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8-03 抗菌白ワンピチーム

 大講堂に入ると、お揃いの白ワンピに身を包んだ美女と野獣――じゃなかった。岡島夏美さんとマスク・ド・ミセリが、ステージ上で何やら話していた。私たちに気がつくと、夏美さんが大きく右手を振ってくれる。

 私とみひろ、リーラちゃんがステージに上ると、早速夏美さんが抱きついてきた!


「藍海ちゃーん、みひろちゃーん! 久しぶり~!」

「こんばんは。あ、君がリーラちゃんか。見覚えあるよ」


 夏美さん、相も変わらずお美しい限りで。装飾もほとんどない抗菌白ワンピを、どこかの高級ブランドのように可憐に着こなしてる。

 ミセリさんも意外と言っては失礼だが、大柄なだけでプロポーションは悪くなく、清楚なワンピースが似合わない事も……だめだ。頭全体を覆い隠す強面こわもてのマスクが、全てをぶっ壊してしまってる。

 みひろは二人にお辞儀で挨拶する。


「夏美さん、ミセリさん。お久しぶりです! お二人も、呼ばれていたんですね」

「なんであんたは、マスク被ったままなのよ……」

「なっはは! これはもう第二の顔だから、気にしないで」


 リーラちゃんの正直すぎるツッコミにミセリさんが笑うと、みんなもつられて笑い出す。

 私以外の四人は、お揃いのコイン・ペンダントを首から下げていて――ミセリさんは枠だけだけど――唯一コレクタじゃない私は、ちょっぴり羨ましく思えてしまう。

 みひろは全員の顔を見回すと、笑顔で声を弾ませる。


「こうして五人でお揃いの服着てると、アイドルみたいですね!」

「みひろちゃんはお嬢様だからこういう服着慣れてるだろうけど……私はちょっと、恥ずかしいかな」

「実は私も……」


 夏美さんがおずおずと手を挙げると、私もすかさず同意する。

 するとミセリさんが豪快に笑い飛ばした。


「大丈夫、私に比べれば三人ともよく似合ってるよ! でもなんと言ってもリーラちゃんが一番似合ってるかな。ちっちゃくて可愛くて金髪だから、どこか外国のお姫様みたいだ」

「それはどーいたしまして。ミセリこそ、そのカッコでプロレスすれば少しは人気出るんじゃない?」

「なるほど。純白のワンピースを鮮血に染めるマスク・ド・プリンセス……これは新しいかも!?」

「本気にすんなっ! リングに上がる前に、毎度毎度メイドに丸洗いされる気?」

「ううっ……十人のメイドによってたかって入浴介護されるのは、これっきりにしてほしいかな……」


 そのワンピースを着てるって事は、夏美さんとミセリさんも丸洗い儀式を受けたわけで。最初はやっぱり驚くよね。それにしても……ミセリさんの担当メイド、十人もいたんだ。身体大きいもんなあ。

 女子五人、『メイド丸洗いの刑』の話題でひとしきり盛り上がる。夏美さんはミセリさん、リーラちゃんと初対面だったけど、持ち前の明るさと共通の話題で、すぐに打ち解けたようだ。

 雑談もひと区切りついたところで、私はふと気がついた。


「あれ? そういえば今日、壁際オジサンいないんだね」

「え、なにそれ?」


 無邪気に訊いてくる夏美さんに、私は大講堂壁のアクリル板を手で示した。


「いつもはあのアクリル板の向こうに、ワイングラス片手にこっちを覗き込んでるオジサンが、わんさかいるの」

「なにそれ……怖っ!」

「金持ちのやる事は、分からないねぇ……」

「……キモ」


 やはりオジサン、女子ウケ悪し。まぁあの状況が異様なのは確かだけど。

 とはいえ、今では壁の向こうに誰もいない事を逆に不自然に感じてしまう。


「そうですねぇ……。夏美さんミセリさんもこの場に呼ばれたわけだし、ジルコ以外のコレクタが全員揃ってるという事で、いよいよ本番を迎えるからかもしれません」


 本番? みひろに訊き返そうとしたタイミングで、舞台袖から見覚えのある男性が現れた。

 長髪を首後ろの髷で結い、細身の濃紺スーツを颯爽と着こなすイケメン――葉室財閥コイン探索班のリーダーにして財閥御曹司、八雲さんだ。


「こんばんは、みなさん。本日はお越し頂きありがとうございます」

「え……あ、いえ、こちらこそぉ」


 夏美さんは、ふわふわボブの毛先を指で弄りながら、高めの甘ボイスで返事する。

 その隣でミセリさんは、なんだこの吹けば飛びそなモヤシっ子はと言わんばかり、冷めた目で見つめてる。

 分かりやすすぎるぞ、この二人のリアクション。

 みひろは八雲さんに挨拶すると、振り返ってみんなに紹介した。


「この方は、葉室八雲さん。コレクタの皆さんを見つけ出した葉室財閥コイン探索班のリーダーであり、次代の葉室財閥総帥になられるお方です」

「葉室って……もしかして、みひろちゃんのお兄さんなの!?」


 驚く夏美さんに、八雲さんは少し恥ずかしそうに答える。


「はい。私とみひろは、母は違えど父は同じ――いわゆる異母兄妹なんです」

「はううっ……岡島夏美です。その節は妹さんにお世話になりました、これからもよろしくお願いします」

「ええ。よろしくどうぞ、夏美さん」


 夏美さんの両眼に、ハートマークとドルマークが透けて見えるのは私だけだろうか……。

 こんな事なら<タクトシュトック>回収時、八雲さんに会わせておけば一発解決だったんじゃ?

 脳内恋愛シミュレーション中であろう夏美さんの横から、ミセリさんが前に出た。


「マスク・ド・ミセリこと、プロレスラーの岩見瀬里奈です。結局コイン取られちゃったのに、ウチの団体のスポンサーになって頂いて、ホント感謝してます。ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ。プロレス興行のスポンサーというのは、長い歴史を持つ葉室財閥にとっても初めての挑戦です。得難い経験をさせてもらってます」


 ここにいる四人のコレクタの中で、ミセリさんだけコインを持ってない。ミセリさんは申し訳なく思ってるみたいだけど、最初から持ってない私としては、ちょっぴり親近感湧いちゃうかも。

 とはいえ彼女のコイン――嗅覚の<ガンダルヴァ>はアマルガム陣営にあるわけで。こっちはジルコの<ミダスタッチ>を持っている。今夜の話し合いは、これらのコインをどうするかの話になるんだろう。


「私も会うのは、これが初めてですよね? 八雲……お兄ちゃん?」


 最後にリーラちゃんが小首を傾げ、舌っ足らずな声で八雲さんに話しかける。

 邪気のない子供の笑顔に、八雲さんも思わず笑みが零れる。

 リーラちゃんはホント、猫被るのうまいし、実にあざとい。


「ああ、そうだね。リーラちゃん、アマルガムの拠点情報を提供してくれた事、とても感謝しているよ。君のおかげで、あと一歩というところまで追い詰める事ができたんだから」

「そうなんですか?」


 目を瞠ったみひろが訊き返すと、八雲さんは仰々しい所作で手を前に振り、大講堂一番前の席を指す。


「今日はその説明のために、こうしてみんなに集まってもらったんだ。まずは座ってくれないか?」


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