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6-12 母

「よかろう」


 パソコンに映った厳めし顔の葉室久右衛門さんは、私のお願いをあっさり聞き入れた。

 それもそのはず。客間でテレビ会議してるおかげで久右衛門さんの画面には、お祖母ちゃんの遺影と遺骨もバッチリ映ってるわけで……これで覚えてないとは、言わせませんよぉ!?

 私の隣に座るみひろは、画面に向かって弾んだ声を上げる。


「本当ですか!? ありがとうございます、お祖父さま!」

「ただし、コインはこちらで預かる。実験に付き合ってもらう時は伊織、お前が連れてこい」

「かしこまりました。寛大なご判断、感謝致します」


 まさか本当に私が言った通り、客間で電話会議するだけで久右衛門さんがオッケー出すと思ってなかったみたいで、みひろと伊織さんのテンションがちょっとおかしい。放っておいたら小躍りしそうまである。

 心の中でお祖母ちゃんに感謝しつつ、私も久右衛門さんに礼を言う。


「本当に、ありがとうございます」

「構わぬ。元よりこの程度の事で、返せる貸しではないのだからな」

「じゃあ次は、コインが五枚揃った時の約束ですね」

「ふむ……いずれにせよ今回の回収で視覚、聴覚、触覚、味覚と、四枚のコインが手に入った。最後の一枚は、アマルガムに乗り込んで手に入れるしかないだろう。リーラから、有益な情報を聞き出しておけ」

「リーラちゃん、ここに連れてきましょうか?」


 葉室財閥と聞いた途端、感情的になってしまうリーラちゃんには、私の部屋で待機してもらってる。

 でも、この家で暮らしていい許可が出た今なら、少しは雪解けしてくれるかもしれない。


「いらん世話を焼くな。下手に儂と話せば、へそを曲げてしまいかねんぞ」


 久右衛門さんの反応を見たみひろは、意を決したように口を開いた。


「お祖父様……リーラちゃんが葉室家を放逐されたのは、彼女が三歳の時です。マルティナおば様も既にお亡くなりになられているようで、リーラちゃんが母親からどんな説明を聞いていたかわかりません。私たちから、真相をお話してもよろしいでしょうか?」

「リーラについては、全てお前に任せる。そろそろ儂は失礼する……伊織、この会議の内容も報告書に含めておけ」

「かしこまりました」


 そこで通信は途切れ、黒い画面に戻ってしまう。相変わらずせっかちな爺さんだ。


「ねぇ、みひろ。真相って?」

「そんな事より、藍海……」

「なに?」

「貸しイチって、なんの事ですかっ!? いつの間にお祖父様と、そんなに仲良くなってるんですか!?」

「そうですよ! 妙に久右衛門様も距離縮まってる雰囲気出してましたし……何があったか教えて下さい!」


 みひろに抱きつかれ、伊織さんに詰め寄られ、私は先日お線香をあげにきた久右衛門さんとその秘書さんについて白状した。

 別に秘密だと言われたわけでもないし、話しそびれてたわけでもあるし。

 二人は私の話を聞いて心底驚くものの、久右衛門さんの事より、一緒に来てた秘書さんについて質問がガンガン飛んでくる。


「ちょっと待ってよ。どうして秘書の人が、そんなに気になるわけ!?」


 伊織さんはタブレットを取り出して、何やら調べ始めている。


「ありました。玄関の正面モニタに映ってます」


 一時停止した久右衛門さんと秘書さんを映した映像を、みひろは食い入るように見つめる。見つめ続ける。

 いつの間にかトイレに降りてきたリーラちゃんが、客間に入ってきた。


「あれ? これって依子よりこおばさんじゃないの?」


 タブレットを横目で見て、興味なさそうに呟いた。

 私は顔を上げ、誰とはなしに問いかける。


「依子おばさんって、誰?」


 みひろは答えない。

 伊織さんも答えない。

 代わりに、リーラちゃんが答えてくれた。


「え……みひろお姉ちゃんの、お母さん」


 病死していたはずの、みひろのお母さんだと。


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