである。木箱の中には果物とか野菜とかが見えるから、食材とか売るのかな。
木箱が積まれている前に女の子が立っている。真っ白な髪に青いメッシュがいくつも入っていて目が惹かれて見てしまう。商売をしている子らしくて中年ぐらいの男女と一緒に働いているみたいだった。木箱の近くをよく行き来してる。
「あっ!」
ついつい見ていたら、上の方に積まれた木箱がグラついた。反射的に駆け寄り、手を伸ばして木箱を手で支えた。
「キャッ」
木箱の中から果実が数個落ちてきて、それに驚いたのか、それとも私が突然やってきた事に驚いたのか女の子は短く声を上げた。私と箱を見上げて、傾いた木箱を見たのか慌てて支えたのちに一緒にお仕上げて安定させる。落ちた果物も一緒に拾ったけど、皮がしっかりした果物だからか傷一つなかった。落ちた分は他の人に女の子が見せに行きはしたけれど。
でも、私が立ち去るよりも早く戻ってきた。弾けるような笑顔を見せてくれる。何となく、活発で自然体な子なんだなあと思った。ちょっと眩しく感じるくらいには。
「助けてくれてありがとう! あ、これ良かったらどうぞ。美味しいよ」
積まれていない木箱の中から、サッと一つ何か取って私の手に握らせた。
それはリンゴサイズの物で、皮は薄くそのまま食べられる果物だ。若干の酸味はあるけど、甘くてよく食卓に上がる。私も割と好きな果物だ。
「今日から三日間は王都にいるから、気に入ったら買いに来てね」
他の二人の方を覗き込んでみれば、露店の準備をしていて、それが大分完成に近付いていた。日持ちの良い野菜や果物がよく目立つ。木箱の中も野菜とか果物が多いっぽいし、農家で売りに来てるのかな。
「あなたのところが育てた果物?」
「ううん。わたし達は商人だから、仕入れて売ってるだけで作ってはいないの」
農家ではなく商家のようだった。話を聞いて相槌を打てば、商人の子は話を続ける。
「わたし達、世界中を売り歩いているの。仕入れられる物がその時によって違う事も結構あるから、他の場所で見かけた時も寄ってみて。きっと見るだけでも楽しいから」
「そっか……寄ってみるよ」
「ありがとう、わたし達のお店をよろしくね!」
笑って、商人の女の子は去ろうとする。
それを見送ろうとしたけど、ふと気づいて声をかけて引き止める。私の声で振り返って、目を丸くしてこちらに笑いかけた。
「ソーニャ! わたしはソーニャ・フルリ! よろしくね」
「あ……私はイルベリ。またね」
店名を聞いたつもりが、名前が返ってきたので私も名乗っておく。お互いに名乗り合って手を振って私は図書館の方へと向かった。
──二回目の図書館への来館なので、今回は前回より手際良くいきたい。気を抜くとあっという間に時間が溶けてしまうから。とりあえず、数も数だから表題を見てもう少し絞ってみることにした。
決めて、とって、ざっと読んで、と繰り返してみた。
今回は前より数は読めて伝わっている伝承や歴史は知れた。けど、私が求めている情報らしきものはない。救世主のお話みたいなのがあったりはしたけど、それはこの星を再生した神様のお話みたいな感じだったし、英雄の話みたいなのもあったけど、それは現地の勇気ある少年な上に娯楽小説だし。転移とか転生みたいな話は今のところなかった。
「ふーっ……案外ないなあ」
研究論文とかでそういうのがあったりしないかなあ、と思いながら本棚を見る。研究結果とか過程とか、そういうのが本になったりはしていなさそうだった。そもそもビア国に学者は少なさそうだ。
──もう、ここまで来たら他国まで足を伸ばしてみるか?
ふと、違う国にまで行ってみようかとも思ったけど踏み切れない。それだけの情報がないのだ。
私の知る地球に近い物を感じる『古代の遺物』に関しては驚いたし、知りたいとは思う。けど、地球に関連があると確定したものじゃない。帰る方法なんていうのも見付かってないし。それがビア国では見付からないだけで他国にはある──かどうかもわからない。
王都に来るのもお金がかかって今まで来れなかったのに、そこまでの旅費はどうするのか、とか。現実的な問題もある。
どうしても二の足を踏む。
迷いながらも続けて本を読んでみたけど、夕陽が差し込む頃まで粘ってもやっぱり見付けられなかった。
仕方ない。たった数日の調査だし、そんなポンポンと上手くいく訳もないのだ。明日の事を考えて今日はもう休もう。
──明日はいよいよ、成人の儀だ。