「ホントホント。ウチのママって変な人だったから、PTAで浮きまくってたみたいで。みんなママの悪口、自分の子供に言って。その子がわざわざ私に言ってくるんだよ」
親が自由でも、その子供が自由とは限らない。
「私、ママの事大好きだったからさ。友達って思ってた子が、よく知りもしないでママの悪口言ってくるの、本当にイヤだったよ」
「お姉ちゃんはそういう時……どうしたの?」
「ママの悪口言うヤツ、片っ端からぶん投げてやった。私、小さい頃から合気道やってるから、強かったの」
両腕に力こぶを作って笑うと、リーラちゃんもつられて笑ってくれる。
「でもそれが原因で、クラス全員から無視された。もう学校行きたくないなーって思ってたら、ママがね……ガッコ行ってきなーって」
元はと言えば自分が原因だってのに、そんなのお構いなしなんだから。
でもそういうところがママらしいっていうか自由っていうか。
個人主義が行き過ぎて、昔から子供と自分は別って、分けて考える人だった。
だから、今も……。
「当時の私は、家に帰れば大好きなパパとママがいたし、道場に行けば可愛がってくれるオジサンや、同年代の友達もいた。だからもう小学校は卒業するだけって、割り切って通った。そしたら気づいたんだ。私、クラスの子と話してて、楽しかった事なんて一度もないって」
あの頃は小学五年生。クラスの女子は恋愛とかオシャレとかアイドルとかに夢中で、そういうの一切興味なかった私は、壁打ちの壁にならざるを得なかった。ボールをぶつけられたら、なんとなく相槌で返す役。
へぇ、そう、ふぅん、そうなんだ、いいね、いいんじゃない、うん、あ先生来た。
そりゃあ楽しいわけがない。
「それで中学に上がったらまた同じ事になるのかなーって思ってたら、全然違くて。恋愛脳女子に絡まれなくなった。少なかったけどクラスに友達もできたし、親から聞いた悪口を言う子なんて一人もいなかった」
リーラちゃんはいそいそとランドセルを下ろすと、ベンチに座る私の膝を跨いで乗ってきた。
私が驚いてると向かい合わせで微笑んできて……普段お母さんに、こうやって甘えさせてもらってるのかな?
私もお母さん気分になってきちゃって、リーラちゃんの背中をぽんぽんしてあげる。ぎゅってくっついてくるのが可愛い。
「だからリーラちゃんも、中学生になったらクラスに馴染めると思うよ。今は皆が子供なだけで、ちょっと成長すれば放っておいてくれるから」
リーラちゃんは「うん」と小さく頷いた。そのまま私に抱きつくと、頬にちろっと、不思議な感覚が走る。
えっ? と思ったと瞬間、リーラちゃんはパッと離れ膝から降りてしまった。
「ありがと、あいみお姉ちゃん。私、ガッコ行ってくる」
「あ、うん。一人で大丈夫?」
「大丈夫、バイバイ!」
リーラちゃんはランドセルを背負うと、小さく手を振り駆け出した。
公園の入口で、胸元まであるツインテールを躍らせ振り向くと、もう一度大きく手を振ってくれる。
私が手を振り返すと、三つ編みをなびかせて走っていった。
私の話聞いて、学校行く気になったのかな? そうだとしたら嬉しいな。
それに――左頬を撫でてみる。可愛い金髪ロリっ娘に、ほっぺにキスまでしてもらったんだから、私の方が元気もらったようなものだ。
「でも、あの子……」
ハーフだからか、妙にスキンシップ激しめな子だったな。
まさかさっきの男子三人にこういう事……してないよね!?
リーラちゃんが去って行った公園出口を振り返ると、スマホが小刻みに揺れた。
画面を見ると、伊織さんからメッセ着信。なになに。
『おはようございます。今朝はちゃんと起きられましたか? 私と伊織は、今車で学校に向かっていて、もうすぐ着くと思います』
メッセージを書いたのは、どうやらみひろのようだ。
「やっば。私も急がなきゃ」
スマホで時間を確認すると、私は小走りで学校に走っていった。
* * *