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8-02 二人の行方

 一週間後。

 私とみひろ、リーラちゃんは、葉室財閥のでっかいお風呂で三人裸で川の字となり、メイドさんによる全身丸洗いの刑に処されていた。


「なんかこれ、懐かしい~! こうやって身体洗ってもらったの覚えてるかも!」


 どうやらリーラちゃんは葉室財閥にいた頃に『メイド丸洗いの刑』を経験済みだったらしい。特に恥ずかしがる様子もなく、小さな身体をメイドさんたちに委ね、はしゃいでいる。

 みひろはもちろん、私もだいぶこの儀式に慣れてきたからいいけどさぁ……。八雲さんも話があるならわざわざ屋敷に呼び出さず、リモートで済ませてくれたらいいのに。

 私はリーラちゃんを飛び越えて、反対側にいるみひろに話しかけた。


「それにしても、三人揃って来てほしいって何の話かな? コインもコレクタもアマルガムのアジトも、所在は全部分かってるんだし……私たち回収班が必要な事ってなくない?」

「そうですねぇ。今は八雲さんチームもアマルガムを追っていて、お忙しいはずですし」

「もしかして……ついにママとジルコが捕まったとか?」

「それだったらいい話ですし、前もって教えてくれるんじゃありませんか?」


 全てのコインとコレクタの所在が分かった今、八雲さん率いるコイン探索班は、葉室警備特殊部隊の司令塔――名前改め、コイン奪取班となっていた。リーラちゃんから得た情報を元に、都内に点在するアマルガム拠点を特殊部隊で包囲、一斉襲撃を開始したのだ。

 あわよくばママとジルコの二人と、彼らが所持する<ガンダルヴァ>のコインを確保しようとするも、そう上手くはいかず。拠点で捕らえる事ができたのはアマルガムに雇われた外国人傭兵ばかりで、二人の姿は影も形もなかった。

 傭兵たちの情報によると、アマルガム日本支部に所属してるのはママとジルコの二人だけ。それにどういうわけか、二人は葉室警備の襲撃を事前に察知してるらしく、襲撃直前に拠点から姿をくらましたと言う。

 そのため葉室警備は、内部にアマルガムのスパイが紛れ込んでると疑っており、今はそっちの特定の方に躍起になってると、伊織さんが教えてくれた。


「いよいよ私たちも、葉室警備の特殊部隊に組み込まれる……とかかな?」

「それはないでしょう。彼らはほぼ軍隊で、そこらの武装テロ組織よりよっぽど訓練されています。素人の私たちが作戦行動に参加したら、逆に足を引っ張る形になっちゃいますよ」


 頭上を飛び交う会話に、リーラちゃんの楽しげな笑い声が加わる。


「きゃははっ……軍隊ならなおさら、ひひっ、もう一週間だよ? いまだに万智子さんもジルコも捕まらないって、うふふっ……ありえなくない?」


 二人のメイドさんに高級ボディミルクを塗りたくられたリーラちゃんは、くすぐったいのか必死で笑いをこらえてる。それにしても十歳の女の子に、スキンケアは早くない?


「いくらアマルガムが海外で有名なテロ組織でも……んっ! 日本で活動してる工作員は二人だけ。少なくとも一枚はコイン持ってるわけだから、あはぁんっ……葉室財閥は単独で万能薬を造れない。この状況でぇんっ……なんで国外に逃げないの? どうせ勝ち目がないんならぁ……んんっ、一旦日本から引き上げて、態勢を整えてからまた奪いにくればいいだけ……いぎひぃいっ!?」


 子供とは思えない深慮と、入り混じる嬌声。リーラちゃん……君は一体何をされてるの?

 その疑問はおいとくとして、リーラちゃんの言う事はもっともだ。

 私は答えに窮し考え込んでしまうも、みひろはうつ伏せでリラックスしながら、リーラちゃんに応える。


「おそらく海外のアマルガム本体に、コイン状況含め自分たちの失態を素直に報告できないのでしょう。なにがなんでも五枚揃えて万能薬を手に入れないと、アマルガム本体からなんらかの処罰が下る……とか。しょせん非合法の武装組織ですから。失敗イコール死に直結しても、おかしくはありません」

「うーん……そもそもなんで私のママが、そんなおっかないテロ組織の日本支部長なんてやってると思う? あの人ずっと専業主婦で、働いた事なんて一度もなかったはずなのに……。リーラちゃん、アマルガムにいた時、私のママからなんか聞いてない?」

「私はほら、んんっ……、アマルガムが葉室財閥に敵対してたから仲間になっただけでぇ……。ジルコとは色々話したけどっ、万智子さんとはほとんど会話、しなかったかなあっ、んんっ!」


 だからなんで、色っぽい声出ちゃってるのよ。しかもちょっと受け入れ始めてるし。

 ここで入浴タイムは終わりとなり、私たち三人はそれぞれ脱衣所で抗菌白ワンピに着替え、いつもの大講堂に案内された。


* * *


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