情報集めは芳しくない結果と言える部分もありはしたが、めげてもいられない。地元ファヌエルにいた時は何もわからなかったが、王都で調べ始めた途端に気になるものを見つけたのだから。
歴史書によると『古代の遺物』として、昔の品が出土した物は領地の国によって保管されている。
それなら貴重な品だし、可能性があるとすれば城の中だと思い今日は朝からお城の方へと向かっていた。お城は奥の方にあるので、その道中にあった物を見ながら歩いていくと、やがてお城が見えてきた。
日本のお城とかなら見た事があるけど、西洋のお城を見るのは初めてだ。スマホがあれば撮影したい程に存在感がある。縦に長く、写真とかで見るような造りだ。時間の経過により、白い部分に汚れがあったりするのに、全然気にならない。それどころか、お城全体のオーラというか、そういうののお陰かキレイだなあと思う。
──でも、これでビア国は小国らしい。
荘厳さに圧倒されつつも、城門に近付いていくと、城門前に誰かが立っていた。
──確か……門番をしている兵士がいるって話だけど……
同乗していた兵士曰く、門番がいると聞いていた。城門前にはふたりの兵士の姿がある。でもその前にもう一人誰かいる。兵士にしては格好が違う。騎士って呼ぶ方が似合いそうな外見だ。
鎧に黒いマント。マントには紋章らしきものが見える。風も吹いていて、よく見えないけど多分この国の紋章ではない。
──他国の騎士が、城に来てる?
何か良くない事でも起こってるんじゃ。もう少しだけ近付いて、耳を傾けてみる。
「ブラックバーンより使者として参った。王へお目通り願いたい」
凛然とした女性の声。堂々とした佇まいをして、恭しく礼をする。騎士のよくあるイメージそのものって感じの人だ。
確かブラックバーンって聞こえた。
ビア国はどこの国とも割と穏便にやっている。周りは山と海だけど、小国だし、更に言うと武力重視の国ではない。そういうのもあって、仲良くやっているらしい。
ブラックバーン国とは特に良好な関係だと聞いた覚えがある。大きな式典とかではない時でも招かれているらしい。近代の歴史として学んだ感じではそうだった。関係は良好みたいだし、やり取りを交わしているのだろう。
物騒な感じではなさそうなので、ホッとしていると女性騎士は門番に通されて先に中に入っていった。それに私も続いて門の前に向かう。門番ふたりが私の正面の道を塞いだ。合わせて足を止める。
「お城の中を見たいんですけど……」
「今は一般開放しておりません」
「え」
今は一般市民は入れないらしい。明日に向けて準備中とかなのかもしれない。
「成人の儀の前後は警備を強化しており、成人の儀が終わるまでは一般開放をしていないんですよ」
もう一人の方がもう少し詳しく教えてくれた。
各地から大勢来るし、その中に不審人物が混ざっていてもおかしくはない。しかも開催場所が城内だから余計に警戒しているのだろう。
この町は広いけど、国中の今年成人した人達を一つの場所に集めて、催しを行う事が出来る場所なんてありそうで無い。
例の古代の遺物の現物があるか見たかったけど、入れないなら仕方がない。成人の儀の当日には入れる訳だし、終わり次第城内を探索すればいいや。
残念に思いながらも城門から離れたら、お腹が空いてきた。そういえば、朝食も食べずに向かってきたんだ。腹ごしらえでもしようかな、と商業エリアの方に足を向けた。
お店が並んで出来た道を歩いていく。
どこか食事処に入るのもいいけど、露店も捨てがたい。色んな理由で店舗を持てない人達が出している事が多い露店は、腰を落ち着けてゆっくり食事とかは出来ないけど手軽に食べられる。それにお祭りみたいで楽しい。お祭り価格じゃない出店って感じ。
「……選択肢が多すぎる!」
まだ朝だから、後からお店を出す人もいるだろうけど、それでも店が多い。成人式の前日という事もあるかもしれない。彼らにとっては稼ぎ時だろうから、なるべく早く出しているんだろうけど、食べる側からしたら選択し放題すぎて迷ってしまう。似たような物もあるけど、値段や量が違ったりもするから余計だ。
とりあえず重くない物を何個かもらうか、どこかお店に入ろうか。と、ひとまず選択肢を絞った時だった。ちょうど店から出てくるアイリスに出会った。
「……あれ?」
「あら」
王都にいれば、また出会うとは思ったけど思ったよりも早い再会だった。
それにしても、結構な数の荷物を両手いっぱいに持っているなあ。普段どれだけ買っているのかわからないけど、アイリスの買い物欲が爆発してるのはよくわかる。
「おはよう、アイリス。たくさん買ったね」
「いい物がいっぱいあったの! さすが王都よね」
欲しい物にたくさん出会ってしまったようだ。これだけ買っているなら、もう既に家を借りたり買ったりしたのだろうか。
現代と違って、家を買うとか借りるとかの敷居は低い。小国ではあるけど、土地が広くて余ってるのに人口は多くはないからだろう。私はまだ借りたり買ったりした事はないんだけど。借りるのと買うのはお金がいるけど、すごく安いと聞く。事前に許可さえもらえれば材料費だけで自分で建てられるから、自分で建てたって人とか結構多いらしい。
もっとも、王都だと自分で建てるような場所はもう余ってなさそう──今後どこか解体したら別だけど──だし、実質借りるか買うかの二択だろう。
それに、聞いたのは私の
──でも、借りるくらいなら出来ていてもおかしくはない。
「もう家も見つけたの?」
「……それが……まだなの」
目移りしちゃって、と恥ずかしそうに。けれど嬉しそうにアイリスは付け足した。
一緒に家探しをしようか提案しようと思ったけど、お腹が鳴りそうだ。
「ちなみになんだけど、アイリス。良いごはん屋さん知ってたりする?」
「あら。食事してなかったの? それなら、あそこが美味しかったわ」
そう言って、アイリスは角にあるお店を指さした。ここからじゃ中は見えないけど食事処である事を伝える大きなプレートらしき物がかかっているのは見える。もうあそこにしてしまおう。
「ありがとう、行ってみる」
「ええ、いってらっしゃい。またね」
また明日会えるだろうアイリスとはそこで別れる事となった。
アイリスはたくさんの荷物を持って小走りで去っていき、私は私で腹の虫を満足させるために教えてもらったお店に向かった。